電動アシストつき大型幼児車問題を、電動車椅子ユーザーとして考える

保育士さんたちの快適と安全は、少子化解消のために必要なことでは。(ペイレスイメージズ/アフロ)

 一部の電動アシストつき大型幼児車を軽車両とし、車道を走ることとする経産省の発表が、物議をかもしています。

 本記事では、電動車椅子と比較しながら問題点と「落とし所」をさぐってみます。

(後記:2017年9月14日、経産省が伝え方の問題点を認めたことが報道されました。この点に関する拙記事「電動アシストつき大型幼児車問題を、「コミュニケーション」から再考する(改題・一部編集)」もご参照ください)

どういう電動車椅子なら歩行者扱いなのか

 まず、道路交通法上、車椅子とは何なのでしょうか。

道路交通法第二条(定義)には、このように定義されています。

身体障害者用の車いす 身体の障害により歩行が困難な者の移動の用に供するための車いす(原動機を用いるものにあつては、内閣府令で定める基準に該当するものに限る。)をいう。

 電動車椅子は「原動機を用いるもの」です。

 該当する内閣府令の内容(道路交通法施行規則にあります)は下記のとおり。

(原動機を用いる身体障害者用の車いすの基準)

第一条の四  法第二条第一項第十一号の三 の内閣府令で定める基準は、次に掲げるとおりとする。

一  車体の大きさは、次に掲げる長さ、幅及び高さを超えないこと。

イ 長さ 百二十センチメートル

ロ 幅 七十センチメートル

ハ 高さ 百九センチメートル

二  車体の構造は、次に掲げるものであること。

イ 原動機として、電動機を用いること。

ロ  六キロメートル毎時を超える速度を出すことができないこと。

ハ 歩行者に危害を及ぼすおそれがある鋭利な突出部がないこと。

ニ 自動車又は原動機付自転車と外観を通じて明確に識別することができること。

2  前項第一号の規定は、身体の状態により同号に定める車体の大きさの基準に該当する車いすを用いることができない者が用いる車いすで、その大きさの車いすを用いることがやむを得ないことにつきその者の住所地を管轄する警察署長の確認を受けたものについては、適用しない。

 このうち、最も重要なのは、太線部分の「最高時速6km/h」でしょう。

 電動車椅子は重いのです。日本で普及している簡易型(手動の車体にモーターをつけたもの)でも、車体は25kg以上になることが多いのです。本人・荷物の重量を合わせれば、軽く100kg前後にはなります。簡易型ではない本格的電動車椅子の場合、本体だけで120kg以上であることが多く、たまに「最大重量180kgを想定していることの多い駅の車椅子昇降機が壊れる」といった問題も起こります。

 なんといっても、そんな重たいものを「歩行者」として時には人混みのなかで乗り回すにあたっては、周囲の方を負傷させないことに、多くの車椅子ユーザーが神経を使っています。

 最高時速が 6km/h では、差し迫った危機から逃れるためには不十分なこともありますが、「これ以上は出ない」ということは安心感を与えてくれます。

 海外では、電動車椅子の制限時速がそもそも存在しない場合もあります。現地でリースすると、怖いくらいスピードが出ることもあります。もしダートコースだったら、スピードを楽しむこともできるでしょう。でも歩道や建物の中を移動するときには、ヒリヒリと神経を使うことになり、「日本の最高 6km/h はやっぱり安心だ」と実感します。

 日本の交通事情や人口密度、それなりのスピードが出なければ障害者にとってかえって危険であること(横断歩道を渡りきれない、踏切で車輪がハマりやすくなり脱出が難しくなる)など、数多くの事情をうまく擦り合わせてよく考えられた基準だと思います。

 なお、「車体の大きさの基準に該当する車いすを用いることができない者が用いる車いす」とは、たとえば身体が大きいので、幅70cmの車椅子(座面幅は最大55cm程度)に収まらないという方のための規定です。幅150cmの特注車椅子といったものも、世の中には存在します。

さて「大型幼児車」は?

