【介護職へのハラスメント1:実態】「ハラスメントの域を超えている」との声も。その実態は?

身体的にも精神的にも距離が近づく訪問介護では、特にハラスメントが起きやすい(ペイレスイメージズ/アフロ)

2つのハラスメントリスクを負う介護職

海外での性的暴行被害の告白「#Me Too」。国内での、ジャーナリストによる性的暴行被害の告発。そして、官僚トップによるセクシャルハラスメント事件。2018年前半は、様々なセクハラが世間の話題を集めた。

6月には、介護従事者(介護職)に対する利用者やその家族からのハラスメント(セクシャルハラスメント、パワーハラスメント)についてのアンケート調査の結果も発表された。これもまた大きく報道され、ついには国を動かした。厚生労働省が2018年度中に、介護現場でのハラスメントの実態調査を行うことを決めたのだ。調査結果を踏まえて、ハラスメントへの対応マニュアルを作成し、介護事業者に配布する計画だという。

介護職などの対人サービス職は一般の仕事とは異なり、2つのハラスメント被害のリスクを負う。一つは上司や同僚からのハラスメント。もう一つは、利用者やその家族からのハラスメントだ。2つのハラスメントのうち、より深刻で対応が難しいのは、「顧客」である利用者・家族からのハラスメントだ。介護職は業務として、おむつの交換もすれば、入浴の介助もする。直接、体に触れることが多いだけに、セクハラが起きやすいことは否めない。中でも、相手のテリトリー(自宅)に入り、マンツーマンでのサービス提供をする訪問介護は、身体的にも精神的にも距離が近くなりやすく、セクハラ、パワハラ被害のリスクが高くなる。

とはいえ、セクハラ、パワハラを起こすのは、高齢者のごく一部だ。ハラスメントを「引き起こさない」適切な対応が徹底され、ハラスメント被害がほとんどない訪問介護事業所もある。今回から、4回シリーズで、ハラスメントの実態、高齢者がハラスメントを起こす背景、ハラスメントへの対応について取り上げてみたい。実のところ、介護職へのハラスメントが起きる背景は、介護する家族に対する暴言や暴力が起きる背景と共通するものがある。介護職だけの問題と考えず、一般の方にもぜひ関心を持っていただければと思う。

2018年の前半は、「#Me Too」などセクハラの話題が世間を席巻した(写真:フリー画像)
2018年の前半は、「#Me Too」などセクハラの話題が世間を席巻した(写真:フリー画像)

ハラスメントを受け流せてこそプロなのか

介護職に対する利用者等からのハラスメント(セクシャルハラスメント、パワーハラスメント)は、長く、公に語られることが少ない「隠された問題」だった。問題が隠されてきたのは、一つには、「言ったところで解決できない」「ハラスメントに遭ったと言うのは恥ずかしい」「ハラスメントを受け流せてこそプロ」などの思いが、介護職に根強くあったからだ。加えて、介護業界としても、このような難しい問題を抱えていることを公にしたくないという意識があった。ただでさえ求人難のこの業界に対して、さらにネガティブなイメージを持たれたくない。介護業界関係者からはそんな声も聞いた。

しかし、今回、こうして公にしたことで、国を動かすことができた。社会全体として、ハラスメント被害を見過ごしてはいけないという意識が、成熟してきたと言えるのかもしれない。

調査を実施した日本介護クラフトユニオン(NCCU)は、介護職のハラスメント被害の存在は以前から承知していたが、その実態については十分把握していなかったという。そこで、2018年4~5月、約7万8000人の組合員に対し、定期発行している機関誌に同封する形で、調査用紙を送付。実態把握に取り組んだ。回答数は2411。NCCU組合員には訪問介護のホームヘルパーが多く、回答も半数が訪問介護サービス従事者だ。NCCU政策部門長の村上久美子さんは、組合員から「(被害を受けている介護職の人数は)こんなものではない」と言われたという。

「第三者から見ると、明らかにハラスメントだと言える行為についても、受け流してしまう介護職が多いのです」と村上さんは言う。これはハラスメントではないと、自分の意識から除外してしまうのだ。

調査結果を見ると、「我慢するのが当然」「その程度のことは受け流すべき」という介護職のイメージに縛られ、「うまくあしらえなければいけない」「ハラスメントを受けるのも業務のうち」と考えてしまう介護職の姿が浮かび上がる。「ハラスメントをうまく受け流せない=力量が足りない」と捉えるムードが、介護の職場にはあるのだ。このムードは、「受け流せない」介護職を追い込む恐れがある。

