生活保護は、どの程度「現金給付」の制度なのか?

「生活保護の現物給付化」のイメージは、難民支援物資の配布に近いのかもしれません。(写真:ロイター/アフロ)

生活保護制度に対する「金額が高すぎる」「現金だからいけない」という意見は、日本のあらゆるところで表明されています。

金額や「現金か現物か」を議論する前に、まず、生活保護のどこが現金給付なのかを確認してみましょう。

なお、本記事では、金額や水準が高すぎるか低すぎるかについての議論はしません。

「健康で文化的な生活」の最低限度(≒質素だけど普通の生活)が何を含んでおり、そのために必要な費用はどのように計算されるべきかは、現在も先端的な研究課題の一つであることを述べるにとどめておきます。

8つの給付メニューがある生活保護制度

現在の生活保護制度には、下記の8つの給付メニューがあります。

  • 生活扶助(衣・食・水道料・電機代金・ガス料金など、いわゆる「生活費」)
  • 教育扶助(学用品・学校活動費など、子どもの教育に必要なモノやサービス)
  • 住宅扶助(家賃・地代等)
  • 医療扶助(病院等の医療機関で受ける医療)
  • 介護扶助(≒介護保険利用料金の自己負担分)
  • 出産扶助(産婦人科医や助産師のもとでの出産など)
  • 生業扶助(就業の維持に必要な道具や作業服等・技能習得(高校を含む)・就職活動のための交通費等)
  • 葬祭扶助(≒火葬)

生活保護は、生まれてから死ぬまでの人生のあらゆる場面の費用を1つのパッケージとして必要とする世帯(対象は個人ではなく世帯)に給付する制度です。

「収入>生活保護基準」だけど持病を抱えており、医療費を支払うと「健康で文化的な最低限度の生活」が営めなくなるケースでは、医療扶助だけの適用(医療単給)が可能です。8つのメニューはすべて、制度上はバラバラに使用できます。

生活扶助だけが「現金給付」

実は生活保護の8メニューのうち、現金給付となっているのは生活扶助だけです。他はすべて現物給付です。

現物給付となっているメニューは、いったん現金として保護世帯を経由する場合もあります。

たとえば賃貸住宅の家賃は、「代理納付制度(福祉事務所から貸主に直接支払う)」を利用しない限り、保護世帯にいったん渡されます。しかし、あくまでも、給付されるのは「住居」の現物です。

契約しているのが本人であり、本人から貸主に支払うのが本来の姿なので、家賃相当分の費用が本人に預けられるわけです。

たとえば東京都(一部地域を除く)では、単身世帯の家賃の上限額は53700円です。注意が必要なのは、あくまで「上限額」ということです。

家賃45000円のアパートに住んでいる場合には、住宅扶助として給付されるのは45000円です。差額の8700円を本人が現金として使えるわけではありません。住宅の「現物」を給付しているわけですから、その現物の費用が給付されているわけです。

いったん現金として本人に預けられる可能性がある給付は、住宅扶助以外にもあります。また、本人が立て替え払いした費用をあとで払い戻す形になる給付(就労した場合の交通費など)もあります。しかし基本、生活扶助以外は現物給付です。

後記(2017年9月23日)

生活保護法上は、住宅扶助は「金銭給付によつて行うものとする。但し、これによることができないとき、これによることが適当でないとき、その他保護の目的を達するために必要があるときは、現物給付によつて行うことができる。」とされています(第32条)。住宅扶助が創設された際(1950年、生活保護法新法成立時)には、住宅を含めた「生活費」として家賃の捻出を各自のやりくりに任せる方法も検討されましたが、やりくりの努力で住宅が確保できるとは限らなかった当時の状況を背景として、採用されなかった経緯があります。また、実際に現物(宿所提供施設)が提供されうる可能性は、同じ生活保護法32条に記載されています。あくまで「住宅の現物を確保するための、現物を確保できる現金」または「住宅の現物」であるという住宅扶助の趣旨から見て、少なくとも、生活扶助と同じ意味の「現金給付」ではありません。

また同様の「金銭給付だが現物給付でもよい」という規定が、教育扶助・出産扶助・葬祭扶助にもありますが、これらを純然たる「現金給付」と考えることは、住宅扶助以上に無理があります。

