介護業界のリモートワークの可能性~緊急事態宣言解除後、“ウィズ・コロナ”下の介護事業所

介護業界でも、ケアマネジャーなど体に触れない相談援助職はリモートワークが可能だ(写真:GYRO PHOTOGRAPHY/アフロイメージマート)

新型コロナウイルス感染予防対応は事業者判断の介護業界

1月20日に、日本で初めて新型コロナウイルス感染による肺炎患者が確認されてから約4ヶ月。感染すると重症化しやすい高齢者や基礎疾患を持つ人をケアする介護事業所では、「緊急事態宣言」の解除後も、気の休まらない日々が続く。

前回の記事では、訪問介護事業所の対応について紹介した。

今回は、相談援助職である、居宅介護支援事業所のケアマネジャーや、地域の介護総合相談窓口である地域包括支援センター職員(包括職員)の対応について紹介したい。

特に取り上げたいのは、リモートワークの可能性だ。

ケアマネジャー等の相談援助職は、基本的には利用者の体に触れることはない。そのため、接触によって、利用者に感染させる、あるいは利用者から感染するリスクは、介護職よりはるかに低い。それでも、各事業所では様々な感染防止対策を取っている。

介護保険制度上、ケアマネジャーは月1回、包括職員は介護予防のケアプラン(介護計画)を担当している利用者については3ヶ月に1回の訪問(モニタリング)が義務づけられている。

心身の状況、生活状況などを確認し、ケアプランに位置づけたサービスが、利用者の状況に適した支援となっているかを、利用者やその家族の意向も聞き、判断するためだ。

新型コロナウイルス感染予防対応では、国からケアマネジャーや包括職員を含む介護事業者に対する行動制限や自粛要請はなく、介護保険の保険者である市町村等、実態を言えば、各事業者の判断に委ねられている。

そのため、介護事業者は事業所判断で休業、縮小営業、通常営業、リモートワークなど、様々な運営形態を取っている。

▲新型コロナウイルス感染予防の対応で、介護業界でも、ケアマネジャーなどの相談援助職についてはリモートワークが行われている(フリー画像)
▲新型コロナウイルス感染予防の対応で、介護業界でも、ケアマネジャーなどの相談援助職についてはリモートワークが行われている(フリー画像)

電話だけでは難しい利用者の状態把握

神奈川県横浜市で居宅介護支援事業所「ケアプランナーみどり」を運営する、ケアマネジャーの原田保さんは、まず新型コロナウイルスのことを正しく知る必要があると考えた。

そして3月6日に、呼吸器内科の在宅医に講師を依頼し、所内で研修を実施。このウイルスの特性や高齢者が感染しないための対策、職場での対応などを学んだ。

そして、3月末には所内でミーティングを行い、4月以降の対応を決定。4月3日には、事業所としてのBCP(緊急事態時の対応・方針をまとめた事業継続計画)を策定し、3人のスタッフ(ケアマネジャー)と共有した。

具体的には、国からの行動制限がかかった場合(レベル1)、より強い行動制限がかかった場合(レベル2)、ロックダウンに準じた状況になった場合(レベル3)の3段階に分けて、ケアマネジャーとしての対応を策定。

同時に、各ケアマネジャーが担当する利用者の心身の状況、サービス調整の状況などについて、互いに情報共有することを求めた。万一、担当ケアマネジャーが感染した場合に備えたリスク管理である。

「ケアプランナーみどり」としての基本方針は、利用者、そしてスタッフの「命を守ること」だ。

3月末からリモートワークを開始し、自宅から事務所のパソコンにアクセスできる環境も整えた。5月末時点では、原田さんを含めた4人は、2人ずつ交替で、2日出勤、3日テレワークという体制で勤務している。

モニタリングの方法も変更した。医師の助言を受け、呼吸器や循環器、腎臓の疾患、糖尿病、がん、ステロイドを服用しているなど、感染した場合の重症化リスクが高い利用者に関しては、ウイルスを持ち込むことがないよう、基本的に電話でのモニタリングに切り替えた。

「スタッフには、モニタリングにはできるだけ行くな、行くなら優先順位を付けなさいと指示しました。人と人との接触を7割削減せよ、という政府の要請に基づく対応です」と原田さん。

3~4月は、接触機会の低減を意識してモニタリングのために訪問した利用者は2割程度に抑えた。しかし、やはり電話だけでのモニタリングでは、十分に利用者の状況を把握できないと感じたと、原田さんは言う。

「スタッフから、『訪問しないとわからないし、訪問してみると心身の状況がかなり変わっている人もいる』と報告がありました。利用者の中には、電話をしたら、『入院してだいぶ経ちます』という方もいました」

