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衣替えしないが当たり前に? ”通年着回し”が支持を集める理由

宮田理江ファッションジャーナリスト/ファッションディレクター
夏ワンピースに冬のサイハイブーツでシーズンレスコーデに(写真:IMAXtree/アフロ)

初夏の年中行事だった「衣替え」をしない人が増えているようです。昔に比べて、衣服の機能が進化して、通年で着回せるアイテムが普及。「長すぎる夏」の存在もあって、冬は重ね着でしのぐという選択肢が魅力的になってきました。

冬に夏物を取り入れたり、夏に冬物を取り入れたりするようなシーズンレス思考のコーディネートが浸透。「衣替えフリー」の過ごしやすさが共感を広げてきました。今回は、衣替えをしなくなった理由や、衣替えしないメリットを掘り下げつつ、1年を通して使える着こなしをご紹介していきます。

温暖化が後押しした「夏を基本」に組み立てる着こなし

シャツを肩落としでジャケット変わりにレイヤード
シャツを肩落としでジャケット変わりにレイヤード写真:Splash/アフロ

四季が割とはっきりしている日本では、春から初夏にかけて、秋冬物衣料と春夏物を入れ替える衣替えが恒例のならわしでした。俳句では夏の季語にもなっているほどです。昭和の時代まではごく当たり前の家庭的な年中行事でした。

平成を経て、衣替えの必要性が薄れてきた背景には、「衣服進化」と「温暖化」という、2つの理由がありそうです。衣服のありようは、昭和の頃と今とでは、かなり違いがあります。かつては構造の面で秋冬物と春夏物は大きな違いがあり、温度の変化に応じて、丸ごと入れ替えるのが合理的でした。

しかし、「冬は厚手のコート(オーバー)」が当たり前だった昭和とは違って、今は薄くても断熱・保温性に優れたウエアが手に入り、春夏にも着やすくなっています。インナーも充実しています。冬にしか着られない服は使い勝手の悪さから、消費者に敬遠されがちになってきました。

昔の夏は7、8月が本番という感じがありました。でも、今はもう5月からかなり暑さが強まり、残暑は9月末まで続くことが多くなっています。つまり、丸5カ月も実質的な「夏」が続き、1年のほぼ半分近くを占めている格好です。このようなお天気事情であれば、装いに関しても「夏を基本に組み立てる」という発想が成り立ちます。

冬は重ね着でしのげば、ほとんど通年を「ほぼ夏仕様」で乗り切れます。そうなってくると、夏服を秋にしまい込む必要もなくなり、「衣替えフリー」が合理的となるわけです。つまり、衣替えが消えゆくのは、長い夏を引き起こした地球温暖化が原因とも言えます。

機能性ウエアが実現した、シーンフリーの装い

withコロナ生活で部屋着やワンマイルウエアが人気に
withコロナ生活で部屋着やワンマイルウエアが人気に写真:Splash/アフロ

速乾性や保温性などの機能を高めたアイテムが増えてきたことも、衣替えフリーを後押ししています。Tシャツタイプのインナーが実質的にセーターの役目も兼ねてくれるのであれば、冬も薄着で過ごせます。汗や熱がこもりにくい、さわやかな着心地の服は、夏に薄手のアウターを羽織る着こなしを可能にします。

ここ20年ぐらいの間にこのような機能性ウエアが飛躍的に進化したことは、通年での着こなしを支えていると映ります。オン・オフを同じ服で過ごせるような扱いやすい「24時間服」は出番を選びません。スポーツやアウトドアに由来する服を街中で着るようなコーデが浸透してきたことも着回しを一段と楽にしました。

夏でも急に肌寒く ライトアウターやジレでサマーレイヤード

気温や天候の変化に対応しやすいジレやライトアウターは春夏に重宝
気温や天候の変化に対応しやすいジレやライトアウターは春夏に重宝写真:Anthea Simms/Camera Press/アフロ

