大和市・ニュージーランド人男性死亡事件:ご家族と精神医療専門家の記者会見(2017.7.19・改題)

罪人? それとも病人?(ペイレスイメージズ/アフロ)

2017年4月、ニュージーランド人のケリー・サベジ氏(27歳)が神奈川県大和市の病院で亡くなった事件は、日本の精神科病院で広く長期間にわたって行われることの多い身体拘束とともに、海外メディアで大きく報道されています。

2017年7月19日、ご家族と専門家による記者会見が、日本外国特派員協会で行われました。

本記事では、その内容を紹介します。

事件のあらまし

水島宏明さんの下記のご記事をご参照ください。

日本の精神科病院でニュージーランド人男性が死亡 母国でニュースに

ニュージーランド人男性の死亡【続報】 大和市の精神科病院が「記録提出を拒否」と報道

記者会見の概要

  • 2017年7月19日 16:30-17:30 於・日本外国特派員協会(東京・有楽町)
  • 来場者 開会時35人くらい→終了時60人以上。日本のメディア企業からも(共同通信社・毎日新聞社は確認)
  • TVカメラ 6台。うち2台がAP・ロイターであることは確認。他は企業名確認できず
  • 発表者 長谷川利夫氏(精神医療・杏林大学教授)、マーサ・サベジ氏(亡くなったケリー・サベジさんの母)、パトリック・サベジ氏(同じく兄)

長谷川利夫氏の発表内容

日本の精神医療とは?

 長谷川利夫氏は最初に、日本の精神科病院で広く行われている身体拘束について拘束帯で実演してみせ、写真で説明しました。そして

とても苦しい状態で、人権上も大問題

と述べました。このとき、会場内の外国人記者たちから、なんともいえない嘆息が漏れました。

拘束を実演する長谷川利夫氏。写真パネルは腰・両手・両足を拘束する「5点拘束」。
拘束を実演する長谷川利夫氏。写真パネルは腰・両手・両足を拘束する「5点拘束」。

ついで長谷川氏は

  • 日本の精神科入院患者は約30万人(29万人)、うち20万人が1年以上の入院
  • 日本の精神科入院の平均日数は約280日
  • 日本の入院病床150万床のうち20%が精神科入院で占められている
  • 日本の精神科病院数は1000以上

という事実を紹介し、

「日本の異常な精神医療の中で、隔離や身体拘束が広く用いられています」

と述べました。

ちなみに、日本の精神科入院患者数は全世界の入院患者の約20%にもあたり、日本以外の国々では驚かれる数字です。というより、以上の数字はどれも、日本以外の国では「信じてもらえない」というレベルです。

この背景には、欧米で病院収容中心から地域生活中心へと精神医療がシフトした1960年代、日本では精神科病棟を増やしていたという経緯があります。だから日本の精神医療は、隔離収容から脱却することができないのです。

長谷川氏はこれらの事実と流れについても述べました。

隔離・身体拘束の現状

それでは、隔離(精神科閉鎖病棟内で、さらに保護室などに隔離すること)および身体拘束の現状はどうなのでしょうか?

長谷川氏によれば、

  • 日本の29万人の精神科入院患者のうち、1万人が隔離、1万人が身体拘束。あわせて2万人になる
  • この10年で、身体拘束を受ける人数は2倍になった

ということです。

ちなみに長谷川氏は、身体拘束の研究で2010年に博士号を取得しており、2013年、身体拘束の急増に危機感を覚えて著書『精神科医療の隔離・身体拘束』を刊行しています(Amazon書籍ページ)。

長谷川利夫氏の思い

長谷川利夫氏は、

「サベジさんご一家と、ここに来ている日本人のご遺族に起こったことは、日本の異常な精神医療の中で、起こるべくして起こったのです」

と述べました(ちなみに「日本人のご遺族」は、おそらく精神科病院入院中に顔を踏まれて頚椎骨折させられて亡くなった方のご遺族(お姉さんのブログ)ではないかと思われましたが、このとき私は確認できませんでした ←後記(2017年7月24日):別の方のご遺族だったようです。失礼いたしました)。

