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日本アカデミー賞の装いを総解説 しなやかボディコン、正統派スーツが復活

宮田理江ファッションジャーナリスト/ファッションディレクター
第46回日本アカデミー賞 授賞式レッドカーペット(写真提供: 東京写真記者協会)

「第46回日本アカデミー賞」の授賞式では、例年にもまして、あでやかなセレモニー服に身を包んだ姿が見られました。ようやくいろいろな規制が解けるタイミングとあって、レッドカーペットにふさわしい高揚感や華やぎが復活。トップ俳優たちの晴れ姿は、これからの着こなしに役立ちそうな新トレンドも予感させます。

本格的なドレスアップが戻ってくる流れを示していたのが今年の傾向です。たとえば、例年はパンツルックやドレスの着丈も様々でしたが、今年は床まで届きそうなフロアレングスが主流に。シルエットは縦長のほか、ボディコンシャスやボリュームコントラストが増えました。透けるシアー素材を使い、黒でムードを醸し出すセンシュアル(官能的)な演出が多かったのも目立った変化です。以下に主要各賞の受賞者ルックを解説します。

第46回日本アカデミー賞 授賞式レッドカーペット(写真提供: 東京写真記者協会)
第46回日本アカデミー賞 授賞式レッドカーペット(写真提供: 東京写真記者協会)

優秀主演女優賞は岸井ゆきのさん(『ケイコ 目を澄ませて』)、のんさん(『さかなのこ』)、倍賞千恵子さん(『PLAN75』)、広瀬すずさん(『流浪の月』)、吉岡里帆さん(『ハケンアニメ!』)が選ばれました(50音順)。

◆しなやかなセンシュアル シアーに輝きをプラス

最優秀主演女優賞を受賞した岸井ゆきのさん(写真提供: 東京写真記者協会)
最優秀主演女優賞を受賞した岸井ゆきのさん(写真提供: 東京写真記者協会)

最優秀主演女優賞を受賞した岸井ゆきのさん(『ケイコ 目を澄ませて』)はまばゆいきらめきのドレスに身を包みました。肩から両腕はシースルーでほのかに色香が薫ります。身頃部分と袖口はゴールドで縁取られたうえ、クリスタルでストライプ風に彩られ、縦に流れるような輝きを演出。今シーズンは、シアーやきらめき素材を取り入れた、しなやかなセンシュアル演出に注目が集まります。

◆コルセットやビスチェ、ハーネス ランジェリーエッセンスを上品に

左から、岸井ゆきのさん、のんさん、倍賞千恵子さん、広瀬すずさん、吉岡里帆さん(写真提供: 東京写真記者協会)
左から、岸井ゆきのさん、のんさん、倍賞千恵子さん、広瀬すずさん、吉岡里帆さん(写真提供: 東京写真記者協会)

のんさん(『さかなのこ』)は立体感の際立つ膝丈ドレスで登場。ベアショルダーの上半身はボディにピッタリした細身。一方、スカート部分は内側にパニエを入れて、極端に張り出したクリノリンスタイル。ウエストシェイプを利かせるトレンドと、スカートを過剰に膨らませるトレンドをダブルで取り入れて、めりはりがくっきり。靴は4本のストラップで細感を引き出しています。英国のヴィクトリアン王朝風を思わせるクラシックな装いを現代的に昇華したようなスタイルです。

倍賞千恵子さん(『PLAN75』)は優美な落ち感のある、しっとりとした雰囲気のブラックルック。ほとんど肌を見せないことで、気品を高めています。襟元のレースがアクセント。足先からちらりとのぞくマニッシュな革靴とのムード違いも巧みなアレンジ。アイウエアとのコーディネートは知的な印象もまとわせていました。

広瀬すずさん(『流浪の月』)は上半身がスレンダーで、腰から下は裾広がりという「フィット&フレア」フォルムのロングドレスに身を包みました。デコルテからVゾーンにかけてはシースルーで、センシュアルなたたずまい。ビスチェ風の胸元に加え、レザーの太ベルトでウエストマークしてフェティッシュな雰囲気も漂わせています。

吉岡里帆さん(『ハケンアニメ!』)は白系のロングドレス姿を披露。両袖は二の腕にかかる程度のショートスリーブ。たくさんのフリンジ飾りとハーネス風のディテールが立体的なレイヤードに導いています。足元からはエレガントな厚底シューズがのぞいてグラマラスなムードをプラスしていました。

