Yahoo!ニュース

新型コロナ、“水際対策破り”で200人を隔離させた中国人の場合

宮崎紀秀ジャーナリスト
中国は国外からの感染流入を警戒。写真は武漢での消毒作業(2020年4月2日)(写真:ロイター/アフロ)

 新型コロナウイルスの感染の逆流入を警戒する中国で、司法当局が、“水際対策破り”の具体例を公開した。中国では、国外から流入する感染確認者が増加しているが、中国外務省によれば、実はその9割は海外から帰国する中国人。「外からは流入を防ぎ、内では再燃を防ぐ」というスローガンを唱える中国当局が「逆流入を断固として許さない」と、国民に示す“脅し”とも言えるメッセージだ。

“水際対策破り”を公表

 最高検察人民検察院と公安省によれば、4月1日までに、国外からの感染流入を防ぐ措置にかかわり、警察が扱った刑事事件は200件近くに達したという。そのほとんどは軽微だが、中には、深刻な結果を招いたものもあった。きょう、同院が主管する「正義ネット」上で、国外からの感染者を処罰した具体例を発表した。

大学生がスプレッダー?

 その一つは、イランの大学で言葉を学んでいたという23歳の男。男がイランから飛行機に乗ったのは現地時間の2月19日。モスクワ経由で上海の浦東国際空港に到着したのは2月20日深夜。その日は空港からタクシーでホテルに向かった。

 2日後の22日、鉄道で上海を発ち、甘粛省の蘭州で乗り換え、24日の未明に故郷である寧夏回族自治区にある中衛駅に到着した。そこで現地の防疫対策に従い隔離措置が取られた後に、感染が確認された。

発熱や咳の症状を隠して入国

 男は、イランで飛行機に乗る頃からすでに倦怠感や悪寒を感じ、翌日には発熱や咳などの症状も出ていた、と明かしたという。しかし上海で入国した際に、健康申告カードに咳などの症状を記入していなかった。

 きちんと申告していれば、上海で隔離されたはずだが、実際は、男はその後も交通機関や公共スペースを自由に出入りしていた。

200人余りが隔離へ

 その結果、上海や蘭州など複数の都市に亘り、200人余りが濃厚接触者として、隔離される事態をもたらしたという。

 男は現在、感染から回復後の隔離期間にあるが、警察は、すでに「国境衛生検疫を妨害した容疑」で調べており、司法機関が隔離終了を待って更に法的責任を追及するという。

発熱などの症状を申告せず入国した男(2020年2月20日上海浦東国際空港 中国「正義ネット」より)
発熱などの症状を申告せず入国した男(2020年2月20日上海浦東国際空港 中国「正義ネット」より)

ミラノ、パリの周遊を隠し

 49歳の別の男は、出張のため3月1日に北京を発ち、アラブ首長国連邦のアブダビ経由で、ミラノ、パリと周遊し7日に北京に戻った。その日のうちに鉄道を利用し、自宅がある河南省の鄭州に帰った。

 翌8日、翌々日の9日と地下鉄で普通に出勤していたが、9日の勤務終了後、発熱や、喉の痛みなどの症状が出始めた。男は薬局で薬を買って帰り、その夜は男の母が、漢方薬を煎じて飲ませていたという。

母が息子をつい庇ってしまった?

 翌日、地元の警察が男の海外渡航歴に気づき、自宅に電話をかけた。鄭州でも国外から来た人に対して隔離などの措置が義務付けられていたためだ。しかし、電話を受けた母親は、息子が国外を出た事実について否定したという。その後、男は感染が確認された。濃厚接触者40人余りが隔離される結果を招いた。

 男は「伝染病予防を妨害した罪」で懲役1年6か月の判決を受けた。

一部の国が全世界に災難を招く?

「一部の国では、感染拡大が速い」

 中国政府の衛生部門の専門家チームを率いる鍾南山氏は、そう認識を示した上で、次のように述べた。

「もし一部の国で、感染症を抑えられなければ、全世界に災難を招く。いかなる国も部外者ではいられない」

 そもそも、中国の失策が、世界に感染を拡げた事実を思い出せば、随分、無責任な物の言い方という気もするが、防疫対策を担う彼からすれば率直な気持ちかもしれない。

 今回、司法部門が厳しく処罰した具体例を公開したのは、“水際の防疫破り”を「決して許さないぞ」という中国当局の強い方針の現れと言えそうだ。

ジャーナリスト

日本テレビ入社後、報道局社会部、調査報道班を経て中国総局長。毒入り冷凍餃子事件、北京五輪などを取材。2010年フリーになり、その後も中国社会の問題や共産党体制の歪みなどをルポ。中国での取材歴は10年以上、映像作品をNNN系列「真相報道バンキシャ!」他で発表。寄稿は「東洋経済オンライン」「月刊Hanada」他。2023年より台湾をベースに。著書に「習近平vs.中国人」(新潮新書)他。調査報道NPO「インファクト」編集委員。

宮崎紀秀の最近の記事