着こなしの面では「レイヤード(重ね着)」の広まりが大きいとみえます。分厚いコートだけに防寒を任せるのではなく、アウトドアやスポーツシーンから生まれた、かさばらないアウターや機能的なインナーを使って、重層的に組み上げる装いが支持されるようになってきました。

こうした複合的なレイヤードに生かせるアイテムは、単体で春夏にも使えるものです。レイヤードのよさは、服を1枚ずつ足したり引いたりして、微妙な温度調節が可能なところ。今のように「春でも寒い」といった、微妙な天気が増える中、自分好みの温度管理に向く着こなしはメリットが大きくなっています。逆に、「冬オンリー」のアイテムは出番が減る傾向にあります。

微妙な温度調節に向くアイテムには、薄手でかさばらない「ライトアウター」があります。蒸れにくい薄手の仕立てだから、サマーシーズンにも着続けやすい便利ウエア。レイヤードに使えば、春や秋もカバーできます。もこもこと着ぶくれしにくく、着脱が容易なアイテムは、出先での温度調節にも重宝します。たとえば、袖が窮屈になりにくい「ベスト(ジレ)」は前を開けて、温度をコントロールしやすい服です。

シャツとジャケットの性格を兼ね備えた「CPOジャケット」は近年のヒット商品。蒸れにくい薄手の仕立てだから、サマーシーズンにも着続けやすそう。パーカやカーディガンなども重ね着に取り入れやすいアイテムです。

シアー素材やセットアップを有効に使って、自在にアレンジ

ドレスのように風をはらむシアー素材が魅力
ドレスのように風をはらむシアー素材が魅力写真:REX/アフロ

実際の通年スタイリングにあたっては、夏を意識するのが得策でしょう。まず「軸」の装いを固め、必要に応じて、アイテムを入れ替えたり、重ね着を加えたりするという着こなし戦略が有効です。たとえば、温度や気分に応じてスウェットパーカやライトアウターを重ねるといった手法です。

定番アイテムに1点だけプラスする方法もあります。たとえば、Tシャツに長袖シャツを重ねるのは手軽な「プラスワン」。デニムパンツの上にスカートやワンピースを重ねる手も使えます。その際、選びたいのは、レースや薄手のアイテム。透けるシアーブラウスや薄手のコートなどはうってつけです。涼やかな着心地の服を生かすのは、サマーレイヤードの基本テクニックです。

きちんと感を出したい場合は、上下がそろった「セットアップ」を選択肢に加えて。従来のスーツほどにはかしこまって見えにくいので、様々なシーンで着こなせます。

ジャケットを使わないセットアップも支持を広げています。たとえば、似通った質感や色のシャツとパンツといった組み合わせ。程よい統一感を生み出しながら、スーツよりは堅苦しく見えない新手のセットアップは使い勝手に富んでいます。

ロングトレンドのアイテムが続々 ますます「衣替えフリー」へ

厚手のニットやコートは別にしても、そのほかのアイテムであれば、1年を通してコーディネート次第で着こなせます。シーンズンレスは長いトレンドにもなってきました。ワイドパンツやシャツワンピースなど、ロングトレンド化しているアイテムは購入タイミングも長いので、「衣替えフリー」のツールに迎え入れやすくなっています。スタイリングの幅を広げる効果も期待できるから、クローゼットのワードローブを「通年コーデに役立つか」というものさしでもう一度見直してみてはいかがでしょう。

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ファッションジャーナリスト/ファッションディレクター

多彩なメディアでコレクショントレンド情報をはじめ、着こなし解説、スタイリング指南などを幅広く発信。複数のファッションブランドの販売員としてキャリアを積み、バイヤー、プレスも経験。自らのテレビ通販ブランドもプロデュース。2014年から「毎日ファッション大賞」推薦委員を経て、22年から同選考委員に。著書に『おしゃれの近道』(学研パブリッシング)ほか。野菜好きが高じて野菜ソムリエ資格を取得。

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