◆凛々しくエレガントな新フォーマル

最優秀主演男優賞を受賞した妻夫木聡さん(写真提供: 東京写真記者協会)
最優秀主演男優賞を受賞した妻夫木聡さん(写真提供: 東京写真記者協会)

優秀主演男優賞は阿部サダヲさん(『死刑にいたる病』)、大泉洋さん(『月の満ち欠け』)、妻夫木聡さん(『ある男』)、二宮和也さん(『ラーゲリより愛を込めて』)、松坂桃李さん(『流浪の月』)が受賞しました(50音順)。

最優秀主演男優賞を受賞した妻夫木聡さん(『ある男』)は黒の蝶ネクタイに「Dior Men」のタキシード姿で登場。シューズも「Dior Men」です。襟は立ててシャープでモダンな仕上がり。上質な仕立てのフォーマル服がボディにきれいにフィット。いっそう凛々しい印象が備わり、セレモニーにふさわしいムードを漂わせています。

◆蝶ネクタイ、ポケットチーフ、黒スーツ 正統派が復活

左から、阿部サダヲさん、大泉洋さん、妻夫木聡さん、二宮和也さん、松坂桃李さん
左から、阿部サダヲさん、大泉洋さん、妻夫木聡さん、二宮和也さん、松坂桃李さん

阿部サダヲさん(『死刑にいたる病』)は蝶ネクタイを締めたオーソドックスなセレモニースーツをセレクト。一方、シューズにはビジュウが施され、大人の遊び心を感じさせます。今回はこういった黒主体の正統派セレモニールックが復活。小物やディテールで表情を加えるスタイリングが目立ちました。

大舞台に慣れている大泉洋さん(『月の満ち欠け』)も手堅く蝶ネクタイのスーツに身を固めました。ポケットと平行にチーフをのぞかせる、基本の「TVフォールド」式が多い中、あえて3連の山型(スリーピークス)にチーフを挿していたところにこだわりがうかがえます。

二宮和也さん(『ラーゲリより愛を込めて』)は5人のうち、唯一の「非ブラック、非蝶ネクタイ」。グレー系のタキシード風スリーピーススーツと同系色のネクタイでトーンを合わせて異彩を放ちました。

松坂桃李さん(『流浪の月』)はほかの3人と同じくブラック&蝶ネクタイのスタイリング。ポケットチーフもブラックで統一してミニマルにまとめました。スリムなシルエットのおかげで、スラリとした印象が際立っています。

◆ボディコンシャスを優美に シンプル×グラマラスのミックス

最優秀助演女優賞を受賞した安藤サクラさん(写真提供: 東京写真記者協会)
最優秀助演女優賞を受賞した安藤サクラさん(写真提供: 東京写真記者協会)

優秀助演女優賞に選ばれたのは、有村架純さん(『月の満ち欠け』)、安藤サクラさん(『ある男』)、尾野真千子さん(『ハケンアニメ!』)、清野菜名さん(『ある男』『キングダム2 遥かなる大地へ』)、永野芽郁さん(『母性』)、松本穂香さん(『“それ”がいる森』)の5人です。

最優秀助演女優賞を受賞した安藤サクラさん(『ある男』)は襟ぐりが深いノースリーブの、ボディにフィットしたドレスを選びました。ブラックのワントーンですが、全体にスパンコールのようなきらめきパーツをちりばめてあり、華やかでグラマラス。シンプルですっきりしたシルエットと、コンパクトに整えたヘアスタイルが相まって、しなやかなボディコンシャスのイメージを醸し出しています。

左から、有村架純さん、安藤サクラさん、尾野真千子さん、清野菜名さん、永野芽郁さん、松本穂香さん
左から、有村架純さん、安藤サクラさん、尾野真千子さん、清野菜名さん、永野芽郁さん、松本穂香さん

有村架純さん(『月の満ち欠け』)は今回、優秀助演女優賞に選ばれたのに加え、司会も務めるという大役をこなしました。トレンドのグリーン系にボタニカル柄が施された、うっすらと透け感のあるシアー素材のドレスで登場。ロマンティックムードとほんのりセンシュアルが響き合うかのよう。ゆったりスリーブから腕が透け見える「袖コンシャス」でレトロかわいいムードに。襟元にはリボンのような黒のショートタイで立体感を添えています。

