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出会い系アプリの女性からHIV感染した中国人男性が伝えたかったこと

宮崎紀秀ジャーナリスト
出会い系アプリで知り合った女は警察に連行された(晏哥抗艾のウエイボーより)

 中国貴州省の男性が、SNS上でHIV(ヒト免疫不全ウイルス)感染を公表。しかも、感染は出会い系アプリで知り合った女性と関係を持ったためという生々しい経緯まで隠さず語った。「自業自得だ」などとネット民の罵りを受けながらも、男性が伝えたかったこととは。

出会い系アプリで知り合った女性と結婚を前提に

「私はHIVの感染者です」

 動画の中で男性は本名を名乗った上でそう明かした。SNSに動画や文章を投稿して自らの経験を晒した中国貴州省に住む36歳の晏治国さんは、「改めて自分自身が事実を受け止めるためと、動画を見てくれた人に注意を呼びかけるため」とその理由について話している。

 本人の説明によれば、晏さんは去年11月17日、出会い系アプリを通じてある女性と知り合った。晏さんとその女性は、結婚を前提にアプリ上で交流を深めた上、面会もした。話ははずみ、真剣に付き合おうという流れになった。

 何日かして、女性が「仕事を辞めて住むところが無いが、お金はあまり持っておらずホテルには泊まるのはもったいない」という話をした。晏さんは自分が費用を払ってあげるので、ホテルに泊まるようすすめたが、彼女は晏さんのお金を使わせたくないと言って頑なに拒んだ。晏さんは「私はその時、この人は本当にいい人だと思った」という。

 晏さん家にはソファがあるので、しばらく自分の家で過ごせばいいと、女性を誘った。

「それが自ら災いの種を蒔き、悪夢の始まりになるとは思いもしませんでした」

 晏さんはその女性と関係を持った。

HIV感染の経緯を自ら語る晏治国さん(晏哥抗艾のウエイボーより)
HIV感染の経緯を自ら語る晏治国さん(晏哥抗艾のウエイボーより)

買い物から戻って来ると...

 11月28日の朝、女性はめまいがして気分が悪いと訴えた。あるお菓子を食べたがったので、晏さんがその店に買いに行った。およそ1時間後、家に戻った晏さんが目にしたものは…。

 ドアは開けっ放し、デスクの上にあったコンピューター、カメラやレンズ、財布が無くなっていた。女性の姿はなかった。女性は電話に出ず、メッセージを送ってもブロックされていた。晏さんは警察に通報した。

 晏さんの家から財布などを持ち去った女は、4日後の12月2日には捕まった。一件落着と思いきや、なんと晏さんはその後、女がHIVに感染していることを警察から告げられた。

「その時、天が崩れ落ちるかのようでした。全身の力が抜け、両脚がふるえました」

 晏さんはすぐにHIVの検査に行った。

 女と関係を持ってから約2か月、1月28日までに3回の検査を受けたところ、いずれも結果は陰性だった。晏さんは胸を撫で下ろした。

 だが、更に2か月余り経った4月3日頃、体調が思わしくなくなり、めまいやだるさを感じた。改めて検査をしたところ結果は陽性。HIVの感染が確認された。

 晏さんは今、治療を受けている。

結婚相手を探しただけなのに...

「結婚相手を探したかっただけなのに、こんなに重い代償を払うとは思ってもいませんでした」

 晏さんは、告白の動画をこうしめくくっている。

「この動画を撮っている時も、気持ちは穏やかではありません。もしこの動画を見て誰かが何か感じてくれれば、私も生きていることに少しは価値があると思えます」

 こうした告白の後、晏さんは多くの励ましや応援をもらったという。一方で、感染の事実を疑う声や下半身をコントロールできないからHIVに感染したという類の非難も少なからずあったという。ネット上には「自業自得だ」などという心ない書き込みもある。

 晏さんは、沸き起こった疑問や非難に対する回答や反論もSNS上でしている。その中で、エイズは本当に身近にあり、老若男女の誰でもかかり得る病気でありながら、いまだに大きな差別や誤解があるとした上で、「皆には善意を持って、互いを尊重し合って欲しい」と訴えている。

ジャーナリスト

日本テレビ入社後、報道局社会部、調査報道班を経て中国総局長。毒入り冷凍餃子事件、北京五輪などを取材。2010年フリーになり、その後も中国社会の問題や共産党体制の歪みなどをルポ。中国での取材歴は10年以上、映像作品をNNN系列「真相報道バンキシャ!」他で発表。寄稿は「東洋経済オンライン」「月刊Hanada」他。2023年より台湾をベースに。著書に「習近平vs.中国人」(新潮新書)他。調査報道NPO「インファクト」編集委員。

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