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武漢訪問を隠し医師ら30人余りを新型コロナの危険にさらした中国人とは?

宮崎紀秀ジャーナリスト
病院が足らず武漢では公共施設を急遽病院に改造している(2020年2月4日武漢)(写真:ロイター/アフロ)

 湖北省武漢市から感染が広がる新型コロナウイルス。同省だけでも感染者数は16000人以上、死者は479人に達した。感染拡大が続く中、武漢などへの訪問歴を隠して、周囲の人や医師らを感染の危険にさらす身勝手な「スプレッダー」の存在が中国で次々と明らかになった。

 各地の警察などは厳しく取り締まる姿勢を見せている。

医師らを危険にさらしたのは69歳の老人

 その1人は、四川省の天全県に住む69歳の男。男は1月17日未明、安徽省から列車に乗り湖北省の武漢の漢口駅に到着した。乗り換えまで約2時間あったために、男は駅を一度出て食事を取った。その後、再び列車に乗り10時間近くかけて四川省の成都に着いた。その夜、自家用車で天全県に戻った。

 男は武漢を訪問した事実を関係部門に報告せず、その事実を隠しながら、その後、他人と食事をするなど周囲の人たちに接触していた。

 天全県に戻ってから10日後、咳や痰が絡むなどの症状が出たため、男は地元の病院に行った。4日後、新型コロナウイルスによる肺炎と診断され隔離措置が取られた。

 男は治療期間中に度々、医師らから尋ねられたにもかかわらず、武漢を訪問した事実を隠し続けたという。

 男のこの行為により、100人余りが隔離され経過観察される事態になった。その中には医療関係者30人余りが含まれる。

隠蔽は厳罰に。死刑も?

 警察は、中国の刑法にある「危険な方法で、公共の安全に危害を与える」罪の容疑で男を調べているという。他人を死亡させるなど深刻な事態を招いた場合、同罪の最も重い罰は死刑だ。

 広東省の深センで、湖北省からやってきた事実を隠していたのは64歳の女。感染者である。

 彼女は1月21日に、娘を訪ねるため、67歳の夫と共に湖北省の武昌市から深センにやって来た。その翌日と翌々日に病院に行き、26日に感染確認された。彼女は、その後、別の病院に移送されるが、この間、湖北省から来た事実をずっと隠していたという。

1人の男で隔離は4000人?

 福建省の英林鎮で明らかになったケースでは、一部メディアが4000人余りに対し隔離措置、と報じている。

 男は、武漢への訪問歴があったが、フィリピンに行っていたなどと嘘をつき、1月22日に地元で開かれた宴会に参加するなどしていたという。宴会はテーブルが300卓以上も用意され、1000人以上参加する盛大なものだったらしい。男は後に感染が確認され、宴席を共にした人らが隔離された。

 山東省イ坊市の警察もきょう、同様のケースを発表した。やはり感染者が、武漢ではないものの訪問地や行動歴を偽って報告したとしている。68名の医療関係者を含む、合わせて117人が隔離される結果になったという。

今こそ問われる?個々人の良心

 医師らは連日連夜、増え続ける患者の対応に追われている。彼らが隔離されなければならないような事態は、医療現場にとっては大きな打撃だ。それでは助かるはずの患者も助からない。

 この数日、中国では当局やメディアが、感染者の「隠蔽工作」を立て続けに明らかにしている。こうした「隠蔽」は、中国の「刑法」や「伝染病予防法」に違反すると警告している。

 国や社会がどれだけ力やコストを割いて、感染を封じ込めようとしても、このような個人レベルの「悪意」が蔓延しては、どんな努力も水泡に帰してしまう。未知なる脅威に社会、いや世界全体で立ち向かわなければならない今こそ、一人一人の良心が大きな力になる、という教訓としたい。

ジャーナリスト

日本テレビ入社後、報道局社会部、調査報道班を経て中国総局長。毒入り冷凍餃子事件、北京五輪などを取材。2010年フリーになり、その後も中国社会の問題や共産党体制の歪みなどをルポ。中国での取材歴は10年以上、映像作品をNNN系列「真相報道バンキシャ!」他で発表。寄稿は「東洋経済オンライン」「月刊Hanada」他。2023年より台湾をベースに。著書に「習近平vs.中国人」(新潮新書)他。調査報道NPO「インファクト」編集委員。

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