3、4月に訪問しなかった利用者をモニタリングするため、5月は、ほぼすべての利用者の訪問を実施したという。

▲電話だけで、在宅で介護を受けている利用者の状態を把握するのは難しい(フリー画像)
▲電話だけで、在宅で介護を受けている利用者の状態を把握するのは難しい(フリー画像)

自宅を訪問し、”五感”で得る情報は貴重

高齢者やその家族には、言葉で伝えるのが苦手な人、状況をうまく説明できない、困りごとを言おうとしない人も多い。

遠距離介護で親に電話で「変わりはないか」と聞くと、「特にない」と答えるものの、実は病気やけがなど問題が起きていた、という経験がある人も多いだろう。

電話での相談対応やモニタリングについて、横浜市すすき野地域ケアプラザ(神奈川県横浜市。地域包括支援センターを含む機関)でセンター長を務める小薮基司さんは、「訪問すれば、心身や生活の状況など、目で見てわかる様々な情報が、電話では得ることができないのが大きなデメリット」と語る。

地域包括支援センターでは、要支援1、2の高齢者のケアマネジメントのほか、地域の高齢者についての総合相談を担当する。横浜市すすき野地域ケアプラザでは、緊急事態宣言を受けて、スタッフを3人ずつのチームとし、交替で勤務することとした。

出勤しないスタッフは、自宅でパソコンと電話によるリモートワークだ。利用者から相談の電話があれば、出勤しているスタッフからチャットで連絡をもらい、自宅から仕事用の携帯で折り返し連絡をする。

チャットやビデオ通話アプリ、事務所のパソコンの遠隔操作などによって、利用者等からの電話相談も含め、リモートワークでも意外に支障なく業務を遂行できるという。

「ただ、支援が必要な方のお宅を訪問することが必要な場合もあります。訪問することで、におい、顔色、足のむくみなど、様々な情報を得られますし、家族との関係なども垣間見ることができます。しかし電話では、それはできません」と小薮さんは言う。

今は出勤しているスタッフが訪問にも対応しているが、今後、 “ウィズ・コロナ”の環境下では、これまでのように気軽に訪問するのは難しくなるだろうと、小薮さんは考えている。

「リモートでは埋められない部分を、どのような対応でカバーしていくのか。それをこれから真剣に考えなくてはいけないと思っています」

▲自宅を訪問し、見て、聞いて、感じて、“五感”を使って得られる情報量は、電話よりはるかに多い(フリー画像)
▲自宅を訪問し、見て、聞いて、感じて、“五感”を使って得られる情報量は、電話よりはるかに多い(フリー画像)

ビデオ通信アプリを活用し、利用者とやり取り

神奈川県内でケアマネジャーをしている山田準一さんは、独自に開発したケアマネジメントのソフトを活用し、いち早くリモートワークを実践した。データをクラウドで管理しているため、リモートワークに簡単に移行できたのだ。

「モニタリングは、『来ないで』と言われない限り訪問していますが、電話とビデオ通話アプリも活用しています。先日は、息子さんがセッティングしてくれて91歳のご利用者とビデオ通信アプリでやり取りし、とても喜ばれました。ご家族も、オンライン面接の方が緊張しないのか、意欲的にいろいろなことを話してくださいますね」

訪問が必要になるのは、「はんこワーク」だと、山田さんは言う。

「今日も、介護保険の申請のため、書類に印鑑をいただく必要があってご利用者のお宅に行ってきました。電子印鑑は、役所が受け付けてくれるかどうかわからないので、結局、訪問することになりますね」

自分がオンラインで対応しようとしても、役所や他の事業所が紙ベースでの仕事をしているため、それに合わせる形で対応せざるを得ないのだと、山田さんは言う。

それでも山田さんは、今回、できる業務についてはオンライン化を進めている。

ケアマネジャーには、新規の利用者や、サービス内容を大きく変更したりした利用者等について、「サービス担当者会議」の開催が、制度上求められている。

ケアプランに位置づけている介護サービス等の事業者に集まってもらい、利用者やその家族とともに、ケアの方針等を確認する会議だ。

今は「3密」を避けるため、この会議を開催せず、文書や電話によるやり取りで代替しているケースが多い。しかし山田さんは、この会議も、ビデオ通信アプリを使用し、開催したのだという。

「ご家族に聞くと、オンラインでの面接を希望される方は多いんです。これからは増えていくのではないでしょうか」と山田さん。

遠距離介護にも対応できる、オンラインでの「サービス担当者会議」は、もっと普及が望まれる。訪問や対面で得られる情報のすべてをカバーできるわけではないが、一つの有効な方法だと言える。

新型コロナウイルスの感染拡大によって、世の中が大きく変わり、ついマイナスポイントばかりに目が向きがちだ。しかしこうして生まれてきた新しい「芽」を育てていくことも大切にしたい。