異端?いや公正?女性に人気?謎多き政治活動家、鈴木邦男。同調圧力、不寛容さが強まる時代へのメッセージ

『愛国者に気をつけろ!鈴木邦男』 中村真夕監督 

 鈴木邦男――『愛国者に気をつけろ!鈴木邦男』のフライヤーで彼は、次のように紹介されている。

 「政治活動家、新右翼団体『一水会』元顧問。既存の右翼と画された行動と言論から『新右翼』と呼ばれる。今では左翼、右翼にとらわれない民族派リベラリストの論客として知られる。著作は70冊を超える」と。

 このプロフィールを字面だけで判断すると、一貫性のない人と思われるかもしれない。でも、それが見当違いであることが本作をみればよくわかるはずだ。

 そして、ひと昔前の時代、1960年代から70年代を通ってきた人間は、「なぜ、いま鈴木邦男なのか?」という人がいるかもしれない。でも、「今だから、鈴木邦男」なのである。そのこともまた本作をみてもらえれば納得してもらえるだろう。

激動の時代の生き証人を取材しておきたかった

 2年間に渡って鈴木氏に密着した中村真夕監督。まず、鈴木氏とのファースト・コンタクトをこう振り返る。

「はじめてきちんとお会いしたのは2015年に発表した『ナオトひとりっきり』の劇場公開のとき。ゲストできていただいたんです。

 でも、実は、私の父は正津勉という詩人なんですけど、鈴木さんと昔から交流があったので、お顔はずっと以前から存じ上げていました。つまり直接お話をしたことはなかったんですけど、その存在はかなり前からずっと視野に入っていた。

 それで、上映会ではじめてきちんと対話をして交流が始まったのですが、わたしはドキュメンタリーを生業にしているので、どこかでいつもいい被写体や題材を探している(笑)。あるとき、『なにか自分の興味の対象にある著名人で撮っていない人はいないか』とふと考えたとき、鈴木さんの名前がパッと浮かんだ。鈴木さんはいろいろなドキュメンタリー映画に出ていますけど、単独で取材をしている作品は見当たらない。『じゃあ、いいかも』と(笑)。

 それから、若松孝二監督がお亡くなりになったとき、わたしは監督についてのドキュメンタリー映画が出てこなかったことがすごく残念だったんです。それで、若松監督の世代といいますか、1960年代、70年代という激動の時代を知っている人たちが70代、80代に入ってきているいま、この時代の生き証人というか、学生運動を体感してきた人を撮っておきたい気持ちが自分の中にあったんです。それで『鈴木さんを』と思ったところもありましたね。失礼ながら『右翼でちょっと面倒かも』と思いつつも」

 すぐに本人に密着取材を打診。鈴木氏は快く受け入れてくれたという。

「今回の作品の断片からもわかると思うんですけど、鈴木さんは『来るもの拒まず、去るもの追わず』といった性格。ですから、わたしが『取材をお願いしたいんです』というと、『ああ、どうぞどうぞ』みたいな感じで快く了承してくれました」

 ただ、鈴木氏のただ足跡をたどるような内容はあまり考えていなかった。

「個人の足跡をたどるのならば、インタビュー中心になるんでしょうけど、わたしとしてはあまりそうしたくないというか。質疑応答をするインタビューというよりは、ふと言葉を交わすところや日常生活から、鈴木邦男という人間が見えてきたらいいかなと思ったんですよね。どこかの個室を押さえて、セッティングした上でじっくり話を聞くよりも、普段着の彼と言葉からその人生や人間性がみえてくればいい。そこで、勇気を振り絞ってお願いしたんです。『ご自宅に行かせてください』と」

映画『愛国者に気をつけろ!鈴木邦男』より
映画『愛国者に気をつけろ!鈴木邦男』より

 こうして鈴木氏の自宅に通う日々が始まった。

「自宅をメインの取材場所にしながら、鈴木さんが出向くところへご一緒させていただくことにしました。2017年の夏に毎年開催されている『生誕祭』からスタートして、とくに終わりは決めないで進めていきました」

右も左も関係ない、何でこの人はいろいろな人と仲良くできるのか?

