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新型コロナで日本は緊急事態の延長へ?中国は北京の厳戒態勢を緩和へ

宮崎紀秀ジャーナリスト
厳戒態勢が緩和されつつある(2020年4月30日北京:筆者撮影)

 中国の首都北京では、今日から新型コロナウイルスの感染予防対策の一部を緩和した。WHO・世界保健機関が1月30日に「世界的な緊急事態」を宣言してから3か月。中国はいち早く首都防衛の成果に自信を見せた形だ。

北京では14日隔離はほぼ不要に

 北京市は昨日午後の記者会見で、きょう4月30日午前0時から「公共衛生上の突発事態への対応体制を1級から2級に格下げする」と発表した。

 具体的には以下のような変化がある。

 国内の感染リスクの低い地域から北京にやって来た人や、北京から感染リスクの低い地域に出張し、戻って来た人に対しては14日間の隔離を不要とした。

 しかし国外や湖北省から来る人に対しては、引き続き隔離を要求している。

 感染リスクの「低くない地域」とは、例えば、黒竜江省内や遼寧省内の一部。現時点で「中程度の感染リスク地域」とされている。

 北京では、これまで北京以外からやってくる全ての人の隔離を義務付けていた。本日からは湖北省や上記のような一部地域を除くものの、中国国内であるならば、ほぼ全土の人が、北京にやって来ても隔離を経ずに、生活や仕事が始められるようになった。

国内からなら隔離はほぼ不要に(2020年4月30日北京:筆者撮影)
国内からなら隔離はほぼ不要に(2020年4月30日北京:筆者撮影)

 一方、海外からの渡航者に対しては依然として厳しい。

 海外から北京に来た場合は、14日の集中隔離とPCR検査の実施に加え、14日の隔離が終わった後、更に7日間の自宅隔離を義務付けている。

これからは友達訪問が可能に

 またすでに北京で生活している人にとっても大きな改善があった。

 これまでマンションなどでは、住民以外の人の訪問は許されなかった。住民は実名の入った「通行証」を持たされ、出入りの際に提示を求める方法で管理されていた。

 これが、今日からは、住民以外でも、スマホの健康アプリで、過去14日間に感染リスクのある地域を訪れていないことなどを証明する「緑コード」を示せば、氏名などを登録した上で出入りが可能になった。

 つまりこれまでできなかった友達同士の自宅訪問ができるようになった。

宅配便の配達員は中に入れず団地の前に荷物をおいていた(2020年3月2日北京:筆者撮影)
宅配便の配達員は中に入れず団地の前に荷物をおいていた(2020年3月2日北京:筆者撮影)

 宅配便やデリバリーの配達員に対しても同様の扱いになった。配達員は、団地の門やマンションのフロントまでしか入れなかったが、今後は「緑コード」を示し登録すれば、各家庭までモノをきちんと配達できるようになった。

実際には...

 実際に私が住むマンションの警備員に今朝、尋ねてみた。答えは「友達は訪問できるようになったと上から指示があったが、宅配便やデリバリーはまだダメ」だった。それぞれのマンションによって運用は多少異なるようだ。

 中国では明日5月1日から、労働節を始めとする長期休暇に入る。これに合わせ、臨時閉館していた故宮博物館など北京市内の博物館や美術館も順次再開する。北京では確かに日常生活が戻りつつある。

日常生活が戻りつつあるのだが...(2020年4月30日北京:筆者撮影)
日常生活が戻りつつあるのだが...(2020年4月30日北京:筆者撮影)

 飲食店で働く女性(30歳)は、今回の変化を素直に喜ぶ。

「中国の感染症は、うまくコントロールされた。これからは、国内の往来も便利になるし、経済にはすごく良いでしょう」

別の思惑も?

 しかし、今日からの緩和には別の見方もある。

 実は、対策の緩和を北京市が発表した昨日、全国人民代表大会(全人代)の開催日が発表された。全人代とは日本の国会に当たる。例年、3月に開幕するのだが、今年は新型コロナウイルスの感染拡大で延期せざるをえず、開幕は5月22日とようやく発表されたのだ。

 全人代は、北京の中心にある人民大会堂に各地から代表が集まり、政治議題を話し合う1年で最大の政治イベント。淀みなく開催するためには、北京での対策の緩和は必然だった。  

 今回の措置に懐疑的なのは、国有企業に勤める男性(33歳)。

「ウイルスがいきなり消えることはない。全ては来月の全人代のためです。我々庶民は、引き続きマスクをつけていますよ」

庶民はマスクをつけ続ける?(2020年4月30日北京:筆者撮影)
庶民はマスクをつけ続ける?(2020年4月30日北京:筆者撮影)
ジャーナリスト

日本テレビ入社後、報道局社会部、調査報道班を経て中国総局長。毒入り冷凍餃子事件、北京五輪などを取材。2010年フリーになり、その後も中国社会の問題や共産党体制の歪みなどをルポ。中国での取材歴は10年以上、映像作品をNNN系列「真相報道バンキシャ!」他で発表。寄稿は「東洋経済オンライン」「月刊Hanada」他。2023年より台湾をベースに。著書に「習近平vs.中国人」(新潮新書)他。調査報道NPO「インファクト」編集委員。

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