五輪開催中の中国で和服を着たら「南京大虐殺を忘れたか」と罵倒された話
中国雲南省の観光地で、日本の和服を着て写真を撮っていた人たちが、「出ていけ」などと罵倒される“事件”があった。北京では平和の祭典を盛り上げるために、「微笑む中国」の演出に必死だが、北京五輪のスローガン、「共に未来へ」の精神には、あまりふさわしくない残念な一幕となった。
和服を着たコスプレの中国人が...
複数の中国メディアが、その際に撮影された動画を取り上げている。
“事件”が起きたのは2月13日。場所は、中国南西部の雲南省、大理白族自治州にある観光スポット。
中国メディアが報じた動画には、中国人の観光客とみられる4人の若者が映っており、そのうち一人の女性は青い和服に赤い帯を締めていた。
その若者たちに、警備員と思われる男が文句をつけたのだ。
若者の側が「写真を撮ろうと思った」と説明するのに対し、男は「写真を撮ってはいけない。ここを離れろ」などと声を荒らげる。
その警備員らしき男は、若者たちとの口論の中で、「日本の和服を着てやってきて…。ここは中国だ」などと罵った。
通行人まで罵倒に参加
「どんな法律が、和服を着てはいけないと規定しているのですか」
若者の側が抗議すると、警備員らしき男は、激昂した様子で、こう怒鳴りつけた。
「南京大虐殺を忘れたのか」
若者たちは口論しても無駄と思ったのか、その場を離れるのだが、それでは終わらなかった。
大人しく立ち去ろうとする若者たちを、通りすがりと思われる一人の人物が大声で罵ったのだ。声から判断すると中年女性のようだった。
「日本人が自分たちの祖先を侵略したというのに、お前らは和服を着るのか。こんな娘たちは大理に来なくていい。大理から出ていけ」
更に追い討ちをかけるように、若者たちを罵倒した。
「お前達はろくでなしだ!」
中国メディアによれば、現場の管理部門は、写真を撮ってはいけないなどという規定は無いと回答しており、すでに関係部門が調査をしているという。
偏狭なナショナリズムは一部だが...
このニュースの書き込みを見ると、「中年女性が中国人の気持ちを言ってくれた」という声もあれば、「中年女性こそがろくでなしだ」という声もあった。私の印象では、若者たちを追い出した警備員や中年女性を支持する声よりも、非難する声が多いようだ。
今大会、スノーボード男子ビッグエアで金メダルを取った中国の蘇翊鳴選手のコーチは日本人。その日本人コーチが中国チームのユニフォームを着ている点に触れ、「誰もおかしいとは言わないでしょ」などと五輪を意識した声もある。
つまり、偏狭な愛国主義を振り回す人は、ごく一部でしかない。とは言え、中国ではしばしば、特に日本に対しては、同様な“事件”が起きるのも事実だ。
五輪の場でアスリートたちが見せるライバル選手への友情や敬意といった五輪の精神の体現を、中国は、あたかも中国のモノのように見せようとしている節がある。だが、中国が自ら掲げた北京五輪のスローガンのように、本当に世界と「共に未来へ」向かうつもりがあるならば、今回の“事件”のような国内の現実を直視して欲しい。