 これは私個人のことになるが「鈴木邦男」という人物をきちんと認識したのは、映画の上映イベントのゲストで出演しているのをみたときだった気がする。いまとなってはその映画が何か忘れてしまったが、鈴木氏のことだけは覚えている。なぜかといえば、鈴木氏は世間の『右翼』というイメージからはかけ離れていた。なにより驚いたのは、自分の意見を押し売りしないこと。左翼の意見であっても、一般の意見であっても耳を傾ける。ほかの意見を遮って、自分のいいたいことをまくしたてたり、反対意見を断罪したりすることはない。いまから20数年前になると思うが、当時、こういうきちんとした議論を成立させようとする右翼活動家をみたことがなかった。

 中村監督自身は取材を重ねる中で、こんなことを感じていたという。

「私も取材をお願いしておきながら、最初は鈴木さんのことをよく知らなかったんですよ。

 

 ただ、右左関係なく、何でこの人はいろいろな人と仲良くできるのかなと思っていて。そのひとつの謎を解こうと取材を進めていったところはありますね。

 鈴木さんと対話を重ねる中で、まず思ったのは、社会の偏見や世間のイメージで人を判断しないということ。知らない人を色眼鏡で判断しない。自分が会った上で判断する。

 だから、元オウムの信者や、いわゆる社会から断罪された人にも直接会いに行って話す。いまとなっては珍しい。直接対話型の人なので、よど号の関係者に会おうと北朝鮮まで行っちゃたりするわけです。

 ようは人を勝手に決めつけない。直接会って対話をすることでその人を知ろうとする。これってなかなかできるようでできない。主義主張が自分と反する人と自ら話す機会をもうけようとする人なんてほとんどいないですよね。一般社会でもそうですけど、ちょっと苦手な人とは距離を置いて、なるべく関わることを避けるのではないでしょうか。でも、鈴木さんは会うんですね。

 たとえばですけど、こういう人と会って付き合いがあるとなると、自分のイメージが崩れたり、いらぬ反発をもたれたり、反感を買うから、会わないと判断することが人間だれしもあると思うんですよ。でも、鈴木さんは自分が貶められることや、危ない立場になることを一切恐れていない

 1回聞いたんです。『何で、あまり世間的にいいイメージのない人たちに手を差し伸べるのか』と。そうしたら、『自分もそういうふうに社会から締め出された人間だから』といっていました。そういう意味で、腹をくくっているというか。ものすごい覚悟がある人ですよね」

意外、当然!? 女性に支持されるわけ

 誰とでも話すテーブルをもつ。だからだろう、鈴木氏の交友関係は実に広い。作品にも、麻原彰晃の三女、松本麗華、元オウム真理教の幹部、上祐史浩、北朝鮮による拉致被害者家族会の元副代表、蓮池透など、さまざまな人物が登場し、鈴木について語っている。

「女性にも、ものすごく人気があるんですよ。作品でも触れていますけど、『邦男ガールズ』って、作家の雨宮処凛さんが第一号みたいな存在ですけど、30、40代ぐらいを中心に、サポーターがいる。

 それはすごくわかります。いま鈴木さんと同世代、もしくはもう少し下の世代、50、60代も含めての男性と鈴木さんはまったく違う。まず、自分の正しさを振りかざさない。人の話をきちんと聞く。

 たとえば、言葉には出さなくても『俺は偉いぞ』というような雰囲気を漂わせている男性ってけっこういるじゃないですか。このぐらいの世代の男性は特に。『お前の話はいいから、俺の話をきけ』、『女は男を立てろ』とか、自己中心型が多い。へんな話、女性は世間知らず、だから意見なんて求めない。そんな感じで女性に接している大人が少なくない。

 社会に出た女性は、そういうおじさんにうんざりするぐらい職場や社会生活の中で出会っているわけです。

 だから、鈴木さんのように常にフラットで、話を最後まできいてくれる、偉ぶらない、きちんと自分という人間をみてくれる、そういう人と出会うとひとつ驚きというか。みなさん癒されるんだと思います。そんな男性に、彼女たちはほとんど会ってきていないわけですから。

