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「きまじめ楽隊のぼんやり戦争」の池田暁監督。俳優たちが面食らう演出は「振付っぽいかも」

水上賢治映画ライター
「きまじめ楽隊のぼんやり戦争」の池田暁監督  筆者撮影

 川を一本挟んで戦闘状態にある町を舞台に、川の向こう側にいるまったく知らない敵とぼんやりと戦うひとりの兵士と、戦争下にある住人たちの毎日がブラック・ユーモアたっぷりに描かれる現在公開中の映画「きまじめ楽隊のぼんやり戦争」。

 痛烈な反戦映画にも、オフビートなコメディにもとれるが、実は社会風刺と娯楽性が同居した大エンターテイメント作といいたい本作について、池田暁監督に訊くインタビューの第二回に入る。(全三回)

僕の演出は、振付っぽいのかも

 おそらく本作を観てまずなにより先に印象に残るのは、池田監督のオリジナルな演出にほかならない。

 作品は、ある意味、感情を込めることが抑制されたセリフでの会話で構成され、時折、意味不明な造語も飛び交う。

 その演出術が徹底された映像は独特のリズムを刻み、独特のグルーヴを生んでこちらへ届く。

「最近、思うんですけど、僕の演出は、振付っぽいのかなと。

 といいつつ振り付けなんて、やったことがないので、正しいのかわからないんですけど(笑)。

 セリフにしても、それに伴う体の動きにしても、ほとんど僕は事前に決めてしまっている。

 ここでこのタイミングでこう動くというのをかなり厳密に決めていてリハーサルでほぼ固めてしまうんです。

 なので、セリフ回しやアクションというよりも振り付けに近いのかなと」

『こんなことやったことないから楽しみ』みたいに好意的に

受け止めてくださっていた人がほとんどだった

 ただ、言葉に感情を込めることを常にしている俳優はほぼ面食らうであろうことは想像に難くない。

「そうでしょうね。

 ただ、僕もそのあたりは心得ていて、今回に関しても、僕の作品世界を知ってもらうために短編作品の『化け物と女』を脚本と一緒にお送りして、『こういう感じです』というのを理解してもらいました。

 ですから、予想以上にみなさんリハーサルの段階で、つかんでくださっていましたね。

 もしかしたら内心では戸惑っていた方もいらっしゃったかもしれないんですけど、むしろ『こんなことやったことないから楽しみ』みたいに好意的に受け止めてくださっていた人がほとんどだったと僕の目には映りました。

 第一線で活躍されている俳優さんたちばかりでしたので、不安がないわけではなかった。

 でも、ほんとうにみなさんのってくれてうれしかったです。

 石橋(蓮司)さんも『やることはわかったよ』と言ってくださったりして、安心して現場に臨めました。

 ただ、そういえば、矢部(太郎)さんだけは、なにか行き違いがあって『化け物の女』をご覧になれていなかったようで、『びっくりした』とおっしゃっていました(笑)」

「きまじめ楽隊のぼんやり戦争」より
「きまじめ楽隊のぼんやり戦争」より

主人公の露木は、前原さんの写真をみて、ピンときた

 出演は、前原滉、今野浩喜、中島広稀、清水尚弥、橋本マナミ、矢部太郎、片桐はいり、きたろう、嶋田久作、竹中直人、石橋蓮司ら実にバラエティに富んだメンバーが集まった。

