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1日10時間以上、週6日働き、僅か月100ユーロ。実話を基に縫製工場の女性ワーカーたちの闘いを描く

水上賢治映画ライター
「メイド・イン・バングラデシュ」のルバイヤット・ホセイン監督

 わたしたちが日々着ている、いわゆるファストファッションの服は、なぜ安価なのか?

 詳しくは知らなくとも、低賃金で働かされている労働者のもと成り立っていることぐらいはなにかしらで耳にしたことがあるのではないだろうか?

 本作「メイド・イン・バングラデシュ」は、<世界の縫製工場>といわれるバングラデシュのとある工場で働く女性の物語。

 実話をもとに、劣悪な労働環境を変えようと組合を作って経営者と相対した女性労働者たちの姿が描かれる。

 その物語は、ファストファッションの裏側にある現実のみならず、男性上位社会にあるバングラデシュの女性の立場までを浮かび上がらせる。

 名もなき女性労働者から自国バングラデシュと世界の現実を見据えたルバイヤット・ホセイン監督に訊く(第一回第二回第三回)。(第四回)

「メイド・イン・バングラデシュ」のルバイヤット・ホセイン監督
「メイド・イン・バングラデシュ」のルバイヤット・ホセイン監督

女優たちには、実際に工場で働いている人たちの1日を体験してもらいました

 過酷な境遇にいる女性たちの姿を描いた本作だが、忘れてならないのは女性労働者を体現した役者たちの存在にほかならない。

 演じた女優たちとはどんなことを話し合ったのだろうか?

「今回の映画を制作するに当たってはオーディションを開いて、その中で女優たちを選びました。

 作品に臨むにあたっては、何度もワークショップを行いました。

 その中で、たとえば、工場で働いている人たちの1日を体験してもらいました。

 たとえば、朝に工場まで歩いていって、仕事をして、夜また歩いて帰る。

 休み時間に彼女たちがどんなことを話して、どのように仕事をしているのかを、しっかり学べる環境を作って、ワークショップという形で何度も何度もリハーサルを重ねました。

 工場で働く女性たちの気持ちや肉体的な疲労など、体に叩き込んでほしかったのです。

 で、実際に撮影するに当たっても、細かくシーンごとにリハーサルを重ねてリアリティを追求しました。

 それから、このストーリーの基となったダリヤと一緒に時間を過ごす時間をもってもらいました。

 ダリヤにミシンの踏み方から、正しい縫製の仕方まで、手取り足取り、細かく指導してもらうとともに、たくさん話をしてもらったおかげで、演じ手の女性たちは工場で働く女性の実情を深く理解することができました。

 あと、主人公のシムを演じたリキタ・ナンディニ・シムさんに関しては、ちょっと過酷だったのですが、2カ月ほど家族から離れてもらいました。

 シム役のモードに入ってもらうために、撮影の2カ月前から家族から離れてもらい、ひとりで暮らしてもらいました。

 幼くして家を飛び出て、ひとりで自分の道を切り拓いたシムのメンタルの準備をしてほしかったので、そういう状態に一度身を置いてほしかったのです。

 大変だったと思うのですが彼女はほんとうに乗り越えてくれて、よく演じてくれたと思います」

「メイド・イン・バングラデシュ」より
「メイド・イン・バングラデシュ」より

撮影は、名手サビーヌ・ランスラン

 もうひとつ目を引くのは撮影をマノエル・ド・オリヴェイラ監督の「アンジェリカの微笑み」などを手掛けるサビーヌ・ランスランが担当していること。

 どういう経緯で彼女が手掛けることになったのだろうか?

「本作のプロデューサーがフランスの方なのですが、まず映画を撮るに当たって、撮影監督は女性でお願いしたいと相談しました。

 働く女性たちの心情に寄り添い、理解してくれる形で撮れるのは、やはり女性のカメラマンだと思ったんです。

 それで、紹介された2人のうちのひとりが、サビーヌ・ランスランでした。

 実際にパリで二人のカメラマンに会ったのですが、サビーヌと話をしたときに、ひじょうに安心したといいますか。

 ひとりの女性として向き合ったときに、こちらを受けとめてくれる包容力があって信頼もできる。

 『彼女だ』と直感的に思って、お願いしました」

 実は、ルバイヤット・ホセイン監督はちょっと日本と縁がある。そのこともあって、今回も公開に合わせての来日を望んでいたがコロナ禍で叶わなかった。

大好きな日本で公開されることはほんとうにうれしい

 最後にこう言葉を寄せる。

「ほんとうに日本に行きたかったので、残念でなりません。

 実は、わたし一度日本に行ったことがあるんです。

 伯父が日本の岡山に滞在していたことがあって、12歳のときに妹と一緒に日本を訪れました。

 そのとき、とにかく日本のみなさんが優しくていろいろとよくしてくれたことがいまだに記憶に残っていて。

 大人になってからもずっと『日本にいつかいきたい』と思っているんですけど、なかなかチャンスがないままここまできています。

 今回も叶わなかったのですが、次の作品を作って日本での上映が決まって、訪れられたらと思っています。

 ただ、今回、わたしの映画をまずは日本に届けることができました。

 大好きな日本で公開されることはほんとうにうれしいです。ひとりでも多くの方にみていただいて、感想をいただけばと思っています」

【ルバイヤット・ホセイン監督インタビュー第一回はこちら】

【ルバイヤット・ホセイン監督インタビュー第二回はこちら】

【ルバイヤット・ホセイン監督インタビュー第三回はこちら】

「メイド・イン・バングラデシュ」より
「メイド・イン・バングラデシュ」より

「メイド・イン・バングラデシュ」

監督・脚本・製作:ルバイヤット・ホセイン

出演:リキタ・ナンディニ・シム、ノベラ・ラフマンほか

岩波ホールほか全国順次公開中

詳細は公式サイトへ http://pan-dora.co.jp/bangladesh/

写真はすべて(C)2019 – LES FILMS DE L’APRES MIDI – KHONA TALKIES– BEOFILM – MIDAS FILMES

映画ライター

レコード会社、雑誌編集などを経てフリーのライターに。 現在、テレビ雑誌やウェブ媒体で、監督や俳優などのインタビューおよび作品レビュー記事を執筆中。2010~13年、<PFF(ぴあフィルムフェスティバル)>のセレクション・メンバー、2015、2017年には<山形国際ドキュメンタリー映画祭>コンペティション部門の予備選考委員、2018年、2019年と<SSFF&ASIA>のノンフィクション部門の審査委員を務めた。

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