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要介護認定ってどういうときに申請する? 在宅か施設かってどう判断する? 介護ビギナーQ&A

宮下公美子介護福祉ライター/社会福祉士+公認心理師+臨床心理士
介護に縁がなく、親の介護は何からどう考えたらいいかもわからない人の疑問に答えます(提供:SENRYU/イメージマート)

介護と関わりなく暮らしてきた人が、「うちの親、そろそろ介護のこと考えた方がいいのかな?」と思ったとき、何からどう考えればいいかわからず立ち往生してしまうこともあるだろう。

今回は、そういう人に向けて、Q&Aで「介護の入り口」について解説したい。

Q 介護サービスを受けるための要介護認定は、どういうタイミングで申請する?

A 日々の生活に、周囲の助けが必要になってきたら申請のタイミング。それがよくわからない場合は下記のチェックポイントを参照して。

脳卒中や転倒による骨折などにより、明らかに体に不自由が生じたときには、病院からも要介護認定申請を勧められるはず。

タイミングに迷うのは、高齢の親の一人暮らしや夫婦二人暮らしで、どの程度生活に支障が出ているのかがよくわからないケースだろう。

その場合、以下のようなことをチェックしてみよう。

あてはまることが複数あるようなら、認知機能の低下で生活に支障が出ている可能性が大きい。「見守りの目を入れる」という点から、訪問介護などの利用を検討したい。

訪問介護など介護保険の利用には、要介護認定を受ける必要がある。介護保険の利用については、親の住んでいる地域の「地域包括支援センター(包括)」に相談するといい。「包括」は、地域の介護相談窓口だ。インターネットの検索サイトで、「地域包括支援センター 親の住所」を入力すると、「○○市の地域包括支援センター一覧」などが出てくるだろう。

住所によって担当の「包括」が異なるので、一覧で担当の「包括」がどこかを確認してほしい。また、地域によって、「地域ケアプラザ」(横浜市)、「あんしんすこやかセンター」(東京都世田谷区)など、愛称が異なる場合もあるので注意が必要だ。

・ゴミが捨てられずにたまっている

→ ゴミ捨てルールを把握できなくなっている、あるいは、朝起きられない可能性あり

・冷蔵庫に賞味期限切れの惣菜などが複数ある

→ 賞味期限がわからない、あるいは気にしなくなっている可能性あり

・冷蔵庫の野菜室で野菜が腐っている

→ 調理ができなくなっている可能性あり

・ラップや調味料、シャンプー、箱ティッシュなどの生活雑貨の、同じものが3個以上ストックされている

→ 2個までは意図的なストックかもしれないが、3個以上だと意図せぬ重ね買いの可能性大

・焦げ付いた鍋がある、カーペットなどにたばこで焦がした跡がある

→ 行くたびに焦げ付いた鍋がある、たばこの焦げ跡が増えているようなら、火事のリスクあり

・いつ行っても寝間着を着たまま

→ 昼夜逆転など時間感覚の低下、外出頻度の減少、社会性や生活意欲の低下の可能性あり

・処方薬がたくさん残っている

→ 飲み忘れがあり、指示通りに薬が飲めていない

・体臭が気になる

→ 清潔への関心が薄れ、入浴できていない可能性あり

いつどの薬を飲むかがわかりやすい「お薬カレンダー」やアラームを使っても飲み忘れが多い場合は、訪問介護による服薬確認を検討
いつどの薬を飲むかがわかりやすい「お薬カレンダー」やアラームを使っても飲み忘れが多い場合は、訪問介護による服薬確認を検討提供:pp7/イメージマート

Q 施設か在宅か。どう判断したらいい?

A 施設入所を検討する在宅限界点は、火事のリスク、行方不明のリスクが高まったとき。

これが絶対の判断基準ということではない。

しかしこの2つが、特に一人暮らしの場合、在宅生活が難しくなる限界点になりやすい。

火事のリスクに関しては、調理が原因なら電磁調理器への切り替えや、ガスの元栓を閉めるという対応で多くの場合、回避できる(ただし、ガスから電磁調理器への切り替えは、本人の意欲、能力によっては対応できないケースも多いので要注意)。

問題は、一人暮らしの喫煙者。禁煙が難しいとすると、火事のリスクはついて回る。

行方不明のリスクは、認知症の進行によって高くなる。GPS付きの携帯を持ってもらう、GPSの発信器を、衣類に縫い付ける・靴の中敷きに入れるなどの方法もある。

また、多くの市町村では、認知症による行方不明者を探す連絡ネットワークを運営している。そうしたネットワークに登録しておくと見つかりやすい。行方不明リスクがある場合は、ぜひ市町村に問い合わせてみてほしい。