尾野真千子さん(『ハケンアニメ!』)は深い青みがかった色のロングドレス。着物風打ち合わせのカシュクールで、半袖のフレアスリーブが優しげ。たっぷりドレープを配したシルエットが優美で、落ち着いたたたずまいに。ウエストをベルトマークして、フォルムに抑揚を加えています。

清野菜名さん(『ある男』『キングダム2 遥かなる大地へ』)が着た黒のロングドレスは、上から透けるチュール素材を重ねて、ミステリアスな風情を帯びさせています。ウエストをコルセット風に締めるのは、今のトレンド。深めのVゾーンにはあえてアクセサリーを添えず、素肌美を演出。裾は正面の着丈が短い前後アシンメトリーで動感をもたらしました。

永野芽郁さん(『母性』)はパステルピンクのロングドレスをまといました。ゆるやかに流れ落ちるような、ボディに寄り添うシルエット。肩がきれいに出た、伸びやかなフォルムは、身体性を生かす「ボディポジティブ」のトレンドを印象づけました。映画タイトルの『母性』にも通じるような女神風のイメージも宿しています。

松本穂香さん(『“それ”がいる森』)はVゾーンの深い、ブラックのロングドレスを選びました。チュールメッシュが重なり合って裾に向かって穏やかに広がるティアードシルエットが印象的。レディーライクな魅力がレッドカーペットに似つかわしい特別感を漂わせていました。

◆オールブラックやシルエットで遊ぶ クラシックな装いに再評価

最優秀助演男優賞を受賞した窪田正孝さん(写真提供: 東京写真記者協会)
最優秀助演男優賞を受賞した窪田正孝さん(写真提供: 東京写真記者協会)

優秀助演男優賞には柄本佑さん(『ハケンアニメ!』)、窪田正孝さん(『ある男』)、坂口健太郎さん(『ヘルドッグス』)、目黒蓮さん(『月の満ち欠け』)、横浜流星さん(『流浪の月』)の5人が選ばれました。

最優秀助演男優賞を受賞した窪田正孝さん(『ある男』)はジャケットがダブルブレストで、トップスは黒のハイネック。パンツは少し太めで、ダブルブレストのきちんと感とのコントラストが生まれています。ころんとしたふくらみを帯びた靴先とのバランスが絶妙。スタンダードなアイテムにひねりや意外感を持たさせる今の着こなしをセレモニールックにうまく生かしています。

左から、柄本佑さん、窪田正孝ん、坂口健太郎さん、目黒蓮さん、横浜流星さん(写真提供: 東京写真記者協会)
左から、柄本佑さん、窪田正孝ん、坂口健太郎さん、目黒蓮さん、横浜流星さん(写真提供: 東京写真記者協会)

柄本佑さん(『ハケンアニメ!』)は基本に忠実な黒スーツとベストのスリーピース。白シャツに黒ネクタイもジェントルマンな見え具合で、すらりとした印象が引き立っています。

坂口健太郎さん(『ヘルドッグス』)は細身の黒スーツをチョイス。ネクタイも極細でパンツの細さとも相まってシャープさを印象づけました。

目黒蓮さん(『月の満ち欠け』)は「フェンディ」のスーツ姿で登場。シューズも「フェンディ」です。ジャケット、シャツ、蝶ネクタイと全てブラックで整えて、ハンサムクールなイメージを濃くしています。

横浜流星さん(『流浪の月』)のスーツはウエストの絞りが格別。カシュクール風に片方に寄せてボタンを留めるデザインがエレガントでボディラインをいっそう立体的に演出しています。

◆遊び心あふれるエレガンス 正統派を自分流にアレンジ

左から、小野花梨さん、菊池日菜子さん、生見愛瑠さん、福本莉子さん(写真提供: 東京写真記者協会)
左から、小野花梨さん、菊池日菜子さん、生見愛瑠さん、福本莉子さん(写真提供: 東京写真記者協会)