これらの「金銭給付だが現物給付でもよい」とされている扶助は、「現金給付の皮をかぶった現物給付」であり、「福祉事務所が現物をいちいち購入して給付する手間ヒマを生活保護の御本人その他が代行している」とも言えます。現金で給付されても結局は現物の費用であるばかりではなく、時には「本人が使う」とは言いにくい現物(葬祭扶助の火葬など)の費用である場合もあります。

このようなことから、本記事では生活保護法で「金銭給付だが現物給付でもよい」と規定されているこれらの扶助を、すべて「現物給付」に含めています。

なお、生活扶助も「金銭給付だが現物給付でもよい」規定を含んでいますが、運用の実態がほぼ現金給付そのものであること、用途が「生活費」までしか限定されておらず、使い方は御本人の自由であることが何回も判例で確認されていることなどを考えると、「生活扶助は(原則)現金給付」と断言してよいでしょう。

「生活保護費の例」の挙げ方は見直すべき

私がふだん大変気になっているのは、報道で生活保護費の例が挙げられる時、上限額を足し合わせたものになっている場合が多いことです。

例として、東京都立川市の34歳男性に対する「生活保護費」を考えてみましょう。

生活扶助費は79230円(2017年度)、住宅扶助の家賃上限額は53700円(2017年度)です。この男性に対する生活保護費を例示するときには、たいていは、生活保護費と住宅扶助の上限額を足し合わせて

79230円 + 53700円 = 132930円

とされます。

しかし、その男性の住んでいるアパートの家賃が42000円だったら、男性に毎月給付される金額は

79230円 + 42000円 = 121230円

となります。

「誰でもが上限額の金額を受け取ることができ、うまく支出を節約できれば余裕のある暮らしをできる」というわけではないのです。

このことを考えると、生活扶助費と住宅扶助の上限額を足し合わせて「これが生活保護費」と受け取られかねない紹介のしかたは、いかがなものかと思われます。

しかも住宅扶助は、いったん現金の形でご本人を経由するだけで、ご本人に対する現金給付ではないのです。

この34歳男性に対する生活保護費は

1ヶ月あたり 79230円(生活費として)

と紹介するのが適切なのではないかと、私は常々考えています。

なお、生活保護費として生活扶助費と住宅扶助費の家賃上限額を足し合わせて報道している場合、生活保護に関する知識の深い記者さんがいるメディアでは、「例」「上限額」と注記してある場合があります。私は、その意味に気付く読者さんが増えてほしいと願っています。

唯一の現金給付、どの程度「使える」のか?

生活保護で唯一の現金給付である生活扶助費は、実際には、他の現物給付からの「はみ出し」の穴埋めに使用されます。

「健康で文化的な生活」の最低限度は、けっこう日常的に、さらに低められることになってしまっているわけです。

共益費等は持ち出しに

生活保護の住宅扶助でカバーされるのは、基本、月々の「家賃」です。共益費・管理費などはカバーされません(自治体裁量によってカバーすることは可能ですが)。

東京都の34歳男性の例で、家賃52000円・共益費等が3000円だったら、合計は55000円となります。しかし生活保護の住宅扶助でカバーされるのは、家賃の52000円だけです。3000円は、生活扶助費から支払わなければならないのです。

これは「共益費該当部分は、水道光熱インフラや使用料等の形で生活扶助費の一部に含まれている」という考え方によっています。

かつての賃貸アパートでは、家主がまとめて支払い、各自の使用量に応じて水道料・ガス料金・電気代金などを徴収していることが実際にありました。「大家が因業大家で、電気代金を実費の1.5倍取る」というような事例もありました(大家が「電気を売る」にあたって独自の価格設定をすること自体は違法ではありません。度が過ぎれば何らかの法律に触れますが)。

もちろん、生活保護の「健康で文化的な生活」の最低限度は、因業大家(今風に言えば「プチ貧困ビジネス」でしょうか)の存在を想定していませんから、運悪く因業大家のアパートに住み始めて割高な電気料金を支払うことになれば、その分、生活費はさらに圧迫されることになります。その他に共益費を支払うとなると、水道光熱費を何重に支払うことになるのか……ということになります。

法や制度は、そのような現実や理不尽な支出の重なりを認めないことによって、エゲツない商売を抑制する力となることができます。同様に、弱い立場ゆえに涙を飲むしかない生活保護の人々を救済することも大切なのですが、そのための仕組みや力は充分とはいえません。

