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有料老人ホーム選び、3つの心構えと5つのチェックポイント

宮下公美子介護福祉ライター/社会福祉士+公認心理師+臨床心理士
有料老人ホーム選び、入居契約は時間をかけて慎重に行いたい(GYRO PHOTOGRAPHY/アフロ)

有料老人ホーム運営会社では中堅クラスの(株)未来設計が、2019年1月、経営破綻しました。神奈川県などに37カ所運営しているホームは、株主の支援を受けながら運営を続けるとのことですが、運営内容に影響が出る可能性は否定できません。

有料老人ホームの多くを民間企業が運営している以上、運営会社の経営破綻のリスクは避けられません。しかし、できるだけ安定した経営でよいケアを提供している有料老人ホームを選択したいものです。

ここでは、有料老人ホーム選びの心構えとチェックポイントについて紹介します。

大きく分けて3つある有料老人ホームの種類

本題の前に、まず有料老人ホームの種類について説明しておきましょう。有料老人ホームには大きく分けて以下の3種類があります。

有料老人ホームの種類は大きく分けて3種類。特徴を理解しておこう(筆者作成)
有料老人ホームの種類は大きく分けて3種類。特徴を理解しておこう(筆者作成)

この中で、今増えているのは、住宅型有料老人ホームです。有料老人ホームというと、24時間常駐する介護職員からケアを受けるというイメージがありますが、住宅型有料老人ホームは健康なときから入居でき、介護に力点を置いていません。職員は見守りと生活相談、緊急時の対応は行いますが、介護はしないというホームが大多数です。

介護が必要になると、外部の介護サービスを利用して生活を続けることになります。ホームの建物に、ヘルパーを派遣する訪問介護事業所や、通って利用するデイサービスを併設しているところもありますが、24時間いつでも介護が受けられるわけではありません。介護体制としては、自宅で介護を受けるのと大きな違いはないと考えておくほうがよいのです。そのため、要介護度が高くなると、ホームでの生活の継続が難しくなる場合もあります。

しかし、住宅型有料老人ホームは、24時間の介護を受けられる介護付き有料老人ホームに比べると生活の自由度が高く、介護が必要ない段階では月額費用が低く抑えられます。比較的元気で少し見守りがほしい人には住宅型有料老人ホーム、要介護度が高く、24時間ケアしてほしい人には介護付き有料老人ホームなど、入居時点での心身の状態によって、マッチするホームは異なるとも言えます。

有料老人ホームへの入居を検討するに当たっての心構えとは?

では、有料老人ホームを選択する前に必要な心構えについて説明しましょう。

▼心構えその1 

有料老人ホームに何を求めるかを明確化する

住宅型有料老人ホームと介護付き有料老人ホームの違いのように、有料老人ホームは種類や運営会社によって、機能も運営方針も異なります。まず自分がホームに何を期待するかをはっきりとさせてから、ホーム選びに取りかかることが大切です。

有料老人ホームに何を求めるのか箇条書きにして、それに優先順位をつけていくとよいでしょう。

原案:宮下公美子、画像制作:Yahoo! JAPAN
原案:宮下公美子、画像制作:Yahoo! JAPAN

▼心構えその2 

有料老人ホームに過度な期待をしない

有料老人ホームに限ったことではないのですが、介護保険のサービスに対して「プロが介護するのだから…」と、「完璧な介護」を求める人がいます。しかし、有料老人ホームを含め、プロの介護職が提供する介護も万能ではありません

人が動けば転倒などの事故は、どこで暮らしていても起こりうるものです。むしろ、自宅という住み慣れた空間より、広くて住み慣れていない有料老人ホームのほうが事故のリスクは高まるとも言えます。

介護の内容にしても、好みや人となりを十分承知している家族と比べると、要介護の本人を十分理解していない職員のほうが、配慮が行き届かない場合もあります。

そうしたことも含め、有料老人ホームに入居すれば問題は解決する、というような過度な期待をしないことが大切です。大勢の入居者がともに暮らす場ですから、自宅より制約が増えてストレスが高まる場合もあります。忙しい職員に思い通りケアをしてもらえず、物足りなさを感じることもあるかもしれません。そうした、有料老人ホームの「不十分さ」を、入居する本人も家族も理解しておく必要があるでしょう。

プロの介護職だからといって、万能なわけではない。どこで暮らしていても、誰が介護しても、100%の安心はないものと思ったほうがいい(フリー画像)
プロの介護職だからといって、万能なわけではない。どこで暮らしていても、誰が介護しても、100%の安心はないものと思ったほうがいい(フリー画像)

▼心構えその3  

しっかりと資金計画を立てる

現実的な話になりますが、資金計画をしっかり立てることも重要です。自己資産の総額を算出し、現在の年齢から平均寿命までの年数をもとに、年間いくらまでなら支出できるかを割り出します。資金がショートしたとき、親族や子どもが支援するのか、自宅を売却するのかなども、入居契約前に検討しておくほうが安心です。

有料老人ホームの入居時・入居後にかかる費用は、独特で複雑です。入居一時金については

前回の記事で説明しましたが、後述する月額利用料もまた複雑です。契約前に十分説明を受けて理解した上で、資金計画に無理がないかを検討しましょう。

入居後、利用料が支払えなくなるようなことがないよう、資金計画はしっかり立てておこう(フリー画像)
入居後、利用料が支払えなくなるようなことがないよう、資金計画はしっかり立てておこう(フリー画像)

有料老人ホーム選びのチェックポイントは?