その中で、主人公の露木役は、いま若手バイプレイヤーとして脚光を浴びて注目を集める前原滉が務めている。

「実は、露木役は難航したんです。なかなかみつけることができなかった。

 そんなときにスタッフのひとりが、前原さんの写真を見せてくれて、『この人だ』と。

 写真をみて、ピンときたんですよね。

 実は、その時点で、僕は恥ずかしながら前原さんのことは知らなかったんですよ。

 あとで、『あゝ、荒野』とかで拝見していて、『あの俳優さんか』と結びつくんですけど。

 いずれにしても、写真をみた時点では知らなかった。

 でも、映画の中での立ち姿とか軍服とか着せた姿が不思議とイメージできて、『この人だ』と思いました。

 うまく言葉で表せないんですけど、露木は、ひと目見て忘れない個性を感じさせながらも、兵士としては匿名性が高いというか。

 顔立ちは印象に残るのだけれど、一兵卒のありきたりな軍人として存在してほしかった。

 前原さんの写真を前にしたとき、そんな風に存在してくれるのではないかと感じたんです。

 実際、いまの前原さんの活躍をみていると、ほんとうにさまざまな役を演じられている。

 平凡な公務員もできれば、凶悪犯にもなれる。強烈な個性を放つときもあれば、無味無臭のような存在にもなれる。

 そう両極に触れるのが前原さんの魅力かなと思っていて。写真をみたときも、なんとなくそんなことを感じたんですよね」

「きまじめ楽隊のぼんやり戦争」より
「きまじめ楽隊のぼんやり戦争」より

 個人的なことで言うと、不条理な目に何度となく遭う煮物屋の主人を演じた嶋田久作がとりわけ印象に残る。

「嶋田さんは、ほんとうに職人といいますか、すごいと思いました。

 ほんとうにすべてのことをきっちりと決めるタイプの俳優さんで。細かいところまで事前に決めていたんです。

 煮物を上げるタイミングから、手の動きまで、どこでこの言葉をいうのかまで全部決めて臨んだ。それで、ほんとうにこちらも驚くぐらいきっちりと決めてくれるんですよね。

 だから、僕がイメージして望んだものを、一番きっちりと体現してくれた俳優さんだったかもしれません」

 そのほかも、実に個性豊かなメンバーが並ぶ。

「僕がキャストに何を一番求めるかというと個性なんですよね。

 単純に誰にもないその人だけの個性をもっている人が好きなんです。

 また、アクが強いぐらいの個性をもっている俳優さんの方が、僕の作品は独特といわれるので、フィットするというか。

 僕自身も個性の際立つ役者さんの方が、作品世界にぴったりはめる自信がある。

 今回出演してくださった俳優さんのようなそのひとならではの個性がきちんとある人だと、ヴィジョンが描ける。

 むしろ、たとえば、一般的に言うところの容姿端麗の人とかはどうすればいいかわからなくなってしまうといいますか。

 どうしたらその人を際立たせて魅力的にするのかが僕の中ではなかなかうまく思い描けない。

 どんな人でも魅力的に描けるようにならないといけないなとは思ってるんですけど」

「きまじめ楽隊のぼんやり戦争」より
「きまじめ楽隊のぼんやり戦争」より

こういういい俳優がまだまだいることを知ってほしい気持ちもありました

 こうした豪華キャストが出演する一方で、作品のキーパーソン的な役割を担う2人の人物には、池田暁監督作品の常連俳優を配置した。

 ひとりは不愛想な受付役のよこえとも子、もうひとりが矢部太郎扮する技術者をいびる上官を演じた友松栄。

 彼らは池田監督のもつ作家性を表現してきた体現者といっていい。この起用の意図をこう明かす。

「この作品は企画段階でパイロット版を撮っているんですけど、二人は同じ役で出ているんです。

 それで正式に決まったとき、二人だけはそのまま同じ役で出演してもらいました。

 二人にはとくに伝えていませんけど、やはり僕の作品がどういうものなのかよくわかってくれている。

 なので、今回、僕の作品に初参加となる俳優さんたちのひとつの指針みたいになってくれたらという気持ちはありました。

 よこえさんの受付のシーンは、初日ですべて撮っているんです。だから、まずはよこえさんの受付シーンがほんとうに作品のひとつの基準になっている。

 そして、二人は俳優としてタイプはまったく違って。

 友松さんは、もう僕が『こうしてこうしてください』といって、その通り、一語一句間違わないで演じ切ってくれる俳優さんなんです。

 一方、よこえさんはアイデア豊富で。いろいろなよこえさんならではのアイデアを出してくるんですけど、それが僕の作品世界からは決してはみ出さない。

 あくまで作品世界の枠の中で成立するアイデアをだしてきてくれる人なんです。

 ある意味、対極な二人がモデルケースになってくれることで、ほかの俳優さんもそれを参考に演じ方を考えてくれたと思います。

 だから、二人にはすごく感謝しています。

 あとは、よこえさんと友松さんを、もっと多くの人に知ってほしい気持ちもありました。

 僕の作品だけではなく、ほかの映画のもどんどん出てほしい。

 こういういい俳優がまだまだいることをみなさんに知ってほしい気持ちもありました」

(第三回に続く)

「きまじめ楽隊のぼんやり戦争」より
「きまじめ楽隊のぼんやり戦争」より

「きまじめ楽隊のぼんやり戦争」

監督・脚本・編集・絵:池田 暁

出演:前原滉、今野浩喜、中島広稀、清水尚弥、橋本マナミ、矢部太郎、片桐はいり、

きたろう、嶋田久作、竹中直人、石橋蓮司ほか

大分・玉津東天紅にて7/11(日)まで

東京・キネカ大森にて7/15(木)まで公開、ほか全国順次公開中

最新の劇場情報は、こちら

場面写真すべては(C)2020「きまじめ楽隊のぼんやり戦争」フィルムプロジェクト

映画ライター

レコード会社、雑誌編集などを経てフリーのライターに。 現在、テレビ雑誌やウェブ媒体で、監督や俳優などのインタビューおよび作品レビュー記事を執筆中。2010~13年、<PFF(ぴあフィルムフェスティバル)>のセレクション・メンバー、2015、2017年には<山形国際ドキュメンタリー映画祭>コンペティション部門の予備選考委員、2018年、2019年と<SSFF&ASIA>のノンフィクション部門の審査委員を務めた。

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