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ある日、夫が消えた〜新型コロナを口実に刑期を終えても家族に会わせず?

宮崎紀秀ジャーナリスト
王全璋弁護士。妻の李文足さんと息子の泉泉ちゃんとともに(家族提供)

 およそ5年前に行方不明となり、その後、政治犯として実刑判決を受けた中国の人権派弁護士がきょう刑期を終え、出所した。しかし新型コロナウイルス対策として、さらに隔離措置が採られた。家族に面会できない状態が継続している。

政治犯として実刑を受けた弁護士

 きょう刑期を終え出所したのは人権派弁護士・王全璋氏(44歳)。王氏は、国家政権転覆罪で2019年1月28日に懲役4年6か月、5年間の政治的権利剥奪という実刑判決を受けた。

 王氏は、中国が邪教とする「法輪功」の信者や、立ち退きで土地を失った農民らの弁護も厭わない、人権派弁護士だった。

突如、行方不明に

 王氏と妻の李文足さんは、2015年6月、中国南部の蘇州に向かった。王氏は出張、妻の李さんは友人に会うため、2人は駅で別れた。その1か月後の7月10日から王氏は音信不通となった。王氏とその家族にとって、長く辛い日々の幕開けだった。

 後に中国当局がこの時期に、人権派の弁護士や活動家らの一斉摘発に乗り出したことがわかった。「709弁護士一斉摘発」事件などと呼ばれる。香港の人権団体によれば、取り調べや行動の自由を制限された人は、300人以上に上ったという。

 うち、王氏を含む15人が起訴された。なぜか王氏だけは3年以上経っても裁判が開かれなかった。家族が依頼した弁護士さえ面会が許されず、本人に関する情報がほとんど漏れてこない状態が続いた。

夫の安否を求め奔走した李文足さん(2018年1月19日北京)
夫の安否を求め奔走した李文足さん(2018年1月19日北京)

生死さえ分からぬ家族の苦悩

 家族には、王氏の生死さえ分からない日々が続いた。妻の李文足さんは、夫の安否を求め奔走した。中国当局の不当性を訴え、情報公開などを求め続けた。人権派の弁護士や、同様に弁護士の夫を拘束された妻らが彼女に続いた。国際社会も弁護士たちの置かれた境遇に強い懸念を示した。王氏や妻の李文足さんは、中国の人権抑圧の象徴的な存在となった。

 冒頭に触れたように、2019年1月に王氏に実刑判決が出された。その年の6月、王氏は初めて家族との面会が許された。

 妻の李文足さんは、4年ぶり約30分間の面会を終えた後、号泣した。喜びからではない。

 夫が、まともにコミュニケーションできない精神状態になっていたからだ。落ち着きなく焦ったように話し、妻の話はまるで聞いていないようだった。

 後に面会を重ねるうちに、王氏の精神状態は回復し、今では会話も成立するようになったという。李さんは最初の面会の際に受けた衝撃をこう綴っている。

「プログラムされた生気のないロボットのようになってしまった。(面会を終えた後)振り返って私たち母子を一目見ようともしなかった」

初めての面会を終えた妻、李文足さんと息子(2019年6月28日山東省臨沂の刑務所前)
初めての面会を終えた妻、李文足さんと息子(2019年6月28日山東省臨沂の刑務所前)

釈放、そして家族再会のはずが

 そうした苦悩の日々を経て、やっと迎えたきょう。李さんは午前9時過ぎに王氏本人から電話を受けたという。今朝5時過ぎには刑務所を出て、戸籍のある山東省の済南市に到着。そこで電話をかけてきたという。

 新型コロナウイルス対策として、出所後に更に山東省で14日間隔離するという措置は事前に聞かされていた。李さんは、自分や息子の住む「北京で隔離すべき」と訴えたが、それは叶わなかった。

 中国当局はおそらく外国の大使館やメディアが集中する北京で注目されるのを避けたかったのだろう。

 李さんはこう抗議している。

「新型コロナウイルスを口実に、(夫の)全璋の自由を違法に制限している」

ジャーナリスト

日本テレビ入社後、報道局社会部、調査報道班を経て中国総局長。毒入り冷凍餃子事件、北京五輪などを取材。2010年フリーになり、その後も中国社会の問題や共産党体制の歪みなどをルポ。中国での取材歴は10年以上、映像作品をNNN系列「真相報道バンキシャ!」他で発表。寄稿は「東洋経済オンライン」「月刊Hanada」他。2023年より台湾をベースに。著書に「習近平vs.中国人」(新潮新書)他。調査報道NPO「インファクト」編集委員。

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