 女性の愚痴を黙ってきいてくれる人なんです。『うんうん』と。

 あの謙虚さと寛容さは、たぶん自分という人間に自信があるからじゃないかと。心に余裕があるというのかな。自己を確立できている。たいてい威張る人って、自分に自信がないから虚勢を張るわけで。なんかそういう武装を一切しないんですよね。鈴木さんは。

 むしろ、自分はバカだから勉強しないといけないと常にいっている。1カ月に50冊ぐらい、本を読まれているんです。常に学ぶことを怠らない。この元旦にちょっとお会いしたんですけど、そのときも本を読んでいる。そういう謙虚な姿勢があるから、知りあった人は支えたいと思ってしまうのかも。

 そういう柔軟性がある。でも、それが人によってはどっちつかずにみえて、右か左か分からない。風見鶏にみえてしまう。

 でも、ほかの意見をきくことや、思想の違う人間と対話することは鈴木さんにとって当たり前のこと。自身の思考を確立するためにも大切と思っている。いろいろな挫折を繰り返してきているから、自分の考える正しさを常に疑っているというか。周りの意見や他者の反応で、そのことがほんとうに正しいのか自分に問うようになった主旨のことを話されたことがありました。自分に対して批判的な目を向けて、自らを律する。だから威張らないし、自分の考える正しさを他人に押し付けない。その度量の大きさがいろいろな人に受け入れられる理由だと思います」

映画『愛国者に気をつけろ!鈴木邦男』より
映画『愛国者に気をつけろ!鈴木邦男』より

いまの日本は民主主義がきちんと成立しているのか

 こうした鈴木氏の知られざる人間性が見えてくる一方で作品は、日本において真の意味での民主主義が根付いているのか? 作品内で触れられてもいることだが日本の民主主義の在り方が見えてくる。

「鈴木さんをみているとほんとうにオープンで。心を開いているから、それぞれ立場の違う人が話して、いろいろな意見や価値観が出てくる。対立する意見の者同士がきちんと正面をむいて話し合って、解決策をみつけていく。

対して、はたして、そういう社会にいま、なっているのかな?って思うんですよね。

 むしろどんどん民主主義とはかけ離れた、話し合いで合意形成がなされない社会になってはいないか?わたし自身は、なにか反対意見にまったく耳を貸さない、自分の意見だけを主張して通そうとする傾向が強まっている気がしてならない。また、これは日本に限らず、そういうタイプのトップリーダーが世界的に目立ってきていることに危機感を抱いています。

 なにかいまの社会は不寛容さが目立つ。なので、鈴木さんの生き方からなにか感じてもらえればなと思いました」

 かつて右翼と呼ばれた鈴木氏だが、いまは左翼といわれる存在。でも、作品をみていると、その信念は揺らいでいないようにみえる。

「鈴木さんはたぶんぜんぜん変わっていない。むしろ時代が変わったんだと思います。

 わたしもなんで、世間でいうところの右から左に鈴木さんはいっちゃったのかなと、ずっと撮りながら考えていたんです。でも、鈴木さんが立ち上げた一水会の木村さんが作品内で言ってますけど、『鈴木さんが変わったんじゃなくて、時代が左から右に行ったんだ』と。

 たぶん鈴木さんはずっと真ん中に立っているんだと思います。でも、時代が急速に右傾化していった。でも、それは鈴木さんの考える右ではない。それが『愛国者に気をつけろ!』にもつながっていて、いろいろと意見をいっていたら左にみなされてしまった(笑)

 この前、少し木村さんにいろいろ話を聞いたんですけど、鈴木さんは『危険察知の避雷針』のようなところがあると言ってました。ようはバランスが大切。国があんまり左にいきすぎてもダメだと思っているし、右にいきすぎてもしかり。『ほどよいバランスをとろうとしている』とおっしゃっていました。極左が台頭してもいけないし、極端な右傾化もまずいと。

 ひとつの思想に凝り固まるのは危険ということがわかっているんだと思います。世の中に絶対はありませんから

 あと、鈴木さんは自分の考えが間違っていたら、それをきちんと認めるんですよね。でも、たいていの人は謝れない。我を張ってしまう。

でも、鈴木さんは非は認める。そういうところが異端なんだと思います」

同じ壇上での議論がされない現状に危機

 そのせいか、今回の作品には現在の右系の人物は登場しない。

「実は鈴木さんと対立する人物の方にも何人か取材をお願いしました。鈴木イズムじゃないですけど、異なる意見をもつ人にご登場いただくことで、作品の多様性や公平性が保たれると思ったからです。でも、その願いはかないませんでした。すべて断られました。