こうした対応をとってもなお、火事のリスク、行方不明のリスクを回避できない場合は、施設入所を検討するのもやむを得ないかもしれない。

このほか、一般に、転倒骨折のリスクが高まったときも施設入所を検討するケースは多い。

しかし、どこにいても人が動けば事故は起こりうる。転倒骨折が怖いから施設入所、というのは、必ずしも解決にはならない。施設に入所しても、転倒リスクは決してゼロにはならないことを理解しておく必要がある。

また、排泄コントロールが難しくなったときも、特に家族と同居の場合、施設入所を検討するきっかけになる。便や尿の失禁が増えると、その対応は家族にとって大きな負担になるからだ。

「在宅限界点」とは、実は本人が限界を感じるより、介護家族にとっての限界点である場合が多い。

本来、本人が望むのであれば、できる限り在宅で過ごせる方がいい。しかし、施設に入所し、介護から解放された家族と要介護者との関係性が良くなることもある。

誰かにとって100点の結論ではなく、家族全員の満足度の平均が70点程度となる結論を考えたい。

日々の介護で関係性が悪くなっていた要介護者と家族が、施設入所で適度な距離を取ることができ、頻繁に面会に訪れるなど関係が良くなることもある
日々の介護で関係性が悪くなっていた要介護者と家族が、施設入所で適度な距離を取ることができ、頻繁に面会に訪れるなど関係が良くなることもある提供:Hisa_Nishiya/イメージマート

Q 離れて暮らす親が地元に特に愛着がないなら、呼び寄せて近くの施設に入所してもらう方がいい?

A 家族が近くにいるメリットと、施設暮らしのデメリットをよく考えて。

離れて暮らす親の呼び寄せは、地元に知人友人が多いなど、親が地元に強い愛着がある場合、相当に慎重に考えた方がいいことは、すでに理解している人が多いだろう。

子どもの近くで暮らすメリットより、それまでのコミュニティと切り離され、孤立するデメリットの方が大きいケースが多いからだ。これをリロケーションダメージ(転居によるダメージ)という。

では、親が特段、地元に愛着を持っていない場合はどうか。特に会社勤めだった男性の場合、地域コミュニティとのつながりが薄く、どこで暮らしても同じではないかと考えがちだ。

活動的で、自分でどんどん外に出て行き、一人でもいろいろ楽しめるタイプなら、都会に住む子どもの近くで暮らすのもいいかもしれない。

しかしそういうタイプではない場合、高齢になってから知らない土地に移り住むストレスは大きい。土地勘がない新しい土地になかなか馴染めず、閉じこもりがちになってしまうこともある。

また、特に地方都市の一軒家で暮らしていた親が都会に越してくる場合は、注意が必要だ。有料老人ホーム、特別養護老人ホームなどの施設にせよ、サービス付き高齢者向け住宅(サ高住※)などの賃貸住宅にせよ、広い自宅と打って変わって、ワンルームの狭い部屋での生活になる。

一軒家からワンルーム。この急激な居住空間の縮小は、大きな家を持て余していた人にはいいかもしれないが、大きなストレスを感じる人もいる。家財も相当に整理しなくてはならず、愛着のあるものを手放すことにもなるだろう。そうした点もよくよく考える必要がある。

また、認知症があっても一人、あるいは夫婦で何とか暮らしている人は、独立して暮らしていることによる緊張感で、認知機能を維持できていることも多い。端から見るといかに危うい生活であっても、家庭を運営することは大きなプラスの刺激であり、本人にとっての自信にもなっている。

それを、すべて職員にやってもらえる施設に入所するとどうなるか。自分で考えて何かをする、自分で責任を負うという機会が極端に減り、刺激や緊張感が大幅に乏しくなる。白い壁の施設環境も、愛着のあるものに囲まれた自宅と違い、刺激が少ない。

気ままに散歩に行くこともできず、例えば家庭菜園をしていた人などは、土いじりの機会も失われるだろう。

そういう生活に変わることで、実は、一気に認知症が進むケースも多い。

一人で、あるいは二人で何とか暮らせていたのがうそのように、何もできなくなり、家族のこともわからなくなっていくこともある。実は筆者自身、在宅限界点を超えた身内の施設入所で、認知症の進行の速さに愕然とした経験がある。

何とか一人、あるいは夫婦で暮らせている親については、家族が「心配だから」という理由で、早々に施設入所や呼び寄せを決めたりしないほうがいい。地元での在宅生活を継続できる方法がないかを、じっくり検討してみよう。

※サ高住…国土交通省・厚生労働省が共同で管轄する、高齢者向けの賃貸住宅。床面積(原則25平米以上)、便所・洗面設備等の設置、バリアフリーというハードの条件、安否確認・生活相談サービスなどの提供というソフトの条件をクリアすると、サ高住として登録できる。

広い一軒家に住み慣れた親にとっては、狭いワンルームの施設や賃貸住宅への転居は、息苦しいかもしれない
広い一軒家に住み慣れた親にとっては、狭いワンルームの施設や賃貸住宅への転居は、息苦しいかもしれない写真:イメージマート

Q 親の資産。先々のことを考えて、子どもはどう関わるべき?