新人俳優賞には有岡大貴さん(『シン・ウルトラマン』)、小野花梨さん(『ハケンアニメ!』)、菊池日菜子さん(『月の満ち欠け』)、生見愛瑠さん(『モエカレはオレンジ色』)、番家一路さん(『サバカン SABAKAN』)、福本莉子さん(『今夜、世界からこの恋が消えても』)、松村北斗さん(『ホリック xxxHOLiC』)、目黒蓮さん(『月の満ち欠け』)が選ばれました。

まずは女性陣から。小野花梨さん(『ハケンアニメ!』)は着物ライクな和風の花柄を全体に配したドレスで、日本映画の祭典らしさをドラマティックに表現。両袖も和服の振り袖風で、デコルテ見せとのコントラストが際立っています。

菊池日菜子さん(『月の満ち欠け』)は全体にきらめきディテールを施した、ブラックのミニ丈セットアップでウエストをチラ肌見せ。勢いが続く「Y2K」のトレンドに通じる演出です。ミニスカートの下にはチュールのロングスカートがレイヤードされていて、フレッシュ感とセンシュアルを同居させています。

生見愛瑠さん(『モエカレはオレンジ色』)は刺繍が施された、透けるチュール系生地を重ねたドレスで繊細なニュアンスを表現。ボディラインに付かず離れずのシルエットが穏やかなエレガンスを薫らせています。

福本莉子さん(『今夜、世界からこの恋が消えても』)はクチュール感の高い正統派のロングドレスを着用。胸元にたっぷりとドレープを施してあります。クラシックなドレスの風情が初々しさと華奢感を引き出していました。

左から、有岡大貴さん、番家一路さん、松村北斗さん、目黒蓮さん(写真提供: 東京写真記者協会)
左から、有岡大貴さん、番家一路さん、松村北斗さん、目黒蓮さん(写真提供: 東京写真記者協会)

男性陣では、有岡大貴さん(『シン・ウルトラマン』)は黒のスーツに白いポケットチーフを挿した正統派のセレモニー姿。黒のネクタイに添えたネクタイピンがアクセントになっています。

子役を演じた番家一路さん(『サバカン SABAKAN』)はスーツ、シャツ、蝶ネクタイとオールブラックで統一。大人顔負けのシックな着こなしが決まっています。

松村北斗さん(『ホリック xxxHOLiC』)はネクタイは着けず、フォーマルを自分流に崩してみせました。ポケットチーフで凛としたエッセンスを取り入れています。

優秀助演男優賞にも選ばれている目黒蓮さん(『月の満ち欠け』)の装いは先に述べた通りです。

◆強さとしなやかさ、エレガンスとセンシュアル 自分らしさを加味

同じように映りがちなフォーマルスーツの装いにもそれぞれにアレンジの工夫がうかがえる男性陣の着こなし。王道的なスーツやタキシードに変化を加えて、自分らしさをセルフプロデュースするかのようです。

女性の装いでは透け感を生かしたセンシュアルをはじめ、ボディコンシャス、ランジェリーエッセンス、まばゆいグリッター装飾など、世界4大コレクションで打ち出された主要トレンドが勢ぞろい。強さとしなやかさ、エレガンスとセンシュアルといった相反する要素の両方を組み合わせるのが今の流れです。

「家ごもり」が続き、カジュアル感やリラックス色の強い装いが主流となったここ3年間でしたが、ようやく大きな変化の節目のタイミングを迎えつつあります。今回の日本アカデミー賞授賞式で披露された、ドレスアップに誘うかのようなスタイリングはディナーやパーティへのお出掛け気分を先取りしてるようにも映ります。本気のフルドレッシングには、背筋がピンと伸びる感じがあり、日常とは異なる特別感をもたらしてくれます。これから出かけるシーンがさらに増え、人と会う機会も多くなる私たちの装いにも、着こなしのヒントになるところがありそうです。

(関連サイト)

日本アカデミー賞協会

https://www.japan-academy-prize.jp/

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ファッションジャーナリスト/ファッションディレクター

多彩なメディアでコレクショントレンド情報をはじめ、着こなし解説、スタイリング指南などを幅広く発信。複数のファッションブランドの販売員としてキャリアを積み、バイヤー、プレスも経験。自らのテレビ通販ブランドもプロデュース。2014年から「毎日ファッション大賞」推薦委員を経て、22年から同選考委員に。著書に『おしゃれの近道』(学研パブリッシング)ほか。野菜好きが高じて野菜ソムリエ資格を取得。

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