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「なめられたくない」気持ち背景? いま女性に「ゴツめ」ブーツが受ける理由

宮田理江ファッションジャーナリスト/ファッションディレクター
原型は軍用ブーツやエンジニアブーツ(写真:REX/アフロ)

「ゴツめ」ブーツを選ぶ大人女性が増え続けています。兵士が履く軍用のコンバットブーツが代表格。履き口の左右にゴム編みを施したサイドゴアブーツや、工場用のエンジニアブーツ、バイカーが履くブーツなどが人気を博しています。

共通点はどれもタフ顔である点と、もともとは主に男性が履いていたところ。安定感が高いのに加え、軽く見せない「強め」イメージを備えている点がこうしたブーツの魅力です。

女性の立場や権利をあらためて意識する人が増えて、「なめられたくない」という気持ちが広がったことが「ゴツめ」ブーツが人気を得た背景にうかがえます。コロナ禍があって、自らの身を守る「プロテクション(protection)」の感覚が強まったことも理由と言えそう。

ミリタリーや作業現場から派生していますが、今はフェミニンやキュートな装いに生かすスタイリングが主流です。今回は「ゴツめ」ブーツが受ける理由と、上手なコーディネートプランを解説します。

◆理由1 とにかく足が楽 雨の日も安心・安全

足首のシャープさが際立つのもうれしいところ
足首のシャープさが際立つのもうれしいところ写真:REX/アフロ

「ゴツめ」ブーツを履く最大のメリットは、頑丈な造りです。底が厚いうえ、アッパーも丈夫だから、足に加わる衝撃を靴が吸収してくれます。

実際に履けば分かる通り、とにかく足が楽。たくさん歩く日は頼もしい限り。ヒールの高い靴とは違って、よろけたり転んだりの心配もなし。地面をしっかりつかむソールが足裏越しに安心感をもたらしてくれます。踏まれても、ぶつけても痛くないという心理的なメリットも。しかも、防水タイプなら、急な雨でも水がしみこみません。

こういった現実的な長所が多いのが、「ゴツめ」ブーツがファンを増やし続ける理由です。同じレザーのウエアとは抜群の相性を発揮。ジャケットとブーツの「革サンドイッチ」にすれば、ボトムスで遊びやすくなるのもいいところ。サプライズなボトムスを迎えても、レザーの統一感が全体をまとめてくれます。

◆理由2 トレンドのミニボトムスと好相性 「甘×タフ」のずらしバランス

「エレガント×ゴツめ」のミックスで、ずれ感をアップ
「エレガント×ゴツめ」のミックスで、ずれ感をアップ写真:REX/アフロ

ブーツに主張があるから、足元がさびしく見えないのは、「ゴツめ」ならではの効果です。たとえば、トレンドに返り咲いたミニボトムスの場合、レッグラインの露出が気になりがちですが、ハードな印象のブーツなら、バランスが整います。

くすみピンクのミニ丈ワンピースが愛らしさを印象づけています。脚線が膝上から露出している分、足元にインパクトがないと、ミニ丈が目立ちすぎてしまいそう。でも、ふくらはぎまで覆う「ゴツめ」ブーツのおかげで、視線が散って、グッドバランスに整いました。

甘めムードのミニ丈ワンピースに対して、タフな表情のブーツという「ずらし」のマッチング。植物柄の上品なジャケット、ノーブルな白系ハンドバッグも別の雰囲気を加え、全体でトーンをそろえない「はずし」のスタイリングに仕上がりました。手持ちのきれいめやフェミニン系のウエアに、「ゴツめ」ブーツを引き合わせるだけで、このようなこなれた着こなしが手に入ります。

◆理由3 タフで強い女性像 フェティッシュな雰囲気も

全身を黒で整えつつ、異素材ミックスでニュアンスを帯びた装いに
全身を黒で整えつつ、異素材ミックスでニュアンスを帯びた装いに写真:REX/アフロ

「ゴツめ」ブーツ特有の強めイメージを前面に押し出せば、一筋縄ではいかない、芯の強いキャラクターをまとえます。黒を主体に、レザーピースを生かすコーディネートがポイントです。

黒のクロップド(短め丈)トップスとショートパンツという、ヘルシーでコンパクトなセットアップ。ウエスト周りの素肌露出は、上から黒革のハーフコートを羽織って、見え具合を抑えています。凜々しいイメージを引き立てているのは、ずらりと並んだメタリックの鳩目が目を引くブーツ。

ニットのセットアップ、レザーの羽織り物、メタリックなブーツと、それぞれに異なる質感が立体感を生んでいます。レザーコートとの響き合いは、つややかな革ならではのフェティッシュな雰囲気も寄り添わせました。

◆理由4 ジェンダーレスな街履きへ進化 脚の華奢感引き出す

Stella McCartney 2021-22年秋冬コレクション
Stella McCartney 2021-22年秋冬コレクション提供:Stella McCartney/IMAXtree/アフロ

ラグジュアリーブランドからも「ゴツめ」のブーツが続々と打ち出されるようになってきました。先行したミリタリー由来のコンバットブーツを、街履き向きに進化させ、サイドゴアブーツとしてアレンジ。性別にとらわれない“ジェンダーレス”のトレンドにもなじむ提案です。

「ステラ マッカートニー(Stella McCartney)」はモアレ状のうねった縞模様のワンピースに、サイドゴアブーツを引き合わせました。裾が躍る流麗なドレス姿に、あえて「ゴツめ」のブーツをマッチング。ムードのずらしを仕掛けました。丸みを帯びたアウトドア風ブーツは愛嬌のある顔立ち。

これまでの「タフ顔」に続いて、今後はこういったファニーでアクティブな表情を持つフォルムが浸透してきそうな気配。フェミニンでエレガントな装いに、朗らかでポジティブな気分を交わらせています。脚の華奢感が際立っているのは、ブーツのおかげです。

◆健康や安定感に加え、自立したムードまで演出できる

足元にボリュームをこしらえる戦略は、数年前のダッドスニーカー(お父さんが履いていそうな、大ぶりのタイプ)から勢いづきました。脚をシャープに見せる効果が買われて、ブーツにも波及した格好。秋冬シーズンにも広がりを見せそうです。痛みや窮屈感などの我慢を強いられる靴を嫌って、健康や安定感などを求める流れも追い風になっています。

フェミニンなワンピースに「はずし」を仕掛けたり、足元にサプライズを仕込んだりする、ウィットフルな演出にも効果的。レッドカーペットでの装いやウエディングドレスにスニーカーを合わせるようなケースも増える中、このような戦略的な靴選びは、「軽く見られたくない」という意識とも相まって、さらに支持を広げていきそうです。

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ファッションジャーナリスト/ファッションディレクター

多彩なメディアでコレクショントレンド情報をはじめ、着こなし解説、スタイリング指南などを幅広く発信。複数のファッションブランドの販売員としてキャリアを積み、バイヤー、プレスも経験。自らのテレビ通販ブランドもプロデュース。2014年から「毎日ファッション大賞」推薦委員を経て、22年から同選考委員に。著書に『おしゃれの近道』(学研パブリッシング)ほか。野菜好きが高じて野菜ソムリエ資格を取得。

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