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「早く結婚しろ」のプレッシャーから中国人の若者はどう身を守るのか?

宮崎紀秀ジャーナリスト
春節は家族団らんの時でもあるが...(2022年2月1日北京)(写真:ロイター/アフロ)

 今、中国と言えば北京五輪だが、オリンピックで自国選手の活躍に歓喜し、華麗な演技を見せる羽生結弦選手に熱狂する若者がいるのは日本も中国も同じ。人権や領土の問題を巡っては強面の中国でも、そこに暮らす庶民は、日本の人たちとそう変わらない。そんな話題を一つ。

 中国では2月1日に旧正月「春節」を迎えたばかり。実家に帰省した若者が、親や親戚から受ける、結婚催促の強烈なプレッシャーから身を守る最大の武器は、「話題をそらす」だった。

中国人の若者を悩ます結婚プレッシャー

 中国共産党の指導下にある青年組織「共青団」の機関紙「中国青年報」は、2021年に未婚の若者に対して行った調査結果を報じた。調査は、同紙の社会調査センターと調査サービスのプラットホーム「問巻網」が合同で行ったという。

 春節は中国では一年で最大の休暇でもあり、多くの人が故郷に帰省する。そんな時、年頃の未婚の若者が直面するのが、親や親戚による“結婚プレッシャー”だ。

 今回、調査に応じた若者の68.2パーセントが、結婚や恋愛相手を探すよう催促を受けた経験があるという。また、それが春節に帰省する際のプレッシャーを増していると答えた人は、80.6パーセントに上ったという。

 年頃の男女が、周囲からの結婚プレッシャーを鬱陶しく感じるのは、中国でも同じのようだ。

プレッシャーは男性の方が厳しい?

 中国ではしばしば生まれた年代によって、世代を特徴づけるが、今回の調査の対象となった男女は、2000年代生まれ、1995年以降生まれ、1990年以降生まれ、1985年以降生まれとなっている。つまり、調査時で21歳〜25歳、26歳〜30歳、31歳〜35歳、36歳以上ということになる。

 このうち、最も結婚の催促を受けていたという世代は、90年以降生まれ。即ち31歳〜35歳の人。81.3パーセントが催促されていた。

 催促を受けたのは男性では73.6パーセント、女性では64.6パーセント。中国では男性の方が激しいプレッシャーを受けているらしい。一般論だが、中国では男性は家庭を持って一人前と考える人は確かに多い。

最適な防御策とは?

 さて、こうした結婚プレッシャーに晒される中国の若者たちは、どのように“身を守る”のか。この結果が、なかなか興味深い。

 59.2パーセントと最も多くの人がとる防衛策とは「話題と注意をそらす」。

 本人たちには申し訳ないが、親や親戚に囲まれて結婚プレッシャーの集中砲火に耐えながら、話題を変えるきっかけを逃すまいと必死になっている若者の姿が目に浮かび、ちょっと微笑ましい。

 次点は「相手が何を言おうと賛同する」で、53.0パーセントが採用。「面従腹背」ではないだろうが、中国の若者らしいしたたかさがあって、これも愉快だ。

 他の手段として、「忙しくする」「先制攻撃で相手のことを尋ねる」「遊びに行ってしまう」という方法があるらしい。

 本来の意味とは違うが、「上に政策あれば、下に対策あり」の言葉を産んだ中国の若者らしい、と妙に感心してしまった。

22歳の独身女性は...

 記事は、22歳の女性のコメントを紹介している。大学院生でまだ独身という彼女は春節には、常に恋愛プレッシャーを受けるという。

「食べながらおしゃべりをしていると、必ず私に聞いてくる。『彼氏はいるの?』『今年はいくつになったの、彼氏を探さないと』」

 親戚らとおしゃべりをする際には、“永遠に避けられない話題”だという。

 そんな時には、この女性は、“しらばっくれる”そうだ。話題をそらす作戦だ。

「この方法は、とても有用ですよ。例えば、話題を私の勉強や、今直面している就職のことに持って行きます。勉強の計画や将来の仕事について話せば、みんなの注意を素早くそらすことができます」

どこでも親は心配するもの...

 中国では、春節の前後には、若者から結婚プレッシャーを受けるという愚痴を度々聞かされた。それは風物詩のようなものだと思いつつ、時には同情もしたが、案外、彼らも楽しみながら、うまくすり抜けていたのかもしれない。

 記事の中で、ある専門家が、親が子供の結婚を心配するのは、間違ってはいないとした上でこうコメントしている。

「自分が子供達の代わりになるわけにはいかないことに気づかなくてはいけません。適切に指摘してやれば、それでいいのです。今、一部の家庭では結婚の催促があまりに激しくて、子供たちが家にあえて帰ろうとしなくなっています」

 社会の変化の早い中国では、世代ごとに考え方も大きく異なる。世代間で価値観のギャップに悩むのも、国境はあまり関係ない。

ジャーナリスト

日本テレビ入社後、報道局社会部、調査報道班を経て中国総局長。毒入り冷凍餃子事件、北京五輪などを取材。2010年フリーになり、その後も中国社会の問題や共産党体制の歪みなどをルポ。中国での取材歴は10年以上、映像作品をNNN系列「真相報道バンキシャ!」他で発表。寄稿は「東洋経済オンライン」「月刊Hanada」他。2023年より台湾をベースに。著書に「習近平vs.中国人」(新潮新書)他。調査報道NPO「インファクト」編集委員。

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