1~2割だった介護保険サービスの利用者負担。一部利用者が3割負担になって2ヶ月。果たしてその影響は?

現役並みの所得があるからと言って、必ずしも使えるお金がたくさんあるとは限らない(写真:アフロ)

2000年の制度開始以来、15年間、利用者負担割合は1割だった介護保険制度。しかし2015年8月から、一定の所得がある65歳以上の高齢者(第1号被保険者)の負担割合は2割に。そして、2018年8月からは、現役並みの所得がある第1号被保険者は3割負担へと、段階的に負担割合が引き上げられた。負担割合は、下記の流れで判定され、何割負担に該当するかが記された「介護保険負担割合証」が交付される。すでにサービス事業者から利用者には、8月、9月のサービス利用の自己負担分が請求されている。果たしてどのような影響が出ているだろうか。

利用者負担は、単身世帯で340万円以上、2人以上世帯で463万円以上の現役並み所得者は3割負担となった(画像出典:厚生労働省)
利用者負担は、単身世帯で340万円以上、2人以上世帯で463万円以上の現役並み所得者は3割負担となった(画像出典:厚生労働省)

負担が3倍になり、サービス利用を大幅に減らすケースも

よく聞くのは、「デイサービスの利用回数を減らした」「レンタルしていた福祉用具を返却した」という声だ。

1日8時間、一般的なデイサービスを利用すると、利用料は1回約6500円。利用者負担割合が1割なら約650円だが、3割負担になれば約2000円に跳ね上がる。これを平日毎日利用すれば、利用料は約6500円×5日×4週で約13万円。利用者負担は、1割で約1万3000円、3割なら約4万円になる。

実際には、これに別途請求される、毎日の昼食代やおやつ代、レクリエーションの経費などが加わる。仮に昼食代等の負担を1日500円とすると、5日×4週、20回の利用で1万円。これを加えた利用者の負担額は、1割負担で約2万3000円、3割負担なら約5万円になる。これは要介護1の場合であり、要介護度が高くなれば、その分、利用料も高くなり、負担額は増えていく。

「要介護5で毎日デイサービスを利用していたご利用者で、毎月約3万円の利用者負担が9万円になって、利用回数を大幅に減らした方もいます」と、ケアマネジャーのAさんは言う。見かけの所得は多くても、たとえば、ローンを組んで建てたアパートの経営をしているなど、実際に使えるお金は少ないという人もいるのだ。

一定額以上の負担は払い戻されるが、それでも…

利用者の負担が重くなりすぎないようにと、介護保険には「高額介護サービス費」という、負担軽減の仕組みがある。これは1ヶ月に支払った利用者負担の合計が、負担上限額を超えると、超えた額が払い戻される制度だ。該当者には、市町村など保険者から案内文書と申請書が送付される。一度申請を行えば、その後は継続的に該当額の払い戻しを受けられる。

高額介護サービス費も、2017年8月から、第4段階該当者の負担上限額が3万7200円から4万4400円に引き上げられた(図表:筆者作成)
高額介護サービス費も、2017年8月から、第4段階該当者の負担上限額が3万7200円から4万4400円に引き上げられた(図表:筆者作成)

前述の利用者で言えば、約9万円の利用者負担のうち、負担上限額4万4400円を超えた分の約4万5000円は返ってくる。しかし払い戻されるのは2ヶ月後だ。ひとまず、3倍になった利用者負担分は自力で支払わなくてはならない。それが支払えないからと、利用を控えざるを得ない場合もあるのだ。

不動産を手放したなど、一時的に所得が増えたのでなければ、1割負担からいきなり3割負担になることはそう多くはない。介護保険サービス利用者約496万人中、約45万人だった2割負担該当者から、3割負担に引き上げられた人は約12万人に上るとされている(2016年4月現在の人数)。今回、3割負担になったのは決して少ない人数ではない。