次に、有料老人ホームを選ぶ際に、どのような点に注目すればよいか、チェックポイントを紹介します。

▼チェックポイント1 

見学や体験入居で雰囲気を見る

有料老人ホームを選ぶ際には、必ず複数のホームに見学に行き、比較検討することが必要です。できれば複数のホームに2~3泊、体験入居してみる(有料)ことをおすすめします。

そのとき、まず注目したいのは足を踏み入れたときの雰囲気です。複数のホームを訪れると、雰囲気の違いを感じます。「よい」「悪い」もですが、それ以上に入居する本人にとって居心地がよく感じられるかどうかという印象を大切にしてください。

次に、入居者と職員の表情や態度に注目します。入居者の表情が明るく、笑顔が多いとしたら、それは居心地がよいことを示しています。体験入居して職員と長い時間接すると、ケアのレベルもですが、それ以上に、彼らが楽しく働いているかどうかがわかります。

職員を大切にしていないホームは、入居者も大切にできないものです。ホームの雰囲気のよさは、職員の働きやすさが醸すものだとも言えます。入居者が皆一様におとなしく、入居者も職員も無表情なホームはおすすめできません。

入居者も職員も笑顔の有料老人ホームは、居心地がよい場合が多い(ペイレスイメージズ/アフロ)
入居者も職員も笑顔の有料老人ホームは、居心地がよい場合が多い(ペイレスイメージズ/アフロ)

▼チェックポイント2  

介護体制を確認する

有料老人ホーム、特別養護老人ホームなどの入居施設は、要介護者3人に対して職員1人という3:1以上の人員配置(※)が義務づけられています。これは要介護者総数:職員総数が3:1という意味で、24時間ずっと3:1体制で介護をしているということではありません。

※職員1人とは「常勤換算」で1人のことで、パート職員を含みます。常勤換算では、1週間40時間以上の勤務=1人と換算します。

多くの有料老人ホームは、2:1あるいは1.5:1などの手厚い人員配置での介護を行っています。それでも、シフト制での勤務により、実際の介護体制は7~10:1程度です。夜勤帯には、1フロアの30~50人を1人で見ているケースが多いものです。

「2:1の人員配置」などの説明を受けたら、実際には、朝、昼、夜、それぞれの時間帯、どの程度の人員配置で介護に当たっているのかを確認し、理解しておきましょう。

なお、介護付き有料老人ホームのうち、介護保険の指定を受けているホームの入居者は、「特定施設入居者生活介護」を利用できます。これは、常駐する職員から24時間介護を受けられ、要介護度に応じた月額利用料を支払う介護保険のサービスです。

また、2.5:1以上の人員配置をしている有料老人ホームは、この月額利用料とは別に、入居者に「上乗せ介護料」として介護費の負担を求めることが認められています。手厚い分だけ、利用料は高くなることを覚えておきましょう。

有料老人ホームには手厚い人員配置にして「上乗せ介護料」を徴収するところもある(フリー画像)
有料老人ホームには手厚い人員配置にして「上乗せ介護料」を徴収するところもある(フリー画像)

▼チェックポイント3  

月額利用料で提供されるサービス内容を確認する

有料老人ホームは料金体系が複雑です。前回の記事に書いたように、入居一時金の初期償却の割合や償却期間についての確認は必須です。

また、月々支払う費用についての確認も忘れてはいけません。多くの場合、パンフレットなどに記載されている月額利用料に含まれているのは、家賃相当額、管理費、食費などです。

このほか、水道光熱費や、リネン交換、掃除などの生活支援サービス費が管理費に含まれているホームもあれば、別途請求のところもあります。月額利用料に何が含まれているのかは、ホームによって異なりますので、確認が必要です。

介護保険の1~3割(所得に応じて異なります)負担額、おむつなどの介護用品代、クリスマス会などホーム内のイベント参加費、例えばフラワーアレンジメントの材料費などレクリエーション活動にかかる費用などは、多くの場合、別途請求になります。また、病院受診に関して、職員が付き添ったり、送迎を行ったりした場合、費用を請求するホームもあります。

極端な例では、過去、ナースコールへの対応について、1回いくらという設定があるホームもありました。

提供するサービスに対する料金は、ホームが自由に設定することができます。月額利用料がそれほど高くないと思ったのに、別途請求額が月額利用料と同等以上で驚いた、という例もあります

