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100歳でもおしゃれに着こなす ファッションは「エイジレス」がキーワード

宮田理江ファッションジャーナリスト/ファッションディレクター
『SATC』続編のプレミアに主要キャストが勢ぞろい(写真:REX/アフロ)

年齢を意識しすぎない「エイジレス(Ageless)」がファッションのキーワードになってきました。「人生100年」時代になり、年配の女性がおしゃれを楽しめる時間が以前に比べ、ぐんと長くなったことが背景にあります。グレイヘア世代に向けたファッション本・雑誌が相次いで登場。海外ラグジュアリーブランドからも若々しい装いが提案され、ファッションショーでもエイジレスなモデルが当たり前に。国内でもファッションブランド「GU」の2022年春夏はジェンダーレスとエイジレスな商品を提案しています。

放映が始まったテレビドラマ『セックス・アンド・ザ・シティ』(SATC)の復活版では、主役の3人が50代の装いを披露。年齢の面でも「ファッション多様性」を表現しやすい時代が訪れつつあるようです。

50代は「人生100年時代」のまだたった半分

今回の続編ドラマ『アンド・ジャスト・ライク・ザット』(原題「And Just Like That...」)では、50代を迎えた3人のリアルが描かれます。主人公的役柄を演じる女優サラ・ジェシカ・パーカー(写真前列中央)の実年齢は56歳。クリスティン・デイヴィス(前列左)も56歳で、シンシア・ニクソン(前列右)は55歳だから、3人ともほぼ等身大の役柄を演じている格好です。最初のテレビシリーズが放映されたのは23年前の1998年で、3人とも当時は30代前半でした。

サラ・ジェシカ・パーカーが語る、年齢を重ねる素晴らしさ

ロマンティックな花柄ワンピースにつやめきピンク色ジャケットで大人チャーミングに
ロマンティックな花柄ワンピースにつやめきピンク色ジャケットで大人チャーミングに写真:REX/アフロ

公開された場面ルックを見ると、サラはピンクの膝丈ワンピースを着たり、チュールのふわふわスカートを穿いたり。クリスティンはヨット柄のノースリーブ・サマードレス、シンシアはチェック柄のシャツワンピースと、それぞれにファッション性の高い装いを選んでいます。3人に共通しているのは、自立した女性ニューヨーカーらしさを備えているところ。もともと当初から現代的な働く女性像を打ち出していた番組であり、時を隔てての復活でも、その「軸」はぶれていないようです。

実年齢が加わった分、ネット上での書き込みでは50代トリオの登場に疑問を投げかけるような物言いもありましたが、サラは表紙を飾った米国版『VOGUE』誌のインタビューで「私は、今の自分の見た目を知っています。けれども、何が正解なのでしょうか?老化を止めること? あるいは、いっそのこと姿を消すこと?」と問いかけ、年齢を重ねる素晴らしさを訴え、多くの女性たちの共感を得ました。

「若き日」の再現にこだわっていない、SATCシリーズは年齢とファッションの関係を継続的に描いて、「素敵な年齢の重ね方」のストーリーを紡いでいるようです。

メイ・マスクがお手本、マチュア世代のポジティブなおしゃれ

真っ赤なバッグもストールの色と相まって絶好の差し色に
真っ赤なバッグもストールの色と相まって絶好の差し色に写真:REX/アフロ

72歳の現役モデル、メイ・マスク(Maye Musk)さんはトップモデルとして有力ファッション誌に起用され続けています。実は電気自動車のテスラモーターズを率いるイーロン・マスクCEOの実母。15歳からモデルを始め、67歳で初めてニューヨーク・コレクションのランウェイを歩いたそうです。

転機になったのは、59歳で髪染めをやめたことだとか。白い髪のままにしていたら、モデルの仕事が相次いで舞い込んできました。髪を染めて、見た目を若返らせるのではなく、自然体で臨んだことが結果的に、彼女をトップモデルに押し上げたわけです。著書『72歳、今日が人生最高の日』でも実年齢を受け入れて生きるよろこびをつづっています。

人気テレビ番組に出演した日のメイさんは、気品と華やぎを兼ね備えたコートルックでお目見え。白コートをまるでドレスのように着こなし、Vゾーンにだけカラフルなチェック柄ストールをのぞかせる演出が小粋な見え具合。ヌーディーカラーのハイヒールをさっそうと履きこなして、凜とした出で立ちに。ポジティブなおしゃれパワーが伝わってきます。

100歳のファッションアイコン、アイリス・アプフェルがH&Mとコラボ

ジュエリーの重ね付けや、大きな丸眼鏡もアイリスさんのトレードマーク H&M(出典:prtimes.jp)
ジュエリーの重ね付けや、大きな丸眼鏡もアイリスさんのトレードマーク H&M(出典:prtimes.jp)

もっと高齢のおしゃれ達人もいます。ニューヨークの有名人、アイリス・アプフェル(Iris Apfel)さんは何と100歳。日本でもドキュメンタリー映画『アイリス・アプフェル!94歳のニューヨーカー』が2016年に公開されたほどのファッションアイコンです。

