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子供の尿で本当に新型肺炎を防げるのか?

宮崎紀秀ジャーナリスト
子供の尿で新型肺炎が予防できる?社会不安が広がる中国では様々なデマが流れる(写真:GYRO PHOTOGRAPHY/アフロイメージマート)

 新型コロナウイルスによる死者が300人を超えた中国では、科学的根拠のない感染予防策など、様々な流言がSNS上で飛び交っている。その背景には、感染源やワクチンを見出せないまま、感染者と死者の増加を止められない現状に対する人々の不安と不信がありそうだ。

「子供の尿」に「60度のお湯」

 そんな流言の中で、最新かつ強烈なのは「8歳以下の子供の尿を飲めば、新型コロナウイルスの感染を予防できる」という予防法。著名な医療関係機関の医師団による臨床実験のデータの結果、というスクリーンショットが出回った。同機関はすぐに「スクリーンショットは合成である」とこの流言を否定したという。

 「60度に沸かしたお湯を少しずつ何度も飲み続ければ、ウイルスを殺せる」という方法もある。もちろんデマである。中国メディアは「ウイルスが入るのは呼吸器系で、お湯が入るのは消化器系である」とその効果を否定する医師の話を引用している。この医師は「お湯を飲んでも、殺菌効果は無いが、火傷をする恐れはある」と注意を促している。

 「鼻腔にゴマ油をつけると、ウイルスの感染を防げる」という奇策もあった。これも、この予防法の唯一の効果は「何の匂いを嗅いでも、ゴマ油の香りがするだけ」と否定されている。

雪でウイルスは凍死するか?

北京は朝から雪に包まれた(2020年2月2日撮影)
北京は朝から雪に包まれた(2020年2月2日撮影)

 きょう北京は雪景色に包まれた。北京では、春節期間中に帰省していた人らのUターンラッシュが始まりつつある。更なる感染拡大が懸念される中で、「雪でウイルスが凍え死ぬのでは?」という疑問というより、期待ともとれる話題が出た。

 中国メディアは「降雪によって確かに空気は綺麗になるが、ウイルスは寒く乾燥した気候を好む」として「決してウイルスが死滅するわけではない」と気象当局の見解を紹介している。

 その上で、雪に付着したウイルスを掘り起こす結果になるので、子供達に雪遊びをさせないよう、専門家のアドバイスも引用している。

 こうしたデマは、感染予防のための“民間療法”だけではない。

「北京の病院から、感染患者1人が逃げ出した」「武漢に10分間滞在しただけの男性が感染した」「現地入りした医療班の為に送られてきた医療物資を、武漢の赤十字が空港で差し押さえた」など。

 このような、当局の対応や情報開示に対する不信を反映するかのようなデマも少なくない。

社会不安を避けたい中国 

 こうした流言には、何者かが悪意を持って流したフェイクニュースもあるだろう。だが、それを生む背景には、有効な感染予防策やワクチンを見出せないまま、じりじりと感染の拡大を許している現状に対する庶民の不信と不安があると言える。中国としては、感染はもとより、社会不安が広がる事態を避けたい。だから、たとえ荒唐無稽なデマであっても、権威あるメディアや関係当局がそれらを一つ一つ事実無根であると断じ、速攻で火消しを図っている。

酒店では96度のウオッカが売り切れ

 「96度のウオッカが売り切れてしまいました」

 そう話すのは、北京市内で輸入酒を販売する男性店主。消毒用のアルコールが不足し、アルコール度数の高い酒を求めたのだろうと推測する。店の棚には売れ残ったウオッカが並んでいたが、いずれも度数は40度程度と低く、消毒には適さないのだという。

 「皆、毎日たくさんの情報を目にするから、恐怖で病気になっているのですよ。SNSにはたくさんの予防法が出ています。本当は科学的な根拠はないでしょうけど」

 そう話す店主だが、自分自身も96度のウオッカを1本自宅に持ち帰り、消毒に使っているという。

 酒は効果があるの?と尋ねると「私は酒を売る人ですから」と照れくさそうに笑った。

 「病気を治す効果はないでしょうけど、消毒の効果なら少しはあるんじゃないですか」

ジャーナリスト

日本テレビ入社後、報道局社会部、調査報道班を経て中国総局長。毒入り冷凍餃子事件、北京五輪などを取材。2010年フリーになり、その後も中国社会の問題や共産党体制の歪みなどをルポ。中国での取材歴は10年以上、映像作品をNNN系列「真相報道バンキシャ!」他で発表。寄稿は「東洋経済オンライン」「月刊Hanada」他。2023年より台湾をベースに。著書に「習近平vs.中国人」(新潮新書)他。調査報道NPO「インファクト」編集委員。

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