さらに記者会見に参加した記者たちに、長谷川氏は

お願いがあります。

サベジさん、日本人のご遺族に対し、心を寄せてください。

スキャンダラスな事件としてではなく、不幸なアクシデントとしてではなく、なぜこういう問題が起こるのか、起こす構造は何なのか、一緒に考えてください。

私たちは、身体拘束は人の尊厳を傷つけ、命まで奪いかねないものという共通認識を持っています。

身体拘束によって苦しめられた方々からの話を多く収集し、社会に知らせることが必要です。

身体拘束の実施過程の可視化など、実施の適切さを監視し、最小限にするシステムが必要です。

今、この瞬間も全国の精神科病院で行われている隔離や身体拘束をなくすためには、ここにいるメディアの皆さんの理解が欠かせません。

私たちは、その理解を進めるために力を尽くすことを惜しみません。

どうか今日を機に、末永くお付き合いいただけるよう、お願いします。

と締めくくりました。

ご遺族からの発表内容

マーサ・サベジさん(故ケリー・サベジさんの母)

60歳になる大学教員のマーサ・サベジさんは、スポーツ、特にバスケなどの球技が好きだったケリーさんの幼少時の思い出から語りはじめ、日本語に関心を持ったケリーさんが高校・大学での交換留学を通じて日本で英語教師になるまでの、困難もあった道のりを語りました。

ケリーさんは友人・親類・家族に愛されていたそうです。

2016年1月、ケリーさんがいた鹿児島県の志布志市を訪れたマーサさんは、ケリーさんが良いコミュニティの中、良い人々のなかにいることを知り、ケリーさんが幸せに働いて暮らしていることを喜び、温泉を楽しんだとのことです。

ハロウィンなどの行事も通じ、ケリーさんは子どもたちに慕われていたということです。

そのケリーさんがこの4月、精神科病院に入院し、拘束が原因の肺塞栓で亡くなったとみられることについて、マーサさんは

「病院を訴えようとは思わないけれども、このようなことが誰かに起こることを防ぎたいのです。だから日本に、精神疾患患者の扱い方を変えてほしい」

と発表を結びました(2017年7月26日修正)。

そのためには何が起こったのかを明らかにする必要があるでしょう。しかし、訴訟抜きに可能なのかどうか、私はかなり疑問に感じています。というのは、訴訟が前提でない限り、日本では強制的に診療録などの証拠の確保を行うことは不可能だからです(2017年7月26日後記)。

パトリック・サベジさん(故ケリー・サベジさんの兄)

兄のパトリック・サベジさんは、ケリーさんとの幼少時の兄弟としての思い出から語りはじめ、亡くなった経緯と、診療録の開示に病院が応じなかったこと、閲覧した診療録に改ざんの可能性があることを述べました。

以下、語られた詳細を箇条書きします。

  • 2017年4月、ケリーさんは神奈川県大和市の大和病院に強制入院+緊急拘束された
  • 拘束は4月30日に開始されてから、5月10日に搬送のため解除されるまで続いた(筆者注:日本の精神科病院でも、入院患者の健康に関心高い病院では、こんな長期間にわたる拘束の「やりっぱなし」はありません)
  • 5月10日、夜9時25分から10時15分の間に、深部静脈血栓症の疑いが血液検査データ等により確認された
  • 大和病院は、日本医療安全調査機構の調査を拒んだ
  • ケリーさんの心肺停止の原因を深部静脈血栓症と明らかにしたい兄パトリックさんと、やんわり拒む大和病院の指導医とのやりとりがあった
  • 大和病院は診療録の提供を拒んでいる
  • 閲覧した診療録には改ざんされたような形跡もあった

パトリックさんは

「まだ日本の氷山の一角だけど、長谷川先生の協力で明らかになりつつある」

と感謝しつつも、泣き出し、

「世界は何が起こっているかを知る必要があり、日本はその状況を止める必要があります。弟の身に起こったことが他の誰にも二度と起こらないように」

と、話を結びました(2017年7月26日修正)。

ケリー・サベジさんの遺影と並んだ、母マーサさん(左)と兄パトリックさん(右)。
ケリー・サベジさんの遺影と並んだ、母マーサさん(左)と兄パトリックさん(右)。

質疑で示された事実

この後、質疑が行われました。

外国人記者を中心に多数の質問が行われたのですが、ここでは回答から、あまり報道されていない事実を列挙しておきます。

  • ご遺族は、政府および厚労省に申し入れはした
  • 精神科での身体拘束は、日本以外の国々でも行われている。平均的には数時間から数十時間。日本は平均90日(筆者注:自分の読んだことのある事例には、身体拘束を5年半持続させたというものも)。日本は早期に解除しないことが問題
  • 欧米の精神科入院での「拘束」は物理的なものに限らない。薬物+物理的拘束。大量の薬を投与して暴れないようにすることが、特に米国では広く行われている
  • ニュージーランドの精神医療には家族との話し合いのシステムがある(筆者注:他にも当事者主導のさまざまなオルタナティブが発達)