在宅で介護を受ける人が、負担増に耐えかねてサービスの利用を減らせば、その分、家族の負担は大きくなる。

「これから、虐待が増えるのではないかと心配です」と、前出のAさんは言う。

見かけの所得が多くても、使えるお金の少ない人もいる。そうした人にとって、3万円の自己負担が9万円になったとしたら大打撃だ(フリー画像)
見かけの所得が多くても、使えるお金の少ない人もいる。そうした人にとって、3万円の自己負担が9万円になったとしたら大打撃だ(フリー画像)

ケアマネのアドバイスで大幅負担増を回避

Aさんが担当した利用者の中には、今年、65歳になり、第1号被保険者に切り替わったことで、負担増に苦しんだ人もいたという。40~64歳の第2号被保険者は、所得にかかわらず利用者負担は1割。それが、第2号被保険者になった途端に、3割負担になったというケースだ。

「退職金を一括で支給されて所得が多くなったために、3割負担になったんです。退職金での一時的な所得増で3割負担になるのは、いかにも理不尽ですよね。交渉すれば1割にできるのではないかと考え、会社と役所に話してみるよう伝えました。結果、会社側は退職金を分割支給する手続を取り、役所も1割負担に変更してくれたそうです」(Aさん)

この利用者は、Aさんからアドバイスをもらえたからいいが、そうでなかったら3割負担のままだったかもしれない。担当のケアマネジャーが、機転が利くかどうかで自己負担額が大きく変わってくるというのも、考えてみると怖いことだ。

負担増によって過剰なサービスがそぎ落とされていく

一方で、3割負担の対象者は高所得なのだから、生活保護にギリギリで該当しない低所得者などに比べれば、まだまだ余裕はあると指摘するケアマネジャーも多い。ケアマネジャーのBさんは、余裕があってもあえてサービスを減らした人の中には、そもそもそのサービスはいらなかったのではないかと感じたケースもあるという。

「3割負担になったからと、レンタルしていたベッドを返却した利用者がいました。ベッドなしで大丈夫ですか、と確認したら、もともと使っていたベッドを使うから大丈夫だというんです。体の状態から見て、高さを変えたり、体を起こしたりできる介護ベッドを使う必要はない方です。ベッドを持っているとわかっていれば、介護ベッドなんてレンタルしなかったのに! と思いました」(Bさん)

利用者の負担割合が大きくなることで、こうして過剰だったサービス、不要なサービスはそぎ落とされていくと、前出のAさんは指摘する。

「私は、高所得だから3割負担ということではなく、全員の負担割合を引き上げるべきではないかと考えています。今は無駄なサービス利用が多すぎます。負担が大きくなれば、本当に必要なサービスかどうかを、利用者がもっと真剣に考えるようになるはずです。全員の負担割合を重くした上で、低所得者への負担軽減策を拡充する方がいいと思います」(Aさん)

利用者もその家族も、利用しているサービスが生活を支えていく上で本当に必要かどうかを改めて考えてみるべきだ(画像:ペイレスイメージズ/アフロ)
利用者もその家族も、利用しているサービスが生活を支えていく上で本当に必要かどうかを改めて考えてみるべきだ(画像:ペイレスイメージズ/アフロ)

介護保険の利用者負担が増えるというと、介護業界関係者や利用者団体から「利用者の生活を守れない」と反対の声が上がることが多い。しかし、よく聞いていくと、Aさんのように業界関係者の中にも、利用者負担をもっと引き上げるべきだという声は少なくない。

これ以上、利用者負担を増やさないでほしいと言いながら、介護保険料を支払っているのだから使う権利はあると、サービスを目一杯使おうとする利用者やその家族もいる。しかし、介護保険の財源は限られている。負担増を嫌う一方で、サービスを過剰に利用して財源を枯渇させれば、将来、自分たちの子や孫が介護を受ける機会を奪うことになりかねないのだ。

そのことを、私たちはきちんと認識しておかなくてはならないだろう。