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一度は芸能活動に終止符を打ち地元へ。思い直して俳優を志し、いきなり難役のヒロインに

水上賢治映画ライター
「アリスの住人」で映画初主演を務めた樫本琳花(かしもと・りんか) 筆者撮影

 自分が大きくなったり、小さくなったりとバランスがわからなくなる「不思議の国のアリス症候群」、家庭環境を失ったこどもを里親や児童養護施設職員などが養育者になって、その家庭に迎え入れて養育する家庭養護施設「ファミリーホーム」などなど。

 あまり一般的になじみのない事柄を背景に、ひとりの少女の切実な心の声を描いたのが澤佳一郎監督の映画「アリスの住人」だ。

 主人公は、現在18 歳、思春期の中にいる、つぐみ。

 過去に父から性的虐待を受けていた彼女は、現在、ファミリーホームで生活を送っている。

 日々悩まされる「不思議の国のアリス症候群」の症状は、性的虐待のトラウマが起因。

 本作は、社会とも他者とも、なにより自分とうまく向き合えない彼女の心模様が描かれる。

 この苦しみの中にいるつぐみを見事に体現したのが、当時まだ10代だった樫本琳花(かしもと・りんか)。

 2019年に本格的に俳優活動をはじめたばかりの彼女に訊く。(全四回)

『Seventeen』の専属モデルから、一時期、芸能の仕事を離れる

 はじめに触れておくと、本作「アリスの住人」は、澤監督が開いたワークショップが出発点。

 樫本も本ワークショップに参加し、本作への出演へと至っている。

 先で触れたように、2014年から2018年まで女子中高生向け雑誌『Seventeen』の専属モデルとして活躍後、彼女が本格的に女優としての活動をはじめたのは2019年のこと。

 そのころ、樫本はひとつの岐路を迎えていたという。

「『Seventeen』のモデルをやっていたときは、先輩にお芝居に出たり、女優として活躍をしている方もいたので、なんとなく自分もそういう演技の方面に進んでいくんだろうなと漠然と思っていました。

 でも、途中で疑念が生じたというか。高校二年生ぐらいになり、今後の進路を考えたとき、自分には『こういう役者になりたい』といった俳優業への意欲が強くあったわけではありませんでした。

 そこで、以前からの夢だった看護師になりたいという気持ちが高まって。その夢を叶えるために大学か看護学校かに行こうと、実はその時点で、芸能活動を辞めたんです。

 高校二年生の10月ぐらいだったと思います。

 そこから、すぐ地元の愛媛に戻ってしまったんです」

「アリスの住人」で映画初主演を務めた樫本琳花 筆者撮影
「アリスの住人」で映画初主演を務めた樫本琳花 筆者撮影

やって後悔するよりやらずに後悔するほうが嫌

 ただ、地元に戻ってすぐに後悔したという。

「戻ってひと月ぐらいでもう後悔していました(苦笑)。

 (芸能活動を)辞めて離れたことで、自分の本心に気づいたといいますか。

 きちんとチャレンジしてやりきってならばまだしも、チャンスがあったのにお芝居や俳優業にほぼチャレンジすることなく辞めてしまった。

 まだまだいろいろとやれることがあったのに、なんか中途半端な形で芸能のお仕事を辞めてしまったことが自分の中ですごい心残りで。

 そこで、『あっ、わたし、お芝居に挑戦してみたかったんだ』とはたと気づいたんです。

 お芝居はまだまだ経験もなくて、未知の世界ではあったんですけど、そこに挑戦し切れなかった自分がすごく嫌だったんです。

 やって後悔するよりやらずに後悔するほうが嫌だっていうじゃないですか。

 このまま進学すると自分がそうなりそうだなって思って。

 でも、引っ越しちゃったし、学校も地元の高校に編入してしまっている。

 だから、『やっぱりお芝居したい』とすぐには言い出せませんでした。

 1回だけ母親に『もう一度、芸能の仕事をしたい』となんとなく伝えたんですけど、『自分で戻ってきたのにどういうこと?』といった感じで、ちゃんと聞いてもらえませんでした。当然だと思うんですけどね。わたしが心変わりしているので。

 でも、どうしても諦められない。

 で迎えた高校三年生の夏ぐらいのとき、以前お世話になっていたマネジャーさんからご連絡いただいたんです。『もう一度やってみないか』と。

 実は、わたしがそのことを知る少し前から、母の方に連絡が入っていたんです。

 でも、はじめはわたしに伝えてくれなかった。

 ただ、わたしが『もう一度やってみたい』といったことを母は覚えていて、その意思を尊重して最後は伝えてくれたんです。

 それで『チャンスだ』と思って、もう一度挑戦することを決めました。

 ほんとうに進路希望を決めるギリギリのところでの選択で。

 実は、看護学校の願書も書いて、もう提出するまで準備していたんですよ。

 ギリギリまで父の同意を得られなかったんですけど、最後はOKしてくれて、芸能のお仕事に復帰することになりました。

 だから、学校の先生が一番びっくりしてましたね。

 『え?看護学校に行くんじゃじゃないの?』と(笑)」

 こうして本格的に女優としての活動へと踏み出すことになる。その中で、澤監督のワークショップに参加することになった。

「演じるお仕事をしたいと思って芸能活動を再開したわけですけど、すぐに役をいただけるわけがない。

 演技経験もほとんどないですから、まずは演技の勉強を優先していろいろなワークショップに参加して、お芝居に触れる機会を作っていこうと思っていました。

 そういうことをし始めて半年ぐらい経ったときだったと思うんですけど、澤監督のワークショップの事を知って応募しました。

 ですから、俳優としてやっていこうと踏み出した直後ぐらいに、澤監督とは出会いました」

(※第二回に続く)

「アリスの住人」より
「アリスの住人」より

「アリスの住人」

監督:澤佳一郎

出演:樫本琳花 淡梨 しゅはまはるみ 伴優香 天白奏音

12 月 4 日(土)より池袋シネマ・ロサほか全国順次公開

公式サイト:https://www.reclusivefactory.com/alice

場面写真は(C)2021 reclusivefactory

映画ライター

レコード会社、雑誌編集などを経てフリーのライターに。 現在、テレビ雑誌やウェブ媒体で、監督や俳優などのインタビューおよび作品レビュー記事を執筆中。2010~13年、<PFF(ぴあフィルムフェスティバル)>のセレクション・メンバー、2015、2017年には<山形国際ドキュメンタリー映画祭>コンペティション部門の予備選考委員、2018年、2019年と<SSFF&ASIA>のノンフィクション部門の審査委員を務めた。

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