 道路交通法では、何が「大型幼児車」にあたるのかは明確にされていませんが(後記:「小児用の車」の一部とされているようです)、カタログを探してみると、典型的な手動タイプのもので

サイズ 縦 78 cm × 横 120 cm × 高さ105 cm

重量 25kg

といったもののようです。

 サイズは電動車椅子の最大サイズと概ね同じ、歩行者扱いされる車椅子の規定を参考にして、歩行者扱いとなるように製造・販売してきた経緯があるのかもしれません。

電動アシストが「ない」=電磁ブレーキがない

 多くの方々が「幼児を乗せたお散歩カーが車道を動かなくてはならないなんて」という面から、通産省の判断(対象は大型幼児車全部ではなく一部機種ですが)を批判しています。

 すでに自動車評論家の国沢光宏さんが、そのお立場と自動車が専門のお立場から記事を書いていらっしゃいます(2017年9月16日現在、削除されています)。

経産省、電動アシスト付き大型幼児車は「車道を通行すること」と発表

「大型ベビーカーは車道を通行すること」の続報

 私は車椅子乗りとして、電動アシストが「ない」ことのデメリットを考えてみていただきたいと思います。

 体重 15kg の幼児が6人乗ったら 90kg になります。本体を含めると概ね 120kg といったところでしょうか。だいたい2人体制でしょうけれども、坂道を押し上げるのも下り坂でスピードを出しすぎないのも、なかなか大変そうです。

 でも電動アシストには、ワンタッチで確実にブレーキをかける機能を含めることができます。

 車椅子の介助者アシストユニットには、必ずその機能があります。日本で多く見かけるヤマハの電動車椅子「JWアクティブ PLUS」(製品ページ)には、介助者のための操作ユニットをオプションでつけることができ、ワンタッチでブレーキをかける機能があります。もちろん、介助されずに一人で移動している私も、電磁ブレーキのおかげで、アップダウンの多い住まい近辺を安全にウロウロできます。

落とし所の提案:「電気的ブレーキ」を大型幼児車の安全装置として再検討

 「確実なブレーキ」は、大型幼児車が備えるべき要件の一つでしょう。それが電気的ブレーキであって悪い理由はないでしょう。

 ブレーキと同時に電動アシスト機能が付加され、最高時速が制約されるのであれば、電動アシストは安全装置の一部となります。

 大型幼児車に「電気的な安全装置があってよいものとする」とし、その安全装置が電動アシストを含みうる形とし、電動車椅子と同じ意味で「歩行者」扱いとすることは、そんなに難しいことではなさそうです。

 「電動アシスト機能をつけた大型幼児車」ではなく、「大型幼児車の安全装置」としての再検討なら、一度決めたことに対する役所の意地を傷つけずに行えるのではないでしょうか。

 また、なんといっても、定義が存在せず道路交通法の他の規程が準用されて歩行者になったり軽車両になったりしている現状は、やはり問題なのではないかと思います。自転車でも台車でも人力車でもなく、幼児用自転車でもなく、通常のベビーカーでもない「お散歩カー(大型幼児車)」には、本来、それそのものに対する定義と規定が必要なはず。

 どうぞ、子どもと子どもの安全を第一に、再検討定義や規程の新設をご検討いただけませんか? 国交省さん、経産省さん。

後記1(2017年9月13日19時)

 『弁護士ドットコム』の記事

本当に「電動アシスト付ベビーカー」は車道? 経産省が突然、発表した理由(弁護士ドットコム)

に、経産省が2015年に行った「歩行者扱いとする」判断の基準が記載されています。

電動アシスト付ベビーカーについては、2015年にも今回とは別の事業者から同制度による照会があり、「車体の長さ120センチメートル、幅70センチメートル、高さ109センチメートルをそれぞれ超えず、かつ、鋭い突出部がない」「自走機能を有さず、搭載する電動機が人力補助と速度抑制を行うにとどまり、運転速度を高める機能を有していない」「人力補助は時速6キロメートルを超える速度で行われない」という条件を満たしていれば、「小児用の車」として、歩行者と見なされるという発表をしている。

 サイズと最高速度は電動車椅子の規定が準用され、さらに「アシスト」である以上の「自走機能を有さず」が加わっているようです。

 いずれにしても、電動車椅子そのものではない「電動アシスト付ベビーカー」に対する定義と規定の新設が必要と思われます。お散歩カーは車椅子ではなく、車体や安全性に対するユーザーのニーズも車椅子ユーザーとは異なるはずですから。

後記2(2017年9月16日0時)

2017年9月14日、経産省が伝え方の問題点を認めたことが報道されました。

この点に関する拙記事

「電動アシストつき大型幼児車問題を、「コミュニケーション」から再考する(改題・一部編集)」

も、どうぞご参照ください。