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中国で24歳女性が花嫁衣装で「私は誘拐された」と明かしたワケ

宮崎紀秀ジャーナリスト
結婚式を前に生みの親の情報を求めた白雪芳さん(中国のSNSより)

 華やかな花嫁衣装に身を包んだ一人の若い女性の動画が、中国メディアで大きく扱われている。なんと、女性は幼少の頃に誘拐されて売り飛ばされてしまった人身売買の被害者で、まもなく迎える挙式を前に、動画で生みの親の情報を求めたのだった。

20年前に売られ虐待も?

「皆さんに助けてもらいたいのです。メディアやネット民の大きな力を借りて、生みの父母が見つかるように」

 きらびやかな赤い衣装に身を包んだ女性は、動画の中でそう訴えた。

 彼女がその動画で明かした内容は、華やかないでたちに似合わない衝撃的なものだった。 

 本人によれば、女性は河北省保定市に住む白雪芳さん。白さんは、20年前の2002年、3歳か4歳の頃に誘拐され、今の親の元に1000元(現在のレートで約2万円)で売られてきたという。

 誘拐された頃の記憶はなく、掲げている写真は育ての親の元で撮ったものだという。

 生年は1998年頃というから、今年で24歳前後になる。

 11歳の頃、自分が誘拐されてきた子だと知った。育ての親からは、常に殴られたり、侮辱されたりしていた。17歳の頃から働きに出て、その後、仕事をしながら生みの親を探してきた。だが、これまで何ら手がかりが得られていないという。

3回も売られていた過去

 以下は、白さんを取材した中国メディアによる。

 白さんは、11歳の頃、近所の人が、自分が誘拐されてきた子だと話しているのを耳にした。半信半疑だったが、15歳の頃に養父母に問いただしたところ、近所の人たちの話は事実だと認めたという。

 白さんを養父母に売ったのはある女だった。その女は、それ以前にも白さんを2回に亘って売っていた。最初は、貧しい老婦人で自分自身を食べるに困るほどで、彼女を育てられなかった。2回目は中年夫婦だったが、泣き喚く白さんを気に入らなかった。

 女の話によれば、白さんの生みの親は、貴州省の場坪村という所に住んでおり、子供が多すぎたため子供2人を手放し、「いい家庭を見つけてほしい」と女に頼んだという。そのうちの1人が白さんだった。

手がかりの住所を訪ねたが...

 白さんは、生みの親が子供を手放したなどという女の話を信じておらず、自分がどこからか誘拐されてきた子供だと考えている。白さんを3回も売りに出したことや、「いい家庭を見つけてほしい」と頼まれながら、貴州省から遠く離れた河北省まで子供を連れて来ることは辻褄が合わない。何より、誘拐犯が「この子は誘拐して連れて来ました」などと認めるわけがない。

 白さんは、貴州省にも何度か訪れている。現地の警察なども協力してくれたが、生みの両親の手がかりは得られなかった。女が話したという住所も、おそらくウソだと考えている。

 白さんは何度も仕事を変え、生みの両親の手がかりを求め、北京や天津など中国各地を巡った。そうした中で夫となる青年と出会った。

 中国では児童を誘拐し売買する犯罪が多発してきた事実がある。その背景には、農村などでは後継欲しさに子供を買う人がいる、などの事情がある。近年は警察が捜査に力を入れ、誘拐の被害者を多数発見し、同時に、新たな誘拐の発生は減少させている。だが脈々と続いてきた児童誘拐の結果、白さんのように全く手がかりの得られない被害者も、まだまだ多数存在している。

挙式前に訴えたのは...

 冒頭に紹介した白さんが生みの親の情報を求める動画。

 自らの挙式の前に撮影したという。

 白さんは花嫁衣装に包まれながらも、少しもはしゃいでいるようには見えず、むしろどこか悲しげだ。時折、詰まりながらもゆっくり発せられる言葉に紡がれる彼女の来し方を想像すると、涙なくしては見られない。

 美しく成長した白さんは、動画の中でこう語りかけた。

「私はまもなく結婚します。本当の両親が、私が探しているということを知って、結婚式に参加してくれるのを願っています」

 結婚式は6月18日に行われた。残念ながら新婦側の家族から出席者はなかったというが、白さんが一日でも早く生みの両親と再会できることを心より願わずにはいられない。

ジャーナリスト

日本テレビ入社後、報道局社会部、調査報道班を経て中国総局長。毒入り冷凍餃子事件、北京五輪などを取材。2010年フリーになり、その後も中国社会の問題や共産党体制の歪みなどをルポ。中国での取材歴は10年以上、映像作品をNNN系列「真相報道バンキシャ!」他で発表。寄稿は「東洋経済オンライン」「月刊Hanada」他。2023年より台湾をベースに。著書に「習近平vs.中国人」(新潮新書)他。調査報道NPO「インファクト」編集委員。

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