 鈴木さんは、左翼と右翼が少なからず、少し前までは同じ壇上で議論を交わしていた。それがいまは同じテーブルにつこうともしない。この状況を危惧していて。ご自身としてはいつでも対話するテーブルを用意されている。

 だから、打診はしたんですけど、対話は拒否されました。

 明確な理由はわかりません。でも、なんとなく自分の主義主張を一方的に展開できる場はいいが、対話のある場所には出たくないところがあるのかなと感じました。残念ですけど」

 2年間密着してみて、こんなことを思ったという。

鈴木さんは勝手ながら『歩く民主主義』かなと(笑)。ほんとうにひとりで出向いて、いろいろな人の話に耳を傾けている。そうした中から、なにか正しいことを導きだそうとしている。民主主義を体現しようとしている人だと思います。一部の、自分と同じ意見の人のいうことを丸のみして実現するのが民主主義ではない。

 あと、わたし自身も鈴木さんとお会いすることで反省する点がいくつもありました。たとえば、上祐さんや松本麗華さんに鈴木さんの取材を介して会いましたけど、実際お会いして、対話をしてみるとメディアで伝えられていることとは違う面を知りました。

 世間のイメージなどに流されちゃいけないと思いましたね」

映画『愛国者に気をつけろ!鈴木邦男』より
映画『愛国者に気をつけろ!鈴木邦男』より

 鈴木氏のようなボーダレスな存在がいまの時代、これからの時代には必要な気がする。ただ、鈴木氏ももう80代が間近。その活動が終盤に差し掛かっていることを、作品はある意味、残酷にも伝えている。

「ここ2年で鈴木さんは体調を崩されて、入院したりしている。だから、取材を控えようとも思ったんですけど、自分の中には、『いま撮っておかないと』という想いもあって。

 だから、もう途中で心を決めたというか。鈴木さんに拒否されるまでは遠慮なしにいこうと。だからたとえば作品内で、入院してベッドに横になっているシーンがありますけど、本人としては撮ってほしくなかったと思うんです。だれしも、自分の弱った姿というのは撮られたくないものですよね。

 でも、カメラを回したんです。で、撮っているうちに、今度は鈴木さんも鈴木さんで覚悟を決めたことが伝わってきたというか。いまの自分がだれかに伝えられることをまっとうしたい思いを勝手ながら受けたんです。だから、最初で最後と思って、以後も撮り続けました。

 ほんとうにご高齢なので無理はなさらずにいてほしいし、お体の状態が心配なんですけど、同調圧力の強く、個人が大切にされない、そんな風潮がいまの日本社会にはある。そこに鈴木さんみたいな人がいなくなったら、さらに息苦しいことになってしまう気がします

 なので、大変だと思うんですけど、鈴木さんにはもう少し頑張ってもらえたらと思ってます」

 いまや左翼にも、右翼にもとらわれない「民族派リベラリスト」と呼ばれる鈴木邦男氏。「愛国者に気をつけろ!」と叫びながら、さまざまな意見に耳を傾け続ける彼の言葉に耳を傾けたい。

映画『愛国者に気をつけろ!鈴木邦男』より
映画『愛国者に気をつけろ!鈴木邦男』より

ポレポレ東中野で公開中

連日上映後、特別ゲストを迎えたトークショー開催中

2/3 雨宮処凛(作家・活動家)

2/4 松元ヒロ(コメディアン)

2/5 瀬々敬久(映画監督)

2/6 寺脇研(元官僚・映画活動家)

2/7 栗原康(政治学者)

2/8 香山リカ(精神科医)

2/9 金平茂紀(TVジャーナリスト)

2/10 松本麗華(カウンセラー)

2/11 内田樹(神戸女学院大学名誉教授・凱風館館長)

2/12 ジャン・ユンカーマン(映画監督)

2/13 足立正生(映画監督)

2/14 上祐史浩(ひかりの輪 代表)

写真はすべて(C)オンファロスピクチャーズ