A ある程度の資産があるなら、一度、税理士に相続対策を含めて相談を。将来の介護費用を親の資産から払える対応をとっておくと安心。

親の介護費用は親自身のお金でまかなってほしい。そう考える人は多いだろう。

しかし親が認知症になったり急に倒れたりすると、介護や入院の費用を引き出せなくて困るケースがこれまでにはよくあった。

そうした事情を考慮し、2021年3月、全国銀行協会は、代理権を持たない親族等による代理取引について下記のような考え方を示した。

・基本的には公的成年後見制度の利用による、成年後見人等による代理取引を求めていく

・どうしても成年後見制度を利用できない・したくない場合には、本人の医療費等の支払手続きを親族が代わりに行うなど、本人の利益にかなうことが明らかである場合に限って、代理取引に応じる

金融取引の代理等に関する考え方および銀行と地方公共団体・社会 福祉関係機関等との連携強化に関する考え方(公表版)より、筆者が要約して引用)

これは協会が考え方を示しただけであり、金融機関に一律こうした対応を義務づけたわけではない。各金融機関、あるいは各金融機関の支店によって対応が異なることも考えられる。

それでも、認知症のある親族を持つ人にとっては朗報だ。

全国銀行協会では、過去の「親族等本人以外への預金払い出しの事例」をホームページで示している。これを見ると、生活費や入院費用、葬儀費用などを、どのような手続きで本人以外に払い出したかがわかる。

すんなりと対応してもらえなくても、事情を話して金融機関と交渉すれば出金できる可能性はある。諦めずに、交渉してみるといいだろう。

認知症のある親の資産を動かすのであれば、申立から後見人の選任までに数ヶ月かかるが、それでも公的成年後見制度を利用するのが一番確実ではある。

ただし、後見人選任後は、家族の思惑で本人資産を動かすことはできなくなることは知っておく必要がある。後見人が、家族ではなく被後見人(後見を受ける本人)の意向を汲みながら、被後見人の権利を守り、その利益にかなう対応をとるからだ。家族は時に、本人と利益が相反し、後見人と意見が対立する場合もある。

また、後見を開始すると、本人資産から後見人に報酬を支払う必要もある(総資産額により月2~6万円程度)。さらには、一度、後見人が選任されたら、本人の能力が回復して後見が不要になるか、本人が亡くなるまで、後見を中止することはできないことも知っておく必要がある。

残念ながら、なかなか不自由な点が多い制度なのだ。

筆者自身、社会福祉士として認知症のある人の第三者後見人(親族ではない専門職の後見人)を受任しているが、認知症のある身内に後見人は立てていない。本人の権利は守られるが、家族から見ると制約が多いと感じるからだ。

こうしたことを考え合わせると、できる限り、親が認知症になる前に対応をとっておきたい。

資産管理だけなら、信託銀行や一部銀行、信用金庫などが行っている「家族信託」という方法がある。これなら、「委託者」(親)が、いざという時に預金の払い出しなどができる「受託者」(子など)を指定し、「受益者」(親自身)のために使うお金を引き出せるようにしておける(詳しくはこちらの記事を参照)。

ただし家族信託は、まだ積極的に引き受けている金融機関が地域によっては限られており、手続きも煩雑だ。

信託銀行の中には、家族信託よりさらに簡単に、指定した代理人による出金ができる機能がついた信託口座を設けているところもある。

こうした金融機関の対応や相続対策も含め、ある程度資産がある人は、どのような準備をしておけば、今後、親が認知症になったり、万一のことがあったりしたとき慌てずにすむか、一度税理士に相談しておくといいだろう。

以上、親の介護を考えはじめたときの入り口についての情報を簡単に紹介してみた。

自分が歳を重ねれば、親もだんだん老いていく。親はいつまでも元気なわけではなく、介護は突然やってくることもある。親が元気なうちに情報収集し、いざという時に慌てずにすむよう備えておこう。

介護福祉ライター/社会福祉士+公認心理師+臨床心理士

高齢者介護を中心に、認知症ケア、介護現場でのハラスメント、地域づくり等について取材する介護福祉ライター。できるだけ現場に近づき、現場目線からの情報発信をすることがモットー。取材や講演、研修講師としての活動をしつつ、社会福祉士として認知症がある高齢者の成年後見人、公認心理師・臨床心理士としてクリニックの心理士、また、自治体の介護保険運営協議会委員も務める。著書として、『介護職員を利用者・家族によるハラスメントから守る本』(日本法令)、『多職種連携から統合へ向かう地域包括ケア』(メディカ出版)、分担執筆として『医療・介護・福祉の地域ネットワークづくり事例集』(素朴社)など。

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