日本介護クラフトユニオン政策部門長の村上久美子さんは、「ハラスメント被害は思っていたより多かった」と語る(写真:筆者撮影)
日本介護クラフトユニオン政策部門長の村上久美子さんは、「ハラスメント被害は思っていたより多かった」と語る(写真:筆者撮影)

セクハラ体験のフラッシュバックに苦しむ介護職も

しかし実際には、介護職が体験したハラスメントの具体的内容を見ると、受け流すのは困難ではないかと感じる行為が多い。

セクハラでいえば、抱きつく。さわる。さわらせようとする。アダルト画像を見せる。性行為を求めてくる……。セクハラを起こす利用者や家族は、いったい介護職をどのような存在だと思っているのかと、首をかしげたくなる。深刻なセクハラを経験した介護職の中には、1年以上前に体験したことを具体的にアンケートに書くことでフラッシュバックを起こし、気分が悪くなったという人もいるという。

一方、殴る、蹴る、怒鳴る、つばを吐きかける、「デブ」「クズ」「バカ」などの暴言を吐く、「こっちは金を払っているのだから何でもやれ」など、強烈なパワハラも多い。介護職が、“ストレスのはけ口”にされているようにも思える。また、訪問介護では、介護保険ではできないサービス提供を強要する利用者も多く、これも大きな問題だ。

介護保険ではできない訪問介護のサービスとは、利用者以外のための調理や掃除、ペットの世話、窓ふき、草むしり、草木への水やり、医療行為(一部できることもある)などだ。同居の家族の食事も一緒に作ってほしいと求めてくるケースなどは、後を絶たない。老老介護の利用者などを担当するホームヘルパーには、こうした要望に心情的には応えてあげたいと考える人も多い。それだけに、「やってはいけない」と制度に縛られ、要望を断ると非難を浴びるホームヘルパーのストレスは、いかばかりかと思う。

本当なら、家族の分も一緒に調理して上げたい。そう考えるホームヘルパーは多い(写真:フリー画像)
本当なら、家族の分も一緒に調理して上げたい。そう考えるホームヘルパーは多い(写真:フリー画像)

相談しても何も変わらない救いのなさ

深刻なのは、こうしたハラスメントを受けて、「強いストレスを感じた」と答えている介護職が、セクハラ、パワハラ共に半数を超えているにもかかわらず、十分な対応がされていないことだ。ハラスメント被害について「誰かに相談したか」という問いに、「相談しなかった」との回答は、セクハラ、パワハラ共に約2割。相談しなかった理由は、「相談しても変わらないと思ったから」が共に4割に達する。実際、相談後の変化についての問いには、「変わらない」という回答が、セクハラ、パワハラ共に4割を超える。

相談しても、「変わらない」。

これが、利用者・その家族から介護職へのハラスメントが「隠された問題」となってきた、大きな理由だろう。言っても変わらないのであれば、我慢するか辞めるかしか、介護職に選択肢はない。要するに、介護職は長い間、この問題を解決することを諦めざるを得ない状況に置かれてきたのだ。

また、相談しなかった理由には、「認知症に伴う周辺症状だから」との回答も、セクハラ、パワハラ共に3割強あった。確かに、認知症を持つ人への対応は難しい。しかしだからといって、認知症を持つ人からのハラスメントは受け流すしかないのかというと、必ずしもそうとは言えない。これについては、3回目の記事で取り上げてみたい。

ところで、介護事業を運営する法人の経営者は、こうした実態を把握しているのか。

村上さんが、NCCUと労使関係のある法人で組織している「介護業界の労働環境向上を進める労使の会」の幹事会で法人経営者たちに調査結果について報告したところ、みな衝撃を受けていたという。

ハラスメントの具体的な内容を見て、介護サービスの法人経営者も、これほどかと、衝撃を受けたという(写真:フリー画像)
ハラスメントの具体的な内容を見て、介護サービスの法人経営者も、これほどかと、衝撃を受けたという(写真:フリー画像)

「ハラスメントの具体的内容を読んだ法人経営者の方々からは、『これはハラスメントの域を超えている』『何か対策を打たなければいけない』との声が上がりました。みなさん、ハラスメントの存在は知っていたものの、これほどのことが起きているとは承知していなかったのですね。いま、この『労使の会』とは、『ご利用者とご家族のハラスメント防止に関する協定*』を結ぶ方向で動いています」(村上さん)

*この協定については、シリーズ3回目で紹介予定。

実態を知ることによって、対応が必要なことがわかり、対策を考えることもできる。介護職への利用者、その家族からのハラスメントは、ようやく問題が認識され、対応への動きが始まった。

次回の記事では、利用者や家族による介護職へのハラスメント、あるいは、介護する家族への暴言、暴力、介護拒否が、なぜ起きるのかについて考えてみたい。