「TOEICのスコア不足で大学を卒業できない」の原因と対策は?

ベストを尽くす努力だけでは、足りないこともあります。(ペイレスイメージズ/アフロ)

 北海道教育大学函館キャンパスの国際地域学科地域協働専攻では、TOEICのスコアが卒業要件となっています。4年生の約30%が、スコア不足のために3月に卒業できない可能性もあると報道されています。

TOEICの得点を卒業要件にしている北海道教育大函館校(函館市)の国際地域学科地域協働専攻で、4年生240人のうち3割に当たる約70人の得点が足りず、補講や追試で対応することが27日、分かった。3月に卒業するには、2月の追試が最後のチャンスとなる。

出典:TOEICで卒業ピンチ 北海道教育大、専攻の3割が点数不足(2018/1/27 日本経済新聞)

 どのような対策が考えられるでしょうか? 原因はどこにあるのでしょうか?

学生さんが取れる「対策」

 学生さんが取りうる対策は、以下の3点の組み合わせと思われます。

  1. 2月下旬のTOEICで卒業可能なスコアを獲得し、心おきなく3月に卒業する
  2. 3月に卒業できない可能性を早めに就職内定先に伝える
  3. 留年し、卒業を延期する

1. 2月下旬のTOEICで卒業可能なスコアを獲得し、心おきなく3月に卒業する

 「それが出来るなら苦労しないよ!(怒)」と言われそうですが、要求されているスコアは640点(地域協働専攻・国際協働グループ)または480点(同じく地域政策グループ・地域環境科学グループ)。通常、「英語が出来る」と認められるレベルのスコアではありません。

 日本の高校卒業者のTOEICのスコアは、200~400点程度と言われています。それに比べれば高い基準であることは間違いありません。けれども、特別な才能や努力が必要な領域ではありません。

 この期に及んでお勧めできることは、本番形式の問題集を繰り返し解き、誤ったら理由を理解することです。640点または480点なら、難問は潔く諦めて得点できる問題で確実に得点できれば、おそらくクリアできるでしょう。やや上のレベル(640点に対しては700点、480点に対しては550点)までの問題は得点できるように、誤りの理由を理解して再度解き直すことを10日間で10回繰り返せば、取り組んでいる問題集で自分の目標レベルとして設定したところでは、概ね満点が取れるようになるのではないでしょうか。

 何と言ってもモノを言うのは、TOEICというテストへの慣れです。問題は平易ですが、2時間の試験時間は、休む間もなく次から次に問題が出てきて(リスニング)、あるいは、次から次に問題をこなさなければ時間がなくなる(リーディング)わけです。正直、疲れます。でも、体力や集中力の配分を自分なりに組み立てられれば、最後まで一定の集中力を保って取り組めることでしょう。

 もちろん本番では、見たことのない問題が出て来るはずです。本番特有の緊張もありますし、「卒業がかかっている」というプレッシャもあるでしょう。でも、700点を確実に取るつもりで用意しておけば、645点は取れるのではないでしょうか。

2. 3月に卒業できない可能性を、早めに就職内定先に伝える

「3月に卒業できないかも」と内定先に伝えた場合、最も怖れられるのは就職取り消しです。もちろん、ありえない話ではありません。しかし、現在のように就職活動が「売り手市場」となっている場合には、可能性は低くなります。TOEICのスコア以外は卒業要件をクリアしているのなら、内定取り消しの可能性は「かなり低い」と見てよいでしょう。

 よほど不安なら、最初にすべきことは、内定先に現状と卒業できない可能性を伝えて相談することです。もしも3月に卒業できなかった場合のTOEICへの取り組み予定・見込まれる卒業時期も伝えられればベストでしょう。

「こんなはずじゃ」は、実社会の日常茶飯事です。「こんなはずじゃ」にどう対処するか、その時に「報告・連絡・相談」をどうするかこそが、結果を左右します。内定先の経営者や先輩たちは、数々の「こんなはずじゃ」を乗り越えてきた歴戦のツワモノであるはずです。

「TOEICのスコアが伸びなくて予定通りに卒業できなくなりそう」という問題は、社会人から見れば何とも“かわいい”「こんなはずじゃ」です。「新年度に予定していた新入社員の人数が減る」ということは、TOEICのスコアよりも、企業にとって手痛い「こんなはずじゃ」です。

3. 留年し、卒業を延期する

 とはいえ、卒業できない場合の内定取り消しは、ありえない話ではありません。中退・または卒業の延期を強いられる可能性はあります。

 中退は、日本では「大学に行かなかったより悪い」という捉え方をされることもあります。できれば避けたいものです。となると、来年度の前期を休学して後期だけの在学ということにして卒業を一年延ばし、新しい就職先を探したり、資格取得に励んだりすることが現実的でしょうか。在学中の生活費をどうするかは深刻な問題ですが。

