NYママが選んだ「自主保育」という選択

厚生労働省が9月12日に公表した「保育所関連状況取りまとめ」によると、今年4月1日時点での待機児童は3年連続で減少でも、2万2741人が保育所に通いたくても通えない状況だそうだ。アメリカでも待機児童はいるのか? 

預け先がない!

ニューヨークで子育てをする日本人ママも、大都市ゆえ預けたくてもなかなか自分の求める条件に合わず、預けられない場合もある。国際結婚をして家の中では英語が共通語。学校だけは日本語で通わせたいと願っても、家の近くにある日本人学校には気の遠くなるようなウェイティングリストが存在し、私立学校に目を向ければ、オーマイガッ! 目の飛び出るような授業料が待っている。日本人学校からいつ連絡が来るかなんてわからない。待ってるだけでは時間の無駄・・・。そう思い立ったブルックリンの日本人ママが、今年4月から『自主保育』という集団保育を始めたのだ。

近くにはレンガ作りの内装がニューヨークらしさを漂わせるカフェもあり、多くのファッション誌で今一番ホットな地域として注目を集めるブルックリンのとある地域で行われている自主保育の現場にお邪魔してみた。

ちゃんと時間割が貼られている
ちゃんと時間割が貼られている

「先生、おはようございま~す!」

朝9時過ぎ、お子さん連れの元気なママの声が響く。次々と子供の手を引いたママが訪れ、“授業”スタート。雨が降っていたり太陽が出ている写真を見せて、天気を学んだり、季節にあった工作を行う。まるで、日本の幼稚園に遊びにきた雰囲気だ。

ここ『いろはの森』には現在、2歳前後の子供6人ほどが週4日集り、朝9時から4時まで自主保育を行っている。

自主保育といっても、3人のママが代わる代わる自宅を提供し、先生のほか必ず1人はお母さんもアシスタントとして加わるため、プレーデートの延長だ。

エネルギー溢れるNYママの山脇奈津子さん(左)とパターソン京(みやこ)さん(右)
エネルギー溢れるNYママの山脇奈津子さん(左)とパターソン京(みやこ)さん(右)

「いろはの森」を中心になって立ち上げたのは、NYで人気のマクロビシェフ・山脇奈津子さんと、パターソン京さんだ。山脇さんはNY在住の日本人女性の間で超人気の料理教室や外国人向けの麹セミナーを開催し、最近ではマンハッタンの日本食レストランでエグゼクティブシェフも努めている(2013年9月末まで)「毎日レストランには顔を出すようにしている」と多忙を極めるているなか、2歳になる娘に同年代の子供と遊ぶチャンスを作ってあげられず、ベビーシッターを雇っていたが、地元ブルックリンの日本語幼稚園に行かせたいと思っても、ウェイティングリストに名前を乗せただけで進展はない。ならば、自分たちで何かできないかと、もともとは料理教室の生徒さんだった京さんに声をかけたのが始まりだった。

(山脇さん)「娘は大人のなかでの雰囲気には慣れていたけど、子供同士のプレーデートが出来ない状態だったんです。だから、遊ぶ機会を増やしてあげたかった」

「でも、ほとんど京さんがやってくれた」と運営面では京さんがリーダー的役割を担った。京さんはもともと10年以上身を置いていた金融業界から「脱サラしてネイリストになった」と言い、行動力は抜群だ。

まず最初に数人の友人に声をかけ、2013年2月下旬に1週間お試し期間として毎日プレーデートをしてみたら、それだけで子供達が本当に楽しそうだったという。奈津子さんも京さんも夫はアメリカ人。家では英語と日本語を使っているが、この1週間で日本語の語彙も増えたため、「これはやるしかない!」と本気になった。

先生を公募

まず、日系のウェブサイトなどに広告を出し、先生を公募し面接まで行った。何十人もオファーがあったなかから10人ほどを面接し、先生を決めると、京さんがインターネットで季節の歌や授業のヒントになりそうな情報を収集し、楽しめるように工夫している。

月に1回は参加しているママが集まるミーティングを行い、「時計の読み方をやって欲しい」などのリクエストもあれば取り入れる。単なるプレーデートの枠を超えた「集団保育」を行っているのだ。

先生も見つかり、4月から「いろなの森」がスタート。セメスター制を採用し、7、8月は夏休みとし、9月から新学期が始まったばかりだ。クラスには、毎日ママの誰かが先生のアシスタントとしてクラスを助けており、先生もママの目が常にある事で手抜きはできない緊張感が保たれている。毎月のカリキュラム作りから工作案まで京さんが中心となったママたちがアイデアを捻り出し、月謝も決め、そこから先生への謝礼も提供。セールになった教材や文具を買う事もある。

金融ウーマン、ネイリストと華麗なキャリアを積んできた京さんは、現在子供を預けている間に子供服ブランドでパートタイムとして働き、「いろはの森」のカリキュラム作成と先生とママたちの橋渡しも行っている。

「いろんな面でアンフェアな状況が積もっていくとお母さんたちもキツいですし、話し合いが前に進まない時は、『じゃあ、プランA、B、Cのなかでどれが良いですか?』とこちらから提案する事もある。こういう人もいないとね」と時には憎まれ役を覚悟で円滑な運営に全力を注いでいる。

「例えば、おもちゃを取り合った時にどうするか、叱る時など、しつけも統一したいなと」と京さん。「音楽とバレエの先生を特別講師と雇い、月1で来てもらうようになりました。子供達に本物を見聞きしてもらうため、教えてもらうと同時に、目の前でパフォーマンスしてもらうようにもお願いしています。週末に農園見学も予定しており、クラスで習った事柄を実際目で見たり、手で触れる機会を作って行きたいと思っています」。

もちろん、山脇さんも京さんも教育の専門家ではない。しかし、アメリカ生まれの日本人として子供が将来胸を張れるよう、日本語で季節の行事を行い、友達と遊ぶ経験をして欲しいと願う気持ちが、2人をここまで突き動かしている。

「一気に日本語の語彙が増えた」「いつの間にか1人で食べられるようになっていた」「お友達を待てるようになった」など、さっそく効果は出ているようだ。

一般に生徒を募集している訳ではなく、あくまで友人同士が集まり、どうせならしっかり保育しちゃおう!とここまで本格的な集団保育を始めてしまったママ達の行動力には驚かされるばかり・・・。

自分なら、ここまでできるだろうか? 

プレーデートをしても、ママ同士のおしゃべりだけに熱中していないだろうか? 

待機児童になったかもしれない子供たちは今、ニューヨークのブルックリンで生き生きと遊び、学んでいる。