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米津玄師「Lemon」のダンサーにして映画作家の吉開菜央。北の果てで写真家・石川直樹との挑戦を終え

水上賢治映画ライター
「Shari」の吉開菜央監督  筆者撮影

 吉開菜央。その名になじみはないかもしれないが、あなたもきっと見たことがある!

 これまでに7億再生回数を突破した米津玄師のMV「Lemon」で独特のダンスを披露し、鮮烈な印象を残すあの女性こそが吉開菜央。

 彼女がダンサー、振付師、そして映画作家の顔をもつクリエイターであることは、昨年末に開催された「吉開菜央特集 Dancing Films 情動をおどる」のインタビュー(前編後編)で伝えた。

 それから約1年、「吉開ワールド」ともいうべき独自の映像表現の道をいく彼女が、今度は初の長編映画を完成させた。

 しかも、写真家の石川直樹とタッグを組んだという。その映画「Shari」は、タイトルにもなっているが、北海道・知床半島の斜里(しゃり)町で撮影された。

 新たに届けられた一作について、彼女に訊くインタビュー(第一回第二回第三回)の第四回へ。(全四回)

 前回に続き、今回も作品世界の話から。

 「Shari」という映画作品から、個人的に感じるのは、この大地に流れる空気であり、漂う匂いとでも言おうか。

 この地に生きるものの生命の息吹のようなものが匂い立ってくるようで斜里という土地そのものを体感したような気分になる。

いろいろなものが自らの命をめぐってせめぎ合っている

 吉開監督自身は、このようなことを感じていたという。

「わたしにとっては、表現をめぐってひとつ問題の起きた『Grand Bouquet』を撮った後で。

 その後、わたしは参加していないですけど、あいちトリエンナーレの問題も起きて……。

 わたしの中で、人間同士のせめぎ合いというか、争いが絶えないような日が続いている感覚があったんです。

 そういうころ、北の果ての斜里に行くことになって、めぐってみると、いろいろなものがせめぎあっていた。

 人と人だけじゃない。クマや鹿といった動物だったり、自然だったりと、いろいろなものが自らの命をめぐってせめぎ合っている。

 前も少し話しましたけど、極寒の地ですからひとつのミスが命とりになる。自身のライフラインを守るためにさまざまな局面でせめぎ合っているところがある。

 そういう意味で、わたしは、本気のせめぎ合いを目の当たりに感じたというか。

 都会で繰り広げられているTwitterやSNSでの一方的なせめぎ合い、争い、ぶつかり合いとはもう別次元。

 ただ、ぶつかり合うだけじゃない。

 斜里という土地、そこで生きる人々、生き物たちは、他者のエネルギーを受けとめながら、自分のエネルギーにも変えるようなところがある。

 それはたとえると、引き相撲というか。わたしの目には押すだけじゃなくて、引くところはひく、うまく立ち回っているように映りました。

  そのせめぎ合いはどこかとても美しい。そのことがすごく新鮮でした。

「Shari」より
「Shari」より

 余談ですけど、『赤いやつ』は、子どもたちと相撲をとることになります。それも知らず知らずにわたしがせめぎ合いを斜里から感じていて、それが反映されたのかもと、いま思ったりしています。

 いずれにしても、斜里の土地を歩いているとそういうせめぎ合いに直面する。

 山を眺めると雲と霞がせめぎあっているとか、そこかしこで生命がうごめき、ぶつかりあっている。

 雪で覆われた極寒の地に、熱を見出したわけですけど、そこもせめぎ合いですよね。熱と氷の。

 そして、そうしたせめぎ合いの先に、交わりひとつの落としどころになるというか。

 せめぎ合う者同士がギリギリ共存できる領域が生まれる。

 たとえば、斜里の地元の人には、『もともとクマのいた土地を自分たちが切り拓いて町にした』ような意識があって。

 『クマが出ても仕方ない。そりゃ出てくるよな』みたいなとらえ方がどこかにある。クマを完全に敵視することはない。

 雪が降り積もって道路が寸断されると大変なことはわかっている。でも、雪をやっかいものとはしない。どうしたら自分の生活に支障が出ないか、うまく付き合う方法を考える。

 そういうひとつひとつの積み重ねがこの地であり、この地に生きる人々の根底に流れるスピリットになっている気がしました。

 そして、そのスピリットにわたしはひじょうにシンパシーを感じました」

せめぎ合いの先に、ひとつになる瞬間がある

 <せめぎ合いの先に、ひとつになる瞬間>。これは、振り返ると、吉開監督の過去の作品に通じる、共通テーマかもしれない。

「そうなんですよね。

 エネルギーとエネルギーがぶつかって動くから、生き物って動き出し始める感じがあるなって思うんです。

 そういう生命の本質的なせめぎ合いを今回は映し出すことができたのではないかと思っています」

 その一方で、作品からは、地球環境の変化、コロナ禍の社会といった現実世界もみてとれることとなった。

「今回の作品は、私なりの『いまのこの状況はこんなふうに見えるな』みたいなといったことがすごく作品に入っていると思います。

 このとき、斜里に流氷がなかなか来なかったこととコロナ禍になったこと、斜里の流氷の景色とわたしの東京に住んでる家の窓から見える夜の景色とかを対のようにしていますけど、それはまったく別のことにみえて無関係ではない。

 影響を及ぼし合ってることをわたし自身は斜里と東京を往来することで実感したんです。

 東京で大量に使ってる電力が、まわりまわって流氷をちょっと溶かしてるかもしれない。

 これまで正直、気候変動と言われても頭に知識としてはあったけど、身をもって感じることはなかった。でも、斜里にいって体感した。

 最初は、そういう社会的な側面を入れるつもりはありませんでした。

 でも、その土地で長年暮らす人たちが口を揃えて『なにか変だな』という。

 そういうみなさんの実感のこもった話を聞くと、やはりわたしもほんとに『このままで大丈夫かな』と思い始める。

 斜里の人たちが心配しているけど、考えると、元凶となるようなことをしているのは別のところなんですよね。

 その矛盾であったり不条理を実感した人間としては見過ごせなかった。

 わたしが斜里にいって体感したこと、実感したことは、そういうことも含まれていた。

 そこの部分を素直に表したことで、環境のことなども感じられる作品になったのかなと。

 いまはいろいろな見方ができる作品になったんじゃないかなと思っています」

(※全四回終了。なお番外編として<赤いやつ>についての記事を次回お届けします)

「Shari」の吉開菜央監督  筆者撮影
「Shari」の吉開菜央監督  筆者撮影

「Shari」

監督・出演:吉開菜央

撮影:石川直樹

出演:斜里町の人々、海、山、氷、赤いやつ

助監督:渡辺直樹

音楽:松本一哉

音響:北田雅也

アニメーション:幸洋子

配給・宣伝:ミラクルヴォイス

ユーロスペース、アップリンク吉祥寺ほか全国順次公開中

公式サイト:www.shari-movie.com

場面写真及びポスタービジュアルは(C)2020 吉開菜央 photo by Naoki Ishikawa

映画ライター

レコード会社、雑誌編集などを経てフリーのライターに。 現在、テレビ雑誌やウェブ媒体で、監督や俳優などのインタビューおよび作品レビュー記事を執筆中。2010~13年、<PFF(ぴあフィルムフェスティバル)>のセレクション・メンバー、2015、2017年には<山形国際ドキュメンタリー映画祭>コンペティション部門の予備選考委員、2018年、2019年と<SSFF&ASIA>のノンフィクション部門の審査委員を務めた。

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