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タリバンに屈しない男女の愛をアニメで表現。その意外な演出法とは?<フランス映画祭2019>より(1)

水上賢治映画ライター
ザブー・ブライトマン監督とエレア・ゴベ・メヴェレック監督 筆者撮影

 すでに半年近く前になってしまったが、6月に<フランス映画祭2019 横浜>が開催された。今年は『男と女』の名匠、クロード・ルルーシュ監督を団長にフランスの映画人が大挙来日。盛況のうちに幕を閉じた。

 話題のフランス映画を日本公開に先駆け観る機会に恵まれる同映画祭だが、一方で日本での公開は決まっていないが注目すべき監督や俳優の作品も並び、ここだけでの上映で終わってしまうことが惜しい作品も少なくない

 そんな未配給作品ながら心に深く残った5作品の映画人のインタビューを5回にわたって届ける。

世界50か国語に翻訳された原作「カブールの燕たち」をアニメ化

 1回目の今回は、2019年のカンヌ国際映画祭ある視点部門のコンペティション部門に選出されたアニメーション作品『カブールのツバメ』。この作品は、50か国語に翻訳され、世界中で大反響を呼んだカドラ・ヤスミナの原作「カブールの燕たち」のアニメーション化となる。

 手掛けたのはフランスの映画界で女優としてはもとより映画監督としても長きキャリアを誇るザブー・ブライトマンと、今回が初長編作品となる新鋭、エレア・ゴベ・メヴェレック。共同監督で、独特なアニメーション作品を生み出している。

長きキャリアを誇る女性映画人と新鋭アニメーション作家のコラボ

 作品の出発地点をまずザブー監督がこう語る。

「わたしはこれまで女優という演じ手のみならず、作り手としても精力的に活動してきました。作り手としてのキャリアでも、映画監督のほか、テレビドラマシリーズの演出と制作も手掛けましたし、舞台の演出、2014年にはオペラ演出家としてもデビューしています。

 このようにさまざまなタイプの作品を手掛けていることもあったのでしょう。プロデューサーから話がきたんです。『この原作をアニメーション化したい』と」

 これまでまったくアニメーション作品に携わったことはなかったが戸惑いはなかったという。

「アニメーションは好きだったので、むしろこの原作をアニメーションで表現することにすごく興味を持ちました。チャレンジングな試みになるのではないかと。

ただ、わたし自身は演出することは可能ですが、アニメーションの画を描くことはできない。ということで実際に画を描くアニメーターを探さないといけませんでした」

 そこでアニメーターのオーディションを実施。選ばれたのがエレアだった。彼女を選んだ理由をザブー監督はこう明かす。

「いろいろなタイプのアニメーターの画をみたのですが、最後に2名に絞って、カブールの街を描いてもらいました。このときのエレアの水彩画が美しすぎて、これしかないと思いました。細部までリアルに描きこんでいるよりも、余白があって、想像の余地を残す。このタッチの画こそがこの物語を描くのにもっともふさわしいと思ったのです」

 演出はザブー、アニメーションを実際に描くのをエレアという役割分担で共同監督として制作に臨んだ。ただ、ザブーも初のアニメーション演出であり、エレアも短編はいくつか発表しているものの長編は初めてのこと。そんな初めて同士だったからか、ある意味、常識にとらわれないアニメーション手法で挑んだ。

俳優が実際に演じている映像から、描き起こす

「実は、本作の出演者は声優であり、俳優といっていいかもしれません。というのも、まず最初にセリフを録音したんです。そのときに俳優さんたちに動作をきちんといれて実際に演じてもらいました。実写と同じです。4日間、ほぼ缶詰状態で、すべてのシーンを演じてもらいました。その俳優たちが実際に演じている映像をみながら、エレアが画を描き起こしていったんです」(ザブー)

「通常、アニメーションを作るときは、動きの部分は想像で作らないといけない。こういう作り方は私自身初めてでしたけど、すごく描きやすかったです。実際の動きがあることで、どうすればリアルなアクションになるのかを追求できましたし、俳優さんたちの息遣いや言葉の発し方からインスパイアされるところもありました。ある意味、俳優さんたちの実際の演技をみれたからこそ、各シーンを現実のようにリアルに描けたのではないかと思っています」(エレア)

実際に衣装をきてもらってますし、食べるシーンは、料理を用意して実際に食べてもらいました。なぜ、そんな手法にしたのか?と問われたら、直感としかいいようがない(苦笑)。わたしは女優として活動していて、声優の仕事をしたこともあるのですが、声が最初にあってもいいんじゃないかと思ったことがあったんです。そこがきっかけといえばきっかけ。この手法なら、なにかいままでにないタッチのアニメーションができるのでは考えたんです」(ザブー)

 出来上がった作品を見たとき、俳優たちは驚きの声を上げたという。

「顔とか表情とか、動きとか忠実に描いているので、俳優たちにそっくりなんです」(ザブー)

「あまりにも似ていたから、みんな『これは自分だ』と。自分の癖とかも出ているので、ちょっとびっくりしてましたね。

 この手法はほんとうにすばらしいと思います。俳優とアニメーターの仕事がうまく重なりあい、相乗効果を生んでいると思います。ひじょうに新しい試み。日本のアニメーション界にもおすすめします(笑)」(エレア)

映画『カブールのツバメ』より
映画『カブールのツバメ』より

 こんなユニークな手法で作られた本作だが、1998年、タリバン政権下にあるカブールが舞台。街が恐怖で支配され、荒廃する中においてもなお存在する男女の情熱的な愛が描かれる。

「どうしても荒んだ情勢にある国について思いをめぐらせたとき、なかなか『愛』というのは想像できない。でも、そうした過酷な、極限下にあるときこそ、貫かれる強い愛が存在するのではないか?そんなことをこの物語が教えてくれました。すばらしい真実の愛の物語だと思います」(エレア)

 そして、創作が許されない世界というのがどれだけ窮屈なことかもまた物語る。

「タリバンの政権下では絵をかくことも、音楽をきくことも規制されます。逆に、それをアニメーションで表現することで、自由、人間の欲求、愛のすばらしさを伝えられると思ったのです。創作は自由の象徴。この物語を描くのに、アニメーションを選んだ理由はそこにあるとわたしは思っています。どんな権力者も独裁者もテロリストも、その人の中にある想像の世界や自由な精神は奪えないのです」(ザブー)

映画『カブールのツバメ』より
映画『カブールのツバメ』より

場面写真はすべて(C)LES ARMATEURS- MELUSINE PRODUCTIONS- CLOSE UP FILMS- ARTE FRANCE CINEMA- RTS- KNM 2018

映画ライター

レコード会社、雑誌編集などを経てフリーのライターに。 現在、テレビ雑誌やウェブ媒体で、監督や俳優などのインタビューおよび作品レビュー記事を執筆中。2010~13年、<PFF(ぴあフィルムフェスティバル)>のセレクション・メンバー、2015、2017年には<山形国際ドキュメンタリー映画祭>コンペティション部門の予備選考委員、2018年、2019年と<SSFF&ASIA>のノンフィクション部門の審査委員を務めた。

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