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香港デモが続くワケ。過激分子のホンネ?〜「香港は中国の植民地?」

宮崎紀秀ジャーナリスト
香港では若者たちが抗議の声を上げ続けている(2019年8月10日香港)(写真:ロイター/アフロ)

爆発物を隠して逮捕された青年

 香港のホテルで、何気なくつけていたテレビのニュースを見ていて驚いた。手錠をかけられ連行される人物の顔に、見覚えがあったからだ。

 ひょろりと背が高く、色白の文学青年のような風貌。その第一印象には似つかわず、メガネの奥の瞳には、燃えるような怒りをたたえているように見えた。強い意志を示すような固く結んだ口元。

 「逃亡犯条例」の改正に対する若者らの抗議行動が続く中で、今月1日、香港の警察は、爆発物や武器を隠していたなどとして8人を逮捕した。

 その1人が冒頭の人物。香港の独立を主張する28歳の陳浩天。テレビカメラが捉えた陳は、一昨年、私が取材した時よりも少しふっくらしたようにも見えた。

 陳は、香港民族党の設立者。香港の独立を訴える同党は、去年、香港政府から活動禁止命令が出されている。

中国が全てをコントロール・・・

「香港は中国の植民地である」

 陳が私に対して語った考えである。政府、経済、中国本土からの移民の受け入れなど、中国に全てをコントロールされるようになったからだという。

「一国二制度の下では、中国が全てをコントロールし、民主主義は許されない」

 1997年の香港返還の際に、中国の民主化が進み、香港がより住みやすくなるだろうという期待があった。しかし、実際はそうならなかった。少なくとも、陳の理解ではそうだ。

「香港は中国の植民地」と語る陳浩天。香港独立を主張する人物(撮影は2017年6月香港にて)
「香港は中国の植民地」と語る陳浩天。香港独立を主張する人物(撮影は2017年6月香港にて)

大事なのは香港人の生活と文化

 陳は中国本土から大量の移民が流れ込み、香港が中国に同化しつつある現状も懸念していた。自ら主張する「香港独立」が、全ての香港人に受け入られる選択肢ではないことも認識していた。

 様々なトピックを情熱的に語る陳は、香港の将来を危惧する熱血青年という感じだった。

「民主主義を達成し、我々の自由と権利を守ります。独立は手段です。大事なのは、香港人の生活であり文化です」

英語も中国語も堪能。でもインタビューで中国語はNG

 香港で一般的に使われる言葉、香港人の母語は広東語である。中国本土の共通語である普通語(英語でマンダリン)とは違う。

 陳は、普通語をとても綺麗に話した。陳にとって普通語は学校で学んだ言葉である。しかし、カメラで撮影するインタビューでは、普通語を話さない、というのが彼の条件だった。

「民族は中国人だが、アイデンティティは『中国人』ではなく『香港人』」と断言する彼のこだわりである。

 私は広東語が全く分からないので、インタビューは必然的に英語になった。

 余談だが、彼のインタビューで私が聞き取れない単語があり、後に撮影したテープを英語の堪能な同僚に聞いてもらった。「彼の英語はなまっていない?」と言い訳めいて尋ねたら、その同僚から「かなり綺麗でわかりやすい英語を話していますよ」と冷ややかに返されてしまった。

 陳は英語も流暢だった。

「過激分子」のつましい素顔?

 屋外で強い日差しを浴びながらのインタビューになってしまったため、終了後に、近くにあったカフェに入り冷たいものを飲もうということになった。店にはアルコールも置いてあり、「よかったらビールでも飲む?」と水を向けたが、彼はジュースを選んだ。つましい真面目な男だと思った。

 その男が今回、逮捕され「暴力分子の武器庫を粉砕」「香港独立派のリーダー逮捕」などと報じられた。

 中国は領土の分割を決して受け入れない。だから今の香港で「独立」は、「危険」で「過激」な考えだ。当時、取材を邪魔されることはなかったが、陳は警察の尾行を受けていた。

 陳のような考えを持つ者にとって、今おこしている抗議行動は、香港を守るための戦いなのであろう。だからといって、武器や爆発物を隠し持っていたのが事実ならば犯罪だ。それは許されない。

 ただ、香港の将来を真剣に考える優秀な若者が、そこまで思い詰つめなければならない状況が進行している現実が、悲しい。

ジャーナリスト

日本テレビ入社後、報道局社会部、調査報道班を経て中国総局長。毒入り冷凍餃子事件、北京五輪などを取材。2010年フリーになり、その後も中国社会の問題や共産党体制の歪みなどをルポ。中国での取材歴は10年以上、映像作品をNNN系列「真相報道バンキシャ!」他で発表。寄稿は「東洋経済オンライン」「月刊Hanada」他。2023年より台湾をベースに。著書に「習近平vs.中国人」(新潮新書)他。調査報道NPO「インファクト」編集委員。

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