1977年にスタートし、黒沢清、李相日、荻上直子、石井裕也ら160名を超えるプロの映画監督を輩出してきた<ぴあフィルムフェスティバル>(※以下PFF)。

 映画の未来を担う才能が集う場所であるとともに、映画という文化を未来へとつなぐ場所でもある同映画祭は、昨年9月に東京で開催され、メイン・プログラムのコンペティション<PFFアワード2021>の各賞が発表された。

 ただ、PFFの開催は東京のみで終わりではない。

 年が明けたこれから各地方での開催へと入り、東京開催とはまたひと味違ったラインナップのプログラムを届ける。

 現在開催がスタートした京都開催について、荒木啓子PFFディレクターに話を訊く。(全三回)

まったく未知の才能を秘めた監督との出会い、まったく未知の作品との出合い

 前回(第一回)は、いま一番知ってほしい監督として特集の組まれた<ナワポン・タムロンラタナリット監督特集~タイからの新しい風~>についての話を訊いた。

 今回は、PFFのメイン・プログラムである<PFFアワード2021>について。

 PFFアワードは、自主映画のコンペティション。これまで本アワードでの入選及び入賞をきっかけに、数多くの才能が映画作家として羽ばたいている。

 個人的なことを言わせてもらえれば<PFFアワード>の魅力は、まったく未知の才能を秘めた監督との出会い、まったく未知の作品との出合いにほかならない。

 さまざまな面で未熟な部分はあっても、なにか未来を予感させるような才能と新たな時代を感じさせる作品の誕生に居合わすような楽しみがある。

 今回の<PFFアワード2021>で489本を数えた応募作から入選したのは18作品。

 まずは公式サイトでの解説文や監督のプロフィールをみてほしいのだが、「当時高校生だった監督の作品」「母性についてのアニメーション」「原発再稼働の是非を巡る県民投票のドキュメンタリー」など、実に多様な作品が並ぶ。

 荒木PFFディレクターは今回の<PFFアワード2021>の入選作について「まったく新しいセンスで映画を作ってる人がいっぱい集まっている印象」と明かす。

俳優の池松壮亮も大絶賛した東盛あいか監督の「ばちらぬん」

 その中で昨年の東京開催での受賞作を中心に触れるが、はじめに見事にグランプリに輝いたのは、東盛あいか監督の「ばちらぬん」

 タイトルの「ばちらぬん」とは与那国語で、「忘れない」という意味を持つ。その与那国語は消滅危機にあるという。

 与那国出身の東盛監督は、その故郷の消えつつある言語や文化、そこで生きる人々と自らの家族に想いを寄せ、この土地に生まれ育った自身の中に刻まれた記憶を辿る。

 与那国の歴史や文化、風土から東盛監督の個人的な記憶までが伝わってくる作品は、なにかこちらの忘れかけていた思い出や記憶も呼び覚ます不思議な魅力がある。

 荒木PFFディレクターはこうコメントを寄せる。

「東盛監督は、俳優としても現在活動中。『ばちらぬん』でも主演を務めています。

 最終審査員を務めてくださった俳優の池松壮亮さんも大絶賛した作品です」

「ばちらぬん」より 提供:ぴあフィルムフェスティバル
「ばちらぬん」より 提供:ぴあフィルムフェスティバル

東京藝術大学の教授陣も注目する才能

 次に審査員特別賞に輝いた「豚とふたりのコインランドリー」は、台湾の蘇 鈺淳(す・ゆちゅん)監督の作品。

 裏話になるが、東京藝術大学映像研究科映画専攻の編集領域に在籍していた蘇監督が、同大学の監督領域へ編入するため、つまり受験用に作った作品になる。

 場所はコインランドリーだけで、登場する人物は、ブタのぬいぐるみなどを洗いに来た男と、そこで誰かを待つ女のみ。

 偶然居合わせた二人のやりとりが22分のワンカットで描かれる。

 たったこれのみなのだが、その短い時間、限られた空間、二人の対話から、思いもしない女性の過去と現在、互いの性格から、この町に流れる空気や雰囲気までもが浮かび上がる。

