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白衣がおしゃれに進化、普段着や部屋着で使う人も きっかけは医師の一言

宮田理江ファッションジャーナリスト/ファッションディレクター
医療現場に笑顔をもたらす「おしゃれ白衣」に注目 (画像協力:クラシコ)

医療現場の装いといえば、いわゆる「白衣」がすぐに思い浮かびます。実は、最近は機能を重視しつつ、見た目も素敵な進化形の白衣が登場しているのです。たとえば、マッシュスタイルラボの人気ルームウエアブランド「ジェラート ピケ(gelato pique)」がコラボレートしたシリーズでは、第4弾のナース服が2月9日に発売されました。エッセンシャルワーカーである医療従事者のみなさんの「仕事着」である白衣にファッションエッセンスが加わっているので、医療従事者用のアイテムではありますが、プロでなくても取り入れたくなるような仕様です。

機能性の高いスポーツウエアや作業着など、本来はプロ向けの服が日常のおしゃれアイテムとして取り入れられる流れが強まってきました。本当に必要とする方々の入手を邪魔してはいけませんが、供給量に余裕があるのであれば、デザイン性がアップした「プロの装い」を試してみたくなりそうです。

「白衣×おしゃれルームウエア」の融合で働くマインドにもプラス効果

Vネックと袖とポケットに施されたラインでスマートな印象に (画像協力:クラシコ)
Vネックと袖とポケットに施されたラインでスマートな印象に (画像協力:クラシコ)

このコラボシリーズを売り出したのは、白衣を中心に、医療用品を手がけている「クラシコ(Classico)」です。「ジェラート ピケ×クラシコ」のコラボは2018年にスタート。今回で4度目となります。カップケーキをイメージしたカーブが袖口やポケットに施されたり、スタイリッシュなラインをあちこちにあしらったりと、細やかな目配りを感じさせます。

医療従事者が着る「スクラブ」は、「ごしごし洗う」といった意味の英語「scrub(スクラブ)」が語源。頑丈な素材を使用し、強く洗っても生地が傷みにくいことが特徴で、医療用白衣としては欠かせない存在です。

女性をハッピーにするルームウエアブランドの「ジェラート ピケ」と、テーラード技術を生かした白衣で知られるクラシコがそれぞれの強みを持ち寄る形でコラボが実現しました。医療従事者という仕事への敬意も、デザインに反映されています。

ユニフォームで表現できる「やさしさや強さ」のイメージ

洋服のポケットの中を整理してくれる便利なソフトペンケース  (画像協力:クラシコ)
洋服のポケットの中を整理してくれる便利なソフトペンケース  (画像協力:クラシコ)

医療従事者がまとうメディカルウエアは従来、実用性が重んじられる傾向が強く、デザイン面では平凡なタイプが少なからず見受けられました。クラシコは「なぜ、かっこいい白衣がないのか?」という医師の一言がきっかけとなって、2008年にスタート。イタリアのテーラード仕立てのスタイリッシュな白衣のほか、聴診器やシューズなど、医療従事者向け商品の企画・販売に取り組んでいます。

一方の「ジェラート ピケ」も同じ2008年にマッシュスタイルラボが設立した、「大人のデザート」がコンセプトのルームウエアブランド。着心地にこだわった、上質の肌触りで人気です。着る人それぞれのライフスタイルに合ったアイテムを、「ファッションのスウィーツ」として表現しています。

今回のコラボでは医療現場で役立つ小物も登場。ポケットの中に入れるソフトペンケースは、雑多な品物で混み合いがちなポケット内を整理し、サッと取り出しやすいつくりになっています。

今回のコラボシリーズは、清潔感が高いのはもちろん、やさしさや強さなどのイメージも兼ね備えていて、医療従事者への信頼を一段と感じさせてくれそう。エッセンシャルワーカーのみなさんにも、いっそう誇らしい気持ちで仕事に臨んでもらえると期待できる装いです。

人気セレクトショップとのコラボレーションも着実に

クラシコは以前からセレクトショップ「ロンハーマン(Ron Herman)」との間でもドクターコートやスクラブのコラボを重ねてきました。新たにセレクトショップの「ストラスブルゴ(STRASBURGO)」とのコラボも始まりました。