 親御さんがご健在で学生生活を支えられる状況にあるのなら、親御さんにも早めに相談しましょう。親御さんにとって、子どもの失敗は、ある程度は「織り込み済み」となっていることでしょう。事前に「卒業できなくなりそう(なった)」「就職取り消しになりそう(なった)」と言われることは、卒業して就職すると思っている3月に入って、いきなり「実は、卒業できなくて就職取り消しに」と言われることより、親御さんにとっては受け入れやすい成り行きであろうと思います。

大学側が取れる「対策」

 現在と今後、大学側が取りうる「対策」としては、下記の3点が挙げられます。

  1. TOEICを卒業要件にするのなら、テスト対策を徹底する
  2. 卒業できなくなる学生に対しては、就職内定先への報告や相談についての相談を受ける、あるいは教員が支援する
  3. 卒業できない学生の中退を避ける。留年し卒業を延期せざるを得なくなる学生に対して、大きな困難なく在学を継続できる方法を提示する

1. TOEICを卒業要件にするのなら、テスト対策を徹底する

 話題になっている専攻のカリキュラムを見てみたところ、英語の時間数が特に不足しているわけではないようです。特にTOEIC640点を卒業要件としている国際協働グループでは、選択制ながら多数の英語関連科目があります。またTOEIC対策そのものの科目もあるようです(カリキュラムより)。

 しかし、TOEIC対策そのものと思われる2科目は、1~3年次の間に2単位ずつ。「90分授業を半年間」が2科目です。これで充分なTOEIC対策ができるかどうかは、学生さんのもともとの英語力にも教え方にも、どこまで「テスト対策」と割り切るかにもよると思われます。少なくとも、約30%の学生さんがTOEIC640点または480点に到達しなかったということは、対策として充分ではなかったということでしょう。

 大学の4年間は、英語だけ、TOEICだけで終わらせるわけにはいかないものです。通常の英語の授業に加えて、「TOEICのスコアを伸ばす」ということに特化した何かが必要であるように思えます。週に1回の通常の授業ではなく、テスト前の集中講座や合宿で行うのが効果的なのではないでしょうか。

 大学らしさ・その専攻らしさを大切にするのなら、「まっとうに英語を学習していればTOEICのスコアがついてくるはず」という期待はせず、「TOEICのスコア対策はそれはそれで徹底、試験前の1週間、本専攻はTOEIC予備校ってことで」という割り切り方をすることも必要かもしれません。また、TOEIC対策で実績ある講師に任せることも必要かもしれません。この種のテスト対策は、一般的な大学英語教員には相当の困難を伴うと思われます。

2. 卒業できなくなる学生に対しては、就職内定先への報告や相談についての相談を受ける、あるいは教員が支援する

 現状では、本年度に卒業できなくなる可能性のある学生さんが、少なからず存在するようです。今月2月末のTOEICで要件となるスコアを獲得できなかった学生さんは、就職内定先に「年度末に卒業できなくなりました」という報告をしなくてはなりません。場合によっては、内定取り消しもありえます。

 学生さんが内定先に連絡するメールを、大学就職課や教員へ同報するように指導するだけでも、成り行きは変わる可能性があります。また「TOEICのスコアのせいで卒業が延びる」という事態に対し、大学として・教員としての取り組み予定を示す姿勢があれば、就職内定先の印象はかなり変わるでしょう。

 今、在学中の学生さんが、空身で放り出されない配慮はお願いしたいところです。

3. 卒業できない学生の中退を避ける。留年し、卒業を延期せざるを得なくなる学生に対して、大きな困難なく在学を継続できる方法を提示する

 結果として卒業できなくなり、内定を取り消される学生さんは、若干は発生する可能性があります。その上、留年や卒業延期も困難となると、「大学中退」となりかねません。

 このような場面では、中退だけは防止し、学籍が維持されている状態を維持しておく必要があります。「学歴にこだわらずに」と言うのは簡単ですが、学歴と無関係に能力を開花させて生きていくという選択は、容易ではありません。

 大学として何が出来るのか、どういうサポートが可能なのか。たとえば「親からの仕送りを継続してもらうわけにいかない」「貸与奨学金が大学4年の3月まで、それ以後はない」という学生に、ブラックではないバイトや有給インターンを紹介して卒業までを支えることはできないのか。

「そんなの、大学の仕事じゃない」というご意見もありそうですが、生きて暮らすことができていればこその学業です。

 学生の「生きる」「暮らす」を支えつつの学業支援は、本来、日本全国のあらゆる大学に求められているものではないでしょうか。

さまざまな取り組み課題が浮き彫りに

 北海道教育大学の「TOEICのスコア不足で卒業できない」問題には、高校までの英語教育・世の中のニーズに大学が即応することの難しさなど、一朝一夕には解決できない数多くの問題が浮き彫りにされています。

 目の前の学生さんの危機に寄り添いつつ、大学としての節を曲げるのではなく、世の中に「理解」や「妥協」を求めるのでもない方向性は、きっと見つかるはずです。

 それでは、卒業がかかったTOEICに臨む学生さんたちのご健闘を祈ります。