 何気ない日常のひとコマが、とても愛おしく、とても大切な時間に思えてくる作品になっている。

 荒木PFFディレクターはこうコメントを寄せる。

「本人に聞いたところによると、諏訪(敦彦)監督の本を読んで、『こういうやり方で映画を撮ってみたい』と挑戦したとのこと。

 それだけでよく、こんなことができちゃうんだろうとびっくりです。

 蘇監督は現在無事に東京藝術大学映像研究科映画専攻の監督領域に進まれています。

 その藝大の教授陣も彼女の才能には注目しているという話をちらほら聞きます。

 ほんとうにすばらしい才能の持ち主だと思います」

「豚とふたりのコインランドリー」  提供:ぴあフィルムフェスティバル
「豚とふたりのコインランドリー」 提供:ぴあフィルムフェスティバル

東京藝術大学美術学部油絵科から映画の道へ

 次に大野キャンディス真奈監督の「愛ちゃん物語」は、エンタテイメント賞(ホリプロ賞)&映画ファン賞をW受賞した作品。

 そのタイトル通りに主人公は、母を失い、厳格な父の教えのもと他者ともほとんど関わらずに生きてきた高校生の愛。

 決して恵まれた境遇にいるわけではない彼女の人生が、ひとりのトランス女性との出会いをきっかけに大きく変化していく。

 そんな彼女のひと夏の体験が、もうポップとしかいいようのない明るさと軽やかさで描かれている。

 衣装、美術、映像の色彩感覚、物語の語り口、映像のリズムなど、すべてに独自の感性を感じさせる大野監督の映像表現はもう実際に見て感じてもらうしかない。

「大野監督は、東京藝術大学美術学部油絵科で絵を学んでいて、そこから映画の道に入ってきている。

 2017年に発表した『歴史から消えた小野小町』は、カナザワ映画祭で期待の新人俳優賞、東京学生映画祭で観客賞を受賞しています。

 美術や衣装も自分で手掛けているように、ほんとうに多才な才能をもっていることが映画をみてもらえればわかると思います。

 そして、『愛ちゃん物語』をみていると、自分の見たい映画を自分で作ったって感じがするというか。

 ほんとうに映画を作る喜びにあふれている。それがなによりすばらしいと思います」

「愛ちゃん物語」より  提供:ぴあフィルムフェスティバル
「愛ちゃん物語」より  提供:ぴあフィルムフェスティバル

 ここまで触れた監督からもわかるように、今回のアワードで受賞したのは7作品中、女性作品の作品が6本を締めた。

 そういう意味で、若き女性作家たちの才能に注目が集まった開催だったといっていい。

 なお、上映当日は多くの監督たちが来場予定。ぜひ、映画の道を志す彼ら自身とその作品に出あってほしい。

<PFF in 京都・来場ゲスト情報>

1/13(木)18:00~『Parallax』 ゲスト:野辺ハヤト監督

1/16(日)11:00~『帰路』 ゲスト:高橋伊吹監督

1/16(日)11:00~『距ててて』 ゲスト:加藤紗希監督、豊島晴香(脚本)

1/16(日)14:00~『苺のジャムとマーガリン』

ゲスト:宮永咲弥花監督、三代朋也(出演)

1/16(日)14:00~『転回』 ゲスト:加藤紗希さん(出演)

1/16(日)17:00~『ばちらぬん』 ゲスト:東盛あいか監督

※*やむを得ない事情により、プログラムおよび来場ゲストが

予告なく変更になる場合あり

<第43回ぴあフィルムフェスティバル in 京都>ポスタービジュアル 提供:ぴあフィルムフェスティバル
<第43回ぴあフィルムフェスティバル in 京都>ポスタービジュアル 提供:ぴあフィルムフェスティバル

<第43回ぴあフィルムフェスティバル in 京都>

会期:1月8日(土)~16日(日) ※11日(火)は休館

会場:京都文化博物館(京都府京都市中京区東片町623−1)

タイムテーブルやチケットなどの詳細は

「第43回ぴあフィルムフェスティバル in 京都」公式サイトへ

https://pff.jp/43rd/kyoto/