竹刀で同僚を威嚇した大学教員-日馬富士だけではない「暴力は悪」と言えない事情

暴力のはびこる場には、状況や場面を問わず「暴力は悪」と言えない事情が。(写真:アフロ)

横綱力士が平幕力士をビール瓶で殴って負傷させる事件では、横綱力士の進退が取りざたされています。

本記事では、ほとんど報道されていない、2012年に大学で起こった事件とその後を紹介します。

事件のあらまし

 A大学には、障害を持ち歩行が不自由な50代女性教授Bさんが勤務しています。2012年3月、Bさんは自宅で骨折し、3ヶ月の入院・自宅療養の後で職場復帰しました。ところが2012年6月に職場復帰すると、30代の准教授Cさん(男性)が竹刀を持ってBさんの研究室に侵入し、帰宅するように求めつつ脅しました。Cさんが問題にしたのは、Bさんが勤務できなかったことでした。

 この暴力事件以外にも、BさんはCさんから数多くの妨害やハラスメントを受けました。またCさんがバットを持ってキャンパスを歩き回る姿が目撃されています。

 BさんはPTSDを発症しました。A大学はこの事態を重く受け止め、2013年3月~4月、Cさんを懲戒停職としました。その後、A大学はBさんにCさんが接触しないように一応は配慮しているものの、Cさんが応じないため、Bさんは現在もCさんに怯えながら、休職を繰り返しながら勤務を続けています。A大学の対応はまったく不完全です。一方で、BさんはCさんを被告とする訴訟を提起、現在も訴訟は進行中です。

事件に関する新聞報道

この事件は、京都新聞が報道しています。

(略)

 教授は2012年に男性准教授に竹刀を持って研究室に入られるなどの行為を受け、精神的ショックから14年3月から15年6月まで、断続的に病気欠勤した。准教授は13年3月に停職1カ月の懲戒処分を受けた。教授は授業のある日に、准教授が校内に入らないよう大学側に求めているが、解決には至っていない、という。支援集会には約40人が参加した。

(略)

出典:嫌がらせ准教授「接近禁止徹底を」 病欠の立命大教授支援集会

 はい、どこの大学だか丸わかりです。現在自分が博士課程に在学している立命館大学での出来事です。

 「Bさん」とした女性教授とは直接の面識はありませんが、研究面で2ホップ・3ホップ程度のつながりの範囲にあります。竹刀事件が起こった2012年、私はまだ在学していませんでしたが、事件当時にBさん・Cさんがいた研究センターには、私もお世話になっています。

 自分も関係者と言えば言えるわけで、まことに書きにくいのですが、「ビール瓶力士は問題だけど、竹刀准教授は問題ではない」とは言えないので、がんばって書いております。

歩行に障害を持つ女性に対する男性の暴力

 強調しておきたいのは、Bさんがもともと歩行に不自由を抱えていたことです。骨折は、歩行の不自由をさらに増したかもしれません。

 歩行が不自由な女性に対して、身体的には健常な男性が竹刀を振り回すことが与える恐怖感は、いかほどのものでしょうか。

「暴力は悪」で済まないのは、なぜか

 2017年現在、問題となっているのはBさんの勤務の継続であり、そのための大学としての支援や配慮です。

 そもそもの竹刀事件の発端は、骨折したBさんが休職したことでした。Cさんは、Bさんが通常の勤務をできないことを問題にしていました。骨折という誰にもありうることで休職したら「働けない」とされ、復職したら竹刀で脅されるのでは、たまったものではありません。大学であろうがなかろうが問題でしょう。病気等で「一人前」の労働力でいられなくなっている場合に、だから差別や排除の対象となってよいかどうかが問題になるのは、当然です。

 しかし、「暴力は悪」という分かりやすい理由によるCさんへの対応は、充分に行われていないように思われます。停職というはっきりした処分は、大学としてはかなり例外的ではありますが、その後、Cさんの行動が変わったわけではありません。Bさんは現在も恐怖に怯え、復職がかなわない状況にあります。

悪を悪と言いにくい大学の事情

 この背景にあるのは、大学独特の事情です。

 大学で教員が問題を起こした場合、調査し、処分を検討するのは、その大学の教員です。身内が身内を裁くわけです。

 大学の中には、Cさんの採用を決めた教員たちがいます。Cさんへの処分や対応は、どうしても、そのような利害関係者に配慮しながらということにならざるを得ません。

 すると自動的に、Cさんの行為を悪として問題にすることも、A大学が明確な対応を取ることも難しくなるわけです。問題に出来るとすればBさんの復職と勤務の継続、という図式になります。

そうはいっても改善も

 Bさんを支援する人々の集まりで、Bさんは、「きれいごとのようですが、私のためだけとは思っていなくて、学生だったらもっと立場弱かったりもするので」大学のためにも声をあげている、と述べています。

 その大学に現在、院生として在学している自分の経験・見聞する範囲では、5年後の現在、状況は少し改善されているように思われます。大学当局・ハラスメント対策委員会の対応や姿勢は大きくは変わっていないように思われますが、何か問題が起こった場合の研究科単位での機動的な対応は、良い意味で「こ、これが大学?」と驚くようなものとなっています。ただし、そのような対応にたどりつけるかどうかが「どの教員に相談するか」で左右されるという問題も残っており、まだまだ「何かあっても安心」とは言えません。

「悪は悪」ということが、最初の一歩では

 何よりも気になるのは、「大学に竹刀やバットを持ってきてはいけません」「竹刀やバットで人を怖がらせるのは、大学構内では許されません」ということ、言い換えれば「悪いことは悪いことだから悪い」という対応は、現在も徹底されているように思えない点です。

 大学の外で、同じ人を相手に竹刀を振り回して怖がらせていれば、刑法上の犯罪として問題にされうるでしょう。時期と場面によっては、竹刀やバットをぶらぶらさせて歩き回るだけでも警察に連行されるかもしれません。

 学外で警察沙汰になることが、学内なら許されていい理由はないと思うのです。

 大学構内での教員による暴力には、さまざまな免責が行われてしまいがちです。

 力士がビール瓶で暴力を振るった事件についても、力士を支持する意見が数多く表明されています。たぶん角界にも大学同様に、加害者とその背景に「配慮」しなくてはならない事情があるのでしょうね。

 しかし、どのような人がどのような場面で行った暴力についても、まずは「暴力は悪」でよいのではないでしょうか。

 状況や場面を反映した情状酌量は、「暴力は悪」と認めて制止した後でも間に合います。

事実関係を確認したい皆様へ

事件の概要については、こちらのページに詳しく出ています。

報道では竹刀准教授の氏名は明らかにされていませんが、事件当時の研究センターのWebページアーカイブなどの手がかりがあります。