ないよりマシな「冬季加算」

例に挙げてきた34歳男性の住む立川市のアパートは築45年、冬は隙間風が吹き込むので換気がよいという利点はあるかもしれないせよ、暖房効率が悪く、厳寒期、室温を15℃程度に保つだけでも、少なからぬ光熱費が必要になるかもしれません。

冬の暖房費を考慮し、生活保護には「冬季加算」が設けられています。北海道・東北・北陸などの厳寒地で「住まいはあるけど暖房費がないので暖房できない」となると、住まいの中で凍死することもありえます。

この「冬季加算」は、東京都にもあります。単身者に対する金額は2580円で、支給されるのは11月~翌年3月です。生活保護世帯は、この2580円で、1ヶ月分の暖房費用、水道水が冷たいため浴槽のお湯を沸かすためのガス料金が増加すること、その他もろもろ「冬」であることに関わる費用増加を賄うこととされています。賄えない分は生活扶助費を削って捻出することになります。

給料にはない「冬季加算」が設定されている理由は、冬季以外の生活費がもともと「健康で文化的な最低限度」だからです。冬季加算がなければ、冬の生活が「最低限度」以下になってしまい、生活保護の目的の一つである「最低生活の保障」が出来なくなります(夏については、政府審議会が「夏季加算」を検討したこともありますが、本記事では触れません)。

生活保護は、どこを今以上に「現物化」できるのか?

生活保護費を、現金給付と現物給付に分けると、圧倒的多数が現物給付です。1対7。圧倒的に現金給付が劣勢です。

  • 現金給付

生活扶助

  • 現物給付

教育扶助・住宅扶助・医療扶助・介護扶助・出産扶助・生業扶助・葬祭扶助

国立社会保障・人口問題研究所のサイトに出ている確定値(2014年度、このページの第22表)で、比率をグラフ化してみました。

まず、8つの扶助の種類別に比率を見てみましょう。

2014年、生活保護費の内訳(保護の種類別、小数点以下四捨五入)
2014年、生活保護費の内訳(保護の種類別、小数点以下四捨五入)

生活扶助・住宅扶助とも、それほど存在感を主張していません。

教育扶助(1%)・出産扶助(小数点以下を四捨五入すると0%)・生業扶助(小数点以下を四捨五入すると0%)あたりの存在感のなさは、気になります。子どもが安全な環境下で生まれ、教育を受け、就労を続けたい大人はそのための支援を受けることは、生活保護の目的の一つである「自立の助長」のために、極めて大切であるはず。しかし現状は、目を凝らしても見えるかどうかの比率にとどまっています。

対照的に存在感を激しく主張しているのは、医療扶助です。

医療扶助の概ね1/4は精神科入院に使用されています。もしも入院ではなく地域生活・通院治療を基本にすれば、生活費以外に必要なケア等の費用を考慮しても、精神科入院に使用されている医療扶助費は「だいたい半分に圧縮できるだろう」と見られています。この問題を詳しく知りたい方は、読売新聞編集委員・原昌平氏の記事をご参照ください。

さらに、医療扶助の概ね3/4にあたる精神科入院以外が、生活保護で暮らす一人一人の「医療費の無駄遣い」といった原因で説明がつくものかどうか。データそのものから冷静に考えてみる必要があります。

さらに「現金給付か現物給付か」で比率をグラフ化してみると、このようになります。

生活保護費の内訳(現物給付・現金給付)
生活保護費の内訳(現物給付・現金給付)

縮まった現金給付は居心地悪そうです。扶助の種類で7/8、87.5%を占める現物給付は、金額でも約70%を占めています。数量ともに、現物給付が多数派なのです。

これらの現物給付に使用される費用は、生活保護で暮らす人々に何かをもたらしつつ、その現物給付を提供する人々の収入となります(その内容がブラックなのか正当なのかは、ここでは議論しません)。

結論:生活保護では既に現物給付が主流

生活保護のあるべき姿を議論するにあたり、現状に立脚することは最低限の条件でしょう。

そこで、生活保護のどこが現金給付なのか、その比率はどうなっているのかを明確にしてみました。

私から見れば、既に生活保護を含む日本の福祉制度は「現物主義」と言うべきものになっており、現金給付の少なさこそが問題です。

貯蔵しても腐らず、何にでも交換できる現金は、人間の意志と選択の具体的な裏付けとなります。一方で、「覚醒剤や違法薬物も買えてしまう」という問題をもたらしますけれども。

「生活保護の現金給付は一部だけ」という事実に立脚して、さらに豊かな、実りある議論がなされることを期待しています。