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快活なSMの女王様から、ふしだらな毒母に。奔放さを物語るタンゴを踊るシーンはトラブルを乗り越えて

水上賢治映画ライター
「ホテルアイリス」に出演した菜 葉 菜   筆者撮影

 廣木隆一監督の手による映画「夕方のおともだち」でSMの女王様、ミホを演じたことが記憶に新しい、菜 葉 菜。

 同作で村上淳とともに主演を務め、SM嬢という難役に挑んだ彼女については、先日まで全四回(第一回第二回第三回第四回)と番外編にわたってのインタビューを届けた。

 それに続いて、今度は出演作「ホテルアイリス」に関するインタビュー。

 北京オリンピック期間中に流れた「クボタ」のCMも話題を呼んだ彼女だが、実は今年、8本の出演映画(主演作が3本)の公開が決定済み!

 そのうちの1本である、奥原浩志監督作品「ホテルアイリス」では、主人公・マリをある種、支配する毒のある母親を演じている。

 芥川賞作家、小川洋子の原作を映画化した同作について、菜 葉 菜に訊く。(全二回)

奥原監督と一緒に母親役を作っていった感覚があります

 前回(第一回)に引き続き、演じたマリの母親についての話を続ける。

 役について奥原監督となにか話したことはあっただろうか?

「前回少し話しましたけど、『こんな派手なルックスで大丈夫?』とはじめ、わたしは思っていたわけですけど、ホテルアイリスのあの場に身を置いたら、見事にマッチしていることに気づきました。

 そこからは、もう奥原監督についていけば『間違いない』と思ったので。

 ほんとうに奥原監督を信じてついていくだけでしたね。

 奥原監督には目指す作品の世界がある。それははっきり言ってしまうと、奥原監督自身にしかわからない。

 だから、わたしは監督が望むものになるように、努力するだけでした。

 ただ、勘違いしてほしくないのは、それは決して監督の世界を一方的に押し付けられているわけではないこと。

 奥原監督は目指すところをきちんと指示してくれる。それをわたしがいろいろと汲んで考えて、演じる。それに対して、奥原監督がジャッジする。

 そういうフェアなやりとりで進んでいくので、わたしとしては奥原監督と一緒に母親役を作っていった感覚があります。

 その結果、この母親役をまっとうすることに集中できて、ひじょうに充実した時間でした」

「ホテルアイリス」に出演した菜 葉 菜   筆者撮影
「ホテルアイリス」に出演した菜 葉 菜   筆者撮影

重要な意味を持つタンゴを踊るシーン、

直前に思いっきり足を捻挫してしまったんです

 劇中、母親がタンゴを踊るシーンがある。このシーンは母親のダークかつ奔放な性格をある意味表していて強烈な印象を残す。

 裏話になるが、このシーンはなかなか大変だったそうだ。

「当初から、タンゴを踊るシーンがあることは決まっていてので、頑張って練習していたんです。

 ところが直前に思いっきり足を捻挫してしまったんですよ(苦笑)。しかも、けっこうひどい捻挫で、撮影に間に合うかどうかという状況になってしまって……。

 撮影当日ももう『こわごわ』といった感じだったんです。

 タンゴの先生役の方に教えてもらったんですけど、『タンゴを習いにいっている設定なので、そこまでうまくなる必要はないから』と言われたものの、やはり一生懸命練習したのである程度きちんとみせたい。

 ただ、完治していないので、へたに無理をすると取返しのつかないことになりかねない。

 あのシーンは、自身の気持ちと身体がせめぎ合いながら演じていた感じです。

 ほんとうにけっこう頑張って練習したんですよ。

 実は、けっこう撮影したんですけど、実際はちょっとしか使われていないんですよ。それがちょっと悔しい。

 ただ、あのシーンはみなさんの記憶に残るようなので、いまは頑張ってよかったなと思っています」

「ホテルアイリス」より
「ホテルアイリス」より

『この映画は、こういう映画』って説明できないんです

 完成した作品についての感想をこう明かす。

「正直なことを言うと、いまもまだ紐解けていないといいますか。

 マリと翻訳家の男の関係にしても、二人でしていた行為にしても、そもそもこの物語も現実なのかそれとも幻想なのかわからないようなところがある。

 どう解釈していいかわからないところがある。

 ほんとうに観た人によって、解釈がまったく異なる。

 その関係の意味すること、その行為の真意がまったく違ってくるかもしれない。

 『この映画は、こういう映画』って説明できないんですよね。

 それが現段階の感想です」

みんなが笑顔で映画作りに臨んでいる現場って、いつ以来だろう

 今回の作品は、台湾の金門島で撮影された。この現場での経験がひじょうに貴重な体験になったと明かす。

「ほとんどが台湾の若い映画スタッフだったんです。

 なにが良かったかというと、みんな楽しそうなんです。毎日、楽しそうにお仕事をしている。

 こんなにみんなが笑顔で映画作りに臨んでいる現場って、いつ以来だろうと。

 もう記憶にないぐらい、日本ではなかった。

 みんな和気あいあいで一緒にもの作りをしているような雰囲気がすごくあるんです。

 ちょうどコロナ禍の前だったので、みんなでいつも一緒にご飯を食べて、一致団結して撮影に臨むみたいな感じがすごく楽しかった。

 いや、真剣勝負の現場もいいんです。けど、こういうなんかみんなが楽しんじゃっている映画作りがあってもいいよなと思いました」

「ホテルアイリス」より
「ホテルアイリス」より

【「夕方のおともだち」菜 葉 菜インタビュー第一回はこちら】

【「夕方のおともだち」菜 葉 菜インタビュー第二回はこちら】

【「夕方のおともだち」菜 葉 菜インタビュー第三回はこちら】

【「夕方のおともだち」菜 葉 菜インタビュー第四回はこちら】

【「夕方のおともだち」菜 葉 菜インタビュー番外編はこちら】

【「ホテルアイリス」菜 葉 菜インタビュー第一回はこちら】

「ホテルアイリス」ポスタービジュアル
「ホテルアイリス」ポスタービジュアル

「ホテルアイリス」

監督・脚本:奥原浩志

原作:小川洋子

出演:永瀬正敏、陸夏(ルシア)、菜 葉 菜、寛一郎、マー・ジーシャン、

パオ・ジョンファン、大島葉子、リー・カンション

全国順次公開中

ポスタービジュアル及び場面写真はすべて(C)長谷工作室

映画ライター

レコード会社、雑誌編集などを経てフリーのライターに。 現在、テレビ雑誌やウェブ媒体で、監督や俳優などのインタビューおよび作品レビュー記事を執筆中。2010~13年、<PFF(ぴあフィルムフェスティバル)>のセレクション・メンバー、2015、2017年には<山形国際ドキュメンタリー映画祭>コンペティション部門の予備選考委員、2018年、2019年と<SSFF&ASIA>のノンフィクション部門の審査委員を務めた。

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