多くの有料老人ホームでは、別途請求となるサービスについての料金表を用意しています。それを元に、別途請求分も含めて、一般に月々どれぐらいかかるのか、その内訳はどのような内容なのかを必ず確認しましょう。

病院受診については、職員がホームの車で送迎して対応する有料老人ホームと、基本的に家族対応のホームがある(フリー画像)
病院受診については、職員がホームの車で送迎して対応する有料老人ホームと、基本的に家族対応のホームがある(フリー画像)

▼チェックポイント4  

退居が求められるケースを確認する

有料老人ホームに入居するときは、最期まで暮らすつもりの方が多いと思います。しかし実際には、退居を余儀なくされるケースもあります。

多くの場合、入居契約書には、「事業者からの契約解除」として「入居契約をこれ以上将来にわたって維持することが社会通念上著しく困難と認められる場合に、本契約を解除することがある」などの文言で記載された条項があります。こうした条項を根拠に、ホーム側が途中退居を求めてくる場合があります。

例えば、暴言や暴力により、他の入居者や職員の安全が脅かされる場合認知症の進行により、他の入居者の居室に立ち入ったり、ものをとったりすることが繰り返される場合。こうした場合などに退居を求められることがあります。

住宅型有料老人ホームでは、認知症の進行で自室から外出して帰れず、警察に保護されることが頻回になった場合などに退居を求められることも。

思いがけず退居を求められ、多額の入居一時金を支払ったのに納得できないという人は少なくありません。どのような場合に退居を求められる可能性があるのか、契約前に確認しましょう。

入居契約の前には、「入居契約書」と、サービス内容などについて記載された「重要事項説明書」についての説明があります。説明を受けてその場で契約を結ぶより、一度持ち帰り、隅々まで読んで疑問点を質問し、納得した上で契約を結ぶほうが安心です。

入居契約を結ぶ前に、「入居契約書」と「重要事項説明書」はしっかり読み込み、「事業者からの契約解除」の条項などを理解、納得した上で契約したい(筆者撮影)
入居契約を結ぶ前に、「入居契約書」と「重要事項説明書」はしっかり読み込み、「事業者からの契約解除」の条項などを理解、納得した上で契約したい(筆者撮影)

▼チェックポイント5

運営会社、その親会社はどこか

有料老人ホームは、知名度と、経営の安定性や介護の質がイコールとは言えません。テレビCMなどで耳にしたことがある有料老人ホームだとしても、必ずしも経営が安定していてよい介護を提供しているとは限りません。

また、親会社の経営悪化で売却された「ワタミの介護」や、職員の不祥事によるイメージダウンから売却された「メッセージ」などのように、有料老人ホームとしての業績が悪くなくても運営会社が変わるケースもあります

そういう意味で、有料老人ホームに運営会社が決して変わることのない、100%安定した運営を望むのは難しいものです。しかし、やはり運営母体が安定していれば、売却され、運営会社が変わるリスクは小さくなります。

どのような会社が運営しているのか、その親会社はどこなのかを調べ、設立年、沿革などを確認しておきましょう。有料老人ホームは他業界からの参入も多いですが、参入してからの年数が長いほうが、経営が安定している可能性が高くなります。

参入してからの年数と比べて、運営しているホーム数が余りに多い場合などは、急拡大しているひずみがあったり、運営ノウハウの蓄積がないまま企業買収を繰り返したりしていることも考えられます。

それがすべてリスクにつながるわけではありません。しかし、何も調べずに契約するのではなく、事情を把握し、リスクを検討した上で入居契約を結ぶかどうかを判断することが大切です。

また、安定して運営している有料老人ホームであっても、施設長の交代や職員の入れ替わりによって、運営方針やホーム全体のムードが変わることもあります。有料老人ホームへの入居の際は、そうした可能性があることも頭に入れておくほうがよいでしょう。

以上、有料老人ホーム選びの心構えとチェックポイントを紹介しました。有料老人ホームの入居契約は、何かあれば売却できる住宅以上に慎重な判断が必要だとも言えます。十分検討した上で、納得できる選択をしてほしいと思います。

(監修:シニアライフコンサルタント 武谷美奈子さん)

介護福祉ライター/社会福祉士+公認心理師+臨床心理士

高齢者介護を中心に、認知症ケア、介護現場でのハラスメント、地域づくり等について取材する介護福祉ライター。できるだけ現場に近づき、現場目線からの情報発信をすることがモットー。取材や講演、研修講師としての活動をしつつ、社会福祉士として認知症がある高齢者の成年後見人、公認心理師・臨床心理士としてクリニックの心理士、また、自治体の介護保険運営協議会委員も務める。著書として、『介護職員を利用者・家族によるハラスメントから守る本』(日本法令)、『多職種連携から統合へ向かう地域包括ケア』(メディカ出版)、分担執筆として『医療・介護・福祉の地域ネットワークづくり事例集』(素朴社)など。

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