「ラグジュアリーな医療服」をコンセプトに、ショートコートとスクラブ・セットアップを1月に発売。ショート丈のコートは、やや広めのラペル幅や深めのVゾーンなど、シルエットが工夫されていて、クラシカルで落ち着いた印象に仕上がりました。街中で白ジャケットとして着ても、十分に着映えがしそうです。

医師や看護師だけでなく、事務服から「スクラブ」にシフトする人も

スタイリッシュな医療用スクラブなら快適に働けそう
スタイリッシュな医療用スクラブなら快適に働けそう写真:ロイター/アフロ

クラシコの広報PR 米久哲平氏にコラボのきっかけや最近の白衣事情について話をうかがいました。

Q: コラボに至ったいきさつを教えてください。

A: ロンハーマンさんやストラスブルゴさんの顧客に医療従事者が多く、クラシコの白衣をご愛用いただいている顧客も多かったことから、取り組みがスタートしています。

Q: 医療従事者以外にも購入される方はいますか。

A: もともと医療従事者用として企画されていますが、実際には様々な買われ方をしているようです。理容師、エステティシャンなどの美容系、時計や靴などの職人、学校の先生、飲食店、エンジニア、パタンナーなど、様々な職種の顧客がいます。

医療と同様、かっこいいユニフォームがなかったからという理由で選ぶ方のほか、人と差をつけたいと考える上昇志向の方、ファッションにこだわりがあり、仕事着でも楽しみたい方、人前に立ったときの見た目の重要性を意識している方、医療っぽさ(研究者のイメージ、信頼感・科学的印象など)をユニフォームにまとわせたい方といったニーズがあると考えています。

Q: スクラブのセットアップは、普段着やルームウエアとしても着られそうなデザインですね。スクラブ需要の広がりを感じますか?

A: アメリカでは医師や看護師だけでなく、ケアワーカーなど広い領域の方がスクラブを着用しており、自宅から通勤中もスクラブを着用するなど、より広い対象、用途で着用されているのが現状です。アメリカ国内の市場規模はスクラブだけで1兆円と言われています。

日本でもテレビドラマの影響や、機能性への評価などから、医療現場で白衣からスクラブへの移行が年々、進んでいます。医療従事者はもちろん、例えば病院やクリニックの事務職の人まで、事務服からスクラブに切り替えるケースも出てきています。最近、たまたま著名人の方がクラシコのスクラブを(仕事着でなく)買っていることを知ったので、普段着やルームウエアとして着るという人も増えてきているのかもしれません。

米久氏が語ったように、スクラブ需要は日本でも広がりを見せているようです。

シーンフリーで使い勝手のよい「プロ服」を着こなす

おうちと外出先の両方で着られる服が相次いでヒットしたことでもわかるように、私たちの日常では、出番を選ばない「シーンフリー」の服が支持されるようになっています。アウトドア風の装いを街で着たり、ルームウエア風の装いをお出かけに着たり。以前から続いている、ミリタリーウエアや作業着を普段着に取り入れる着こなしの流れから発展して、機能性の高い「プロ服」を普段の装いに取り入れたら便利だろうと考えるのは当然のことでしょう。

もちろん、本当に必要なエッセンシャルワーカーが確実に手に入れることができるよう、注意を払う必要はあるでしょうが、「おしゃれ白衣」はこの先、使い勝手のいいユーティリティウエアとしてファンをさらに広げていきそうな気配です。

(関連サイト)

クラシコ https://www.clasic.jp/

ジェラート ピケ https://gelatopique.com/

ファッションジャーナリスト/ファッションディレクター

多彩なメディアでコレクショントレンド情報をはじめ、着こなし解説、スタイリング指南などを幅広く発信。複数のファッションブランドの販売員としてキャリアを積み、バイヤー、プレスも経験。自らのテレビ通販ブランドもプロデュース。2014年から「毎日ファッション大賞」推薦委員を経て、22年から同選考委員に。著書に『おしゃれの近道』(学研パブリッシング)ほか。野菜好きが高じて野菜ソムリエ資格を取得。

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