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9人死亡のパキスタンのバス爆発は、中国が狙われた?

宮崎紀秀ジャーナリスト
パキスタンのバス爆発(写真は被害者が運ばれた病院付近 2022年7月14日)(提供:REUTERS TV/ロイター/アフロ)

 パキスタン北西部の山岳地帯でバスが爆発し中国人9人が死亡した事件に、中国側が神経を尖らせている。中国は事件の解明を急ぎ、早速、警察官を含むチームを現地に派遣した。習近平政権は、この事件を自国民が偶然に巻き込まれたわけではなく、「中国が狙われた」とみなして警戒しているからだ。何故なのか?

中国は警察官らのチームを現地に派遣

 中国は警察官を含む協力チームをパキスタンに派遣した。新華社通信によれば、17日は事件現場に到着し、証拠集めなどの調査を行ったという。

 この事件は、パキスタン北西部カイバル・パクトゥンクワ州の山岳地帯で14日、中国人技術者らが乗ったバスが爆発して谷に転落したもの。ロイター通信などによれば、中国人9人を含む少なくとも13人が死亡、36人が負傷した。

 当初、ガス漏れによる事故と思われたが、パキスタン当局は爆発物の痕跡が見つかったなどとして、テロの可能性は排除できないとし、中国外務省の報道官も同日の記者会見で、爆弾による襲撃事件と呼び、パキスタン側に徹底した調査を依頼したと明かした。爆発は何者かによるテロという見方が強まった。

被害者は習近平政権がすすめる「一帯一路」従事者

 バスに乗っていたのは水力発電用のダム建設にあたる中国人技術者やパキスタン人の建設作業員だったという。このダムは、2013年に中国側から提唱され、2015年から始動した「中国パキスタン経済回廊」計画の一部。

「中国パキスタン経済回廊」とは、中国西部の新疆ウイグル自治区からパキスタンを横断し、アラビア海に面するグワダル港に達するインフラ計画で、港湾の整備や道路建設も含まれる。600億ドル(約6兆6千億円)以上が投じられたとされる。習近平政権が肝煎りで進める巨大経済圏「一帯一路」の目玉の一つでもある。

 このバス爆発事件を中国はどう捉えたか。

「中国人に手を下す者は、誰であれ滅亡の道を歩む。我らが同胞にテロ攻撃を仕掛ける者を必ず誅殺する。

 非常に強硬な姿勢を示したのは、中国共産党系の新聞「環球時報」の論評だ。

 事件をこう分析している。

「パキスタンの中には中国を恨む大きな政治や社会の要因はない。中国人を狙った攻撃は、パキスタン政府への攻撃の意味が大きい。彼らはパキスタン政府が、中国との関係を重視していることを知っており、中国への攻撃を特別な手段としている」

 テロリストが自国政府に圧力をかけるため、関係の深い外国の権益や外国人が直接又は間接的にターゲットになるのは珍しくはない。2016年にバングラデシュのダッカでイスラム過激派がレストランを襲撃し、日本人7人が死亡した事件もそうだった。

犯人は「中国の敵」

 その上で、中国にとって見れば、今回の攻撃が、習近平政権が進める「一帯一路」に向けられたとも解釈できるのだ。

「環球時報」の論評はこう断じている。

「中国人と中国のプロジェクトにテロ攻撃を仕掛ける者は、何者であれ自らを中国の敵と位置付けたに等しい」

 実はパキスタンで中国人や中国の権益を狙ったと見られるテロが起きたのは初めてではない。例えば、今年4月には、南西部のクエッタで中国大使が宿泊に使っていたホテルで爆発があった。2018年11月には南部カラチの中国総領事館が、武装集団による襲撃を受けている。

狙われる中国の権益

 中国が世界での影響力を強め、権益を増やせば増やすほど、国外の中国関連のプロジェクトや施設などがテロの対象に選ばれやすくなるのは避け難い。残念ながら今後も同様の事件は増えていくはずであるが、中国は周辺諸国への経済的な影響力を「一帯一路」という国家事業として強めているわけだから、中国にとっては、国外でのこうしたテロ行為も国益への直接の脅威である。

 だからこそ中国としては、今回のような経験を通じ、迅速に相手国と協力し、再発防止に尽力する、あるいは相手国に尽力させる手腕を高めていく必要がある。

 先の「環境時報」の論評は「中国はパキスタン政府が彼らを殲滅することを支持する」と表明した上、更にパキスタン側が必要とするなら、特殊部隊などを派遣する意欲まで示した。そしてこう述べている。

「パキスタン国内の中国への脅威を根絶やしにして一罰百戒とする」

ジャーナリスト

日本テレビ入社後、報道局社会部、調査報道班を経て中国総局長。毒入り冷凍餃子事件、北京五輪などを取材。2010年フリーになり、その後も中国社会の問題や共産党体制の歪みなどをルポ。中国での取材歴は10年以上、映像作品をNNN系列「真相報道バンキシャ!」他で発表。寄稿は「東洋経済オンライン」「月刊Hanada」他。2023年より台湾をベースに。著書に「習近平vs.中国人」(新潮新書)他。調査報道NPO「インファクト」編集委員。

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