日本でも数多くのショップを展開しているブランド「H&M」は、アイリスさんとのコラボレーションを決定。彼女のユニークなスタイルにオマージュを捧げたコレクション「Iris Apfel x H&M」を22年に発売する予定です。

アイリスさんのおしゃれ好きは若い頃からの筋金入り。大胆な色と柄を好むファッションセンスは「ニューヨーク名物」と呼べるほどです。年齢を重ねても、彼女のポジティブでアイキャッチーなスタイルは不変。ボリューミーなふわふわラッフルは、まるで黄色い花束に包まれているかのようです。

細部に至るまで「アイリス流」を生かしたデザイン H&M(出典:prtimes.jp)
細部に至るまで「アイリス流」を生かしたデザイン H&M(出典:prtimes.jp)

デザインスケッチからも分かる通り、今回のコラボコレクションには、アイリスさんらしさがたっぷり写し込まれています。イエローをベースに、マルチカラーをあしらったパンツルックには、70年代ヒッピーを象徴するディテールのフリンジもどっさり。当時を知るアイリスさんにふさわしいレトロモダンなアレンジと映ります。

特大のアクセサリーは、アイリスさん流ファッションの決め手です。イヤリングもネックレスもゴージャスでボリューミー。大ぶりなチャンキージュエリーが装いを一段と華やかに弾ませます。H&Mとのコラボでも、様々なテーマの重ね付けしたくなるアクセサリーが用意されています。

「ミュベール × ポーラ」は自分らしく歳を重ねることを楽しむ人を応援

それぞれキャラクターの個性を装いで表現する4人のグランマ POLA(出典:prtimes.jp)
それぞれキャラクターの個性を装いで表現する4人のグランマ POLA(出典:prtimes.jp)

日本のブランドでも、おばあちゃん世代をミューズに選んでいるところがあります。百貨店やセレクトショップで人気の高い「ミュベール(MUVEIL)」は以前から4人のおばあちゃんキャラクターを、敬愛を込めて「グランマ」と呼んで、ブランドのアイコンと位置づけています。

75~86歳とマチュアな4人の名前は、ローズ、ジャスミン、リリー、ヴァイオレット。いずれも元気なおしゃれ好きです。いつの時代も自分らしいおしゃれを楽しんで、年齢を重ねてきました。「ミュベール」では各シーズンのテーマに合わせて、4人をドレスアップ。彼女たちをかたどった「グランマチャーム」を売り出しています。長く続くシリーズだけに、このチャームのコレクターも少なくないそうです。

「ポーラ(POLA)」は「ミュベール」とコラボレーションし、自分らしく年齢を重ねることを楽しむ人を応援するインスタレーション企画を21年9~11月に旗艦店の「ポーラ ギンザ」で開催しました。特別にデザインされたグランマチャームを、歴代の代表作と合わせて展示。この企画では、現在も現役で活躍する70代以上の、ポーラのショップを経営するオーナーやビューティーディレクターを紹介。カウンセリングやエステなどを通じて美容を提案する、プロフェッショナルな販売員のビューティーディレクターには定年がないので、70代以上でも現役で働く人が大勢いるそうです。

めざせ「おしゃれグランマ」!本当に好きな装いで自分らしく

大人マリンコーデのクランマたち。「New Classic Marine」がテーマのMUVEIL 2022年春夏コレクション (筆者撮影)
大人マリンコーデのクランマたち。「New Classic Marine」がテーマのMUVEIL 2022年春夏コレクション (筆者撮影)

年齢にとらわれない「エイジレス」の装いは、着る人だけではなく、周りにもパワーをもたらします。かつては世代別におしゃれのイメージが固定していましたが、「人生100年時代」を迎え、古い枠組みは意味を持たなくなりつつあります。これまでは役割や立場を示す存在でもあったファッションですが、今では本人にとっての楽しみや自己表現へと、ありようが様変わりし始めているようです。

自分の好きな服を着ていると、自然と見た目にも張りや自信が感じられるものです。他人の視線を意識しすぎない点で、心の健康にもつながるような気がします。本当に自分が好きな服を着ること(=自分らしい装いの発見)は、いくつになっても本人をハッピーにさせるから、エイジレスファッションはこれからもますます盛り上がっていきそうです。

(関連サイト)

H&M

MUVEIL

POLA

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ファッションジャーナリスト/ファッションディレクター

多彩なメディアでコレクショントレンド情報をはじめ、着こなし解説、スタイリング指南などを幅広く発信。複数のファッションブランドの販売員としてキャリアを積み、バイヤー、プレスも経験。自らのテレビ通販ブランドもプロデュース。2014年から「毎日ファッション大賞」推薦委員を経て、22年から同選考委員に。著書に『おしゃれの近道』(学研パブリッシング)ほか。野菜好きが高じて野菜ソムリエ資格を取得。

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