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児童への性暴力を通報し報復された女性教師が今、中国で称賛されるワケ

宮崎紀秀ジャーナリスト
生徒への性暴力を通報した女性教師、何思雲さん(本人のウエイボーより)

 生徒に対する同僚の教師の性暴力を女性教師が警察に通報した。するとこの女性は“報復”により、教職を去る結果となった。4年近く前に起きた騒動の正義の女性教師が、今、再び中国メディアで話題となっている。

「触られる」「布団に血の跡」

 その女性教師とは、広西チワン族自治区、平南県の思旺鎮にある小学校で算数を教えていた何思雲さん(当時27歳)。何さんは、2017年5月に、保護者の迎えを待つ生徒らのために学校が設けている預かり施設で、生徒が性暴力を受けていることを知った。「夜になると、触られる」という被害は、7、8人が受けていたという。布団に血の跡がついていたなどという話も耳にした。

 何さんの証言やそれを報じたメディアによれば、彼女は、学校に警察へ通報するよう求めたが、学校は何もしなかった。地元の教育局長にも報告したが、こちらも手を打つ様子はなかった。

 そのため、何さんは自分で警察に通報した。

警察に通報。それは越権行為?

 この性暴力事件は、中国メディアで報道されるに至る。その後、鎮政府のトップが警察を伴い何さんの自宅を訪ねて来た。そしてこう“警告”した。

「あなたの行為は間違っていないが、方法が間違っていた。自分たちに報告するだけでよかった」

 また、学校は会議を開いて「誰もメディアの取材を受けてはいけない」と“口止め”したという。

 さらに、何さんは平南県の教育局から「告発する人がいたので、あなたの教師の資格について改めて審査する」と通告を受けた。

通報の代償は失業?

 何さん自身によれば、教師資格は、大学生時代にきちんと教習を終えて得た物だが、平南県の教育局は、何さんの教師資格を偽物と判断した。

 何さんは、その年の9月、契約満了となり学校を去った。

 複数の中国メディアは、彼女が教育現場を去らざるを得なかったのは、学校や教育局長の頭を飛び越して警察に通報したために「越権行為の報復を受けた」と報じた。

 ただ、平南県の教育局などによる説明は、上記の経緯とは微妙に異なる。何さんの処遇についても「通報とは関係ない」と説明している。

 この事件では、性暴力をした教師は逮捕され懲役4年の実刑判決を言い渡された。学校の校長は免職、平南県の教育局長は訓戒とそれぞれ処分を受けた。

正義の女性教師の“華麗な”転身?

 事件から4年近く経った今、再び何さんが話題になっているのは、自分の名前を冠したブランドで、広西チワン族自治区の名物をネット販売していることが明らかになったからだ。その名物とはタニシだしのビーフン。ネットショップ上では320gの10袋入りが108元(約1700円)で販売されている。

 この転身ぶりを最近になって中国メディアが報じた。ネット上では、「責任感のある優秀な教師が、タニシビーフンを売っているのはとても残念」「このような人を見本としなければ、将来の子供達は希望が持てない」など、何さんを称える書き込みが溢れた。

タニシビーフンのネット販売に転じた何思雲さん(本人のウエイボーより)
タニシビーフンのネット販売に転じた何思雲さん(本人のウエイボーより)

夢は幼稚園の園長?

 何さん自身は、性暴力事件と自分の受けた境遇に関する一連の経緯については「もう過去のこと」という立場だ。しかし、自身のウエイボー(中国版SNS)では、彼女らしい考えを示している。

「児童への性暴力の取り締まりに対し、我が国は力の入れ方がまだ足りません。法を整備し、本当に子供を保護する壁を作るべきです」

 今はビジネスでの成功を目指す何さんだが、こんな夢を明かしている。

「多くの人が、教師をやめてタニシビーフンを売るのは残念と言ってくれますが、私はあまり気にしません。ネットショップでうまくやってお金ができれば、その後の目標は、自分の幼稚園を開いて愛情たっぷりの園長になることです」

ジャーナリスト

日本テレビ入社後、報道局社会部、調査報道班を経て中国総局長。毒入り冷凍餃子事件、北京五輪などを取材。2010年フリーになり、その後も中国社会の問題や共産党体制の歪みなどをルポ。中国での取材歴は10年以上、映像作品をNNN系列「真相報道バンキシャ!」他で発表。寄稿は「東洋経済オンライン」「月刊Hanada」他。2023年より台湾をベースに。著書に「習近平vs.中国人」(新潮新書)他。調査報道NPO「インファクト」編集委員。

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