筆者の質問へとその答え

私は、ご遺族のお二人に質問をしました。

日本では、冒頭で紹介した長谷川氏の指摘のとおり、拘束が広く長期間にわたって行われています。拘束には、塞栓症などの重大な身体症状を引き起こすリスクがあります。弾性ストッキングの着用・血行促進装置の装着などの予防法はありますが、必ず行われているわけでもありません。しかも精神科入院病棟は、もともと「精神科特例」によって患者人数あたり医師数が少なく、身体疾患の治療はほとんど「できない」に近いのです(参照:拙記事「精神障害者には、なぜ、精神疾患に限定されない医療費助成が必要なのか?」)。塞栓症のような重大な症状に対して、その場で治療できるわけではありません。にもかかわらず、拘束が減らないどころか増え、日本の精神科入院患者がなかなか減少しない最大の要因は、日本人全体の無関心と「しかたない」「そんなもんだ」という諦めにあるように思えるからです(2017年7月26日後記)。

質問内容は下記のとおりです。

同様の状況で亡くなる日本人精神科入院患者はいるけれども、ほとんどが知られないまま。

ケリーさんの場合は、幸か不幸か外国人だった。だから日本政府も日本人も無視できない。

お母さん、お兄さん、

「精神病だから強制入院も拘束もしかたない、拘束されて死んでもしかたない」

という日本社会と日本人多数に、考えなおしてもらうための言葉をいただけませんか?

マーサさんは

「その点、スティグマと子どもたちへの刷り込みは、私たちの一番恐れているところです。ニュージーランドと米国には患者グループがあります。日本にも必要だと思います」

と、パトリックさんは、

「日本には、普通の人々による病院の監視が必要だと思います」

と答えました。

私は、日本にそういう団体がないわけではなく「全国『精神病』者集団」という精神障害当事者によるナショナルセンターがあること、精神科病院内での死亡・虐待・暴力に対する活動を含めた40年余の活動歴があるにもかかわらず、大きな動きを作れていないことを述べました。マーサさんは「グッド・ラック、がんばってください」と答えてくださいました(なお「全国『精神病』者集団」では2016年から紛争が続いており、成り行きによっては「精神障害当事者による」とは実質的に言えない団体となるかもしれない現状も)。

結局のところ、何が問題なのか

最後の質疑は、身体拘束を減らすこと・なくすことの難しさに関するものでした。

長谷川利夫氏の回答は、下記のとおりです。

時間がかかっている理由には、いろんな要因があると思います。

一つの要因としては、医療とか医学が権威主義的だということがあります。

精神医療の場合、人間を人間が縛ることが、医師の専門性の判断のなかに入っていることが問題です。

今の病院の機能、数、患者数を維持しようというパワーが、一方にああり、そういうパワーには、お金もいっぱいついています。

対抗するには、人権の考え方が確立されていく必要があります。

そうしないと、身体拘束は減らせません。

現状だと、医療や医師の権威が身体拘束を正当化しています。

日本人一人ひとりが人権を真剣に考えて守る社会にならないと身体拘束は減りません。

日本人として残念なのは、サベージさんご一家のことで、こういうムーブメントが起こったことです。

日本人の中からは起こせなかったことが残念です。

でも、「人権を守る」という共通の価値のためにがんばりたいと思います。

精神が「ふつう」でなくなることは、誰にでも、精神疾患以外でも起こりうることです。

誰もが、どのような時にも大切な一人として扱われるためには、どうすればよいのでしょうか?

その原点から、精神医療を見ていく必要があると、改めて感じた記者会見でした。

補足(2017年7月20日)

全国「精神病」者集団の事情については、

  • 会員資格は精神疾患・精神障害当事者に限られている
  • ニュースが年6回発行されてきており、基本的に会員のみに送付されてきている
  • 2016年10月より、上記の会員を対象としたニュースに加え、会員の一部に加えて厚労省・精神医療提供サイドなどにも送付される送付範囲不明のニュースの二通りが発行されている

という事実を述べておきます。

会員を対象としたニュース(抜粋版のみ一般公開)は、リンクをたどっていただければ読めますが、内部事情の詳細が分かる内容は抜粋版には含まれていません。

また、会員の一部に加えて厚労省・精神医療提供サイドに送付されているものの送付範囲が不明のニュースについては、2017年7月20日現在、2016年10月発行分2017年1月発行分のみがサイトarsvi.com内で公開されています。その後発行されているものは、特に公開はされていないようです。