精神科病院のインチキ「退院」・患者さんのインチキ「地域生活」は高くつきますが、いいんですか?

2014年11月17日より、障がい者総合支援法の省令改正案に関するパブコメが募集されています

中には、精神科入院患者の「敷地内退院」を認める項目も含まれています。

この問題は「精神障害者の問題」というより、近未来の高齢化問題の成り行きとして、すべての方にかかわると考えられます。

既に精神医療は、いわゆる「精神疾患」ではなく、認知症など高齢に伴うことの多い疾患中心へとシフトしつつありますから。

最後まで読んでられない方、どうか「敷地内退院なんてインチキはやめれ!」の一言で結構ですから、パブコメをお願いします。

日本の精神科入院患者の多さは異常

そもそもの問題は、日本の精神科入院患者、それも長期入院患者の多さにあります。

まずはデータを見てみましょう(以下、特に断り書きがない限り、本エントリーのグラフは厚生労働省「みんなのメンタルヘルス」より転載したものです)。

日本には現在も30万人を超える精神科入院患者がいます。

日本の精神科入院患者数
日本の精神科入院患者数

日本の精神科入院患者数は、全世界の精神科入院患者の約20%にあたります。

日本の精神科入院は長すぎる

それでも日本の精神科入院、日数は減ってきたことになっています。「ことになっています」というのは、「回転ドア入院(いったん退院させてすぐまた入院させること)」や、系列の病院間で転院させることを繰り返すことによって、見かけ上、連続しての入院日数が減っているということもあります。

精神科入院日数推移
精神科入院日数推移

現在は平均で「約1年弱」まで減ってきていますが、多くの場合には、これでも長過ぎるのではないでしょうか? これまた国際的に見ると、突出した長さなのです。

身体疾患であれば、慢性の、生涯付き合っていく病気である場合にこそ、なるべく病院に収容しないで日常生活・地域生活・社会生活の中で維持・管理することを考えるものではないでしょうか? 精神疾患が例外であると考えるのには無理があるかと思われます。

日本の精神疾患、むしろ「傾向と対策」のある病気がほとんど

では、日本には長期収容を余儀なくされる困難な精神疾患が多いのでしょうか?

そんなことはありません。最も多いのは統合失調症です。

病名別精神科入院患者数
病名別精神科入院患者数

統合失調症は、人類史と同時に始まったとも考えられています。原因は現在も不明ですが、「傾向と対策」が非常にはっきりしている病気です。「糖尿病だから年単位の長期入院」が通常はありえないのと同様に、長期入院の必要性は薄いのではないでしょうか。私も統合失調症持ちで入院経験ありますが、最長2週間ですよ。

ただ気になるのは、認知症・脳血管障害後遺症など、高齢化に伴って増加する病気による長期入院の増加です。一定以上に重症化した場合、「治癒して地域生活に」という可能性はまずないわけです。

高齢者の「ついの住処」が精神科病院でよいのでしょうか? 「どうしても精神科病院の中でなくては」という必然性のあるケースがどの程度あるのか、精査したほうがよいのではないかと思っています。介護施設より精神科病院の方が高くつくわけですしね。

日本の精神医療、なんといっても長期入院患者の多さが問題

「難しい病気が多いわけではないのに入院日数が多い」となると、精神科入院中の治療はどうなっているのかが気になるところです。

少なくとも

「早期に症状が落ち着き、早期に患者が病気とうまく付き合えるようになり、早期に退院して地域生活にすんなり戻る」

というふうになっては……いないことが多いんじゃないかなあ……と推察されるところです。

こちらは、在院年数別にみた精神科入院患者の内訳です。

「目で見る精神保健福祉」平成22年渡版による)

画像

状況にもよりますが、1年を超えると、「退院して地域生活にすんなり戻る」は困難になるでしょう。しかも5年超・10年超・20年超という方が珍しくないのです。

長期入院をされていた方に話を聞くと、

「ただ収容されていただけ、治療らしい治療は服薬以外は受けていないし、そもそも入院病棟が治療的環境ではないし」

という話が多いんです。

良心的な精神科医が多数いて努力していることは、当然、知っています。しかし精神科病院は「二極化」に近い傾向があります。都市部やその近くにあって閉鎖病棟もあるけれども比較的開放的で良心的な医療を行っており、入院日数も長くはない病院がある一方で、人里離れた場所にあって「なんでもあり」「入ったらカンオケに入って出るしかない」という感じの病院もあります。そして長期入院が問題になるのは、存在も意識されにくいタイプの後者の病院であったりします。

「牧畜業」「固定資産」という言葉

1960年、日本医師会会長であった武見太郎が「私立精神科病院は牧畜業者」と発言したとして問題になりました(Arsvi「武見太郎」ページなど)。患者を長期に入院させて囲い込んで、さまざまな報酬を得ていることが「牧畜業」に例えられたのです。牧畜業者に飼育されている家畜からは肉・乳・卵・労力などが得られます。その例えも成り立っていました。ご関心ある方は、過去、「作業療法」の名の下に何が行われていたかを調べてみてください。一部はWikipedia「宇都宮病院事件」でも知ることができます。

患者に対しては、「固定資産」という言い方があります。いったん囲い込むことに成功すれば、さまざまな報酬をもたらす「資産」。だから「牧畜業」を地で行く精神科病院としては、なるべく退院させたくないわけです。したがって退院までの日数は長くなります。どうしても退院させるならば、せめて報酬につながる形で退院させたいわけです。

「報酬につながる形での退院」には、

  • 系列のグループホームへ入所させる(入院患者が不足したらすぐ入院させることもできるし)
  • 病院の通常の外来のみならず、デイナイトケアに通所させる

といったものがあります。

グループホームが病院の敷地内に作られている場合もあり、既に「敷地内退院」という用語があります。

長期入院患者の退院がなかなか進まない理由

「長期入院患者を退院させて地域生活に移行させるべし」という国際社会からの圧力は、過去数十年にわたって続いています。そのための動きもあるにはあるのですが、はかばかしい成果を上げていないことは、冒頭のグラフに見るとおりです。

この背景には主に

  • 精神科病院側のニーズ(入院患者が減ったら困る)
  • 地域側のニーズ(精神疾患を持った人が地域に来てほしくない)
  • 患者に与えられる情報の不足(支援者はどこにいるか、どうすれば地域生活が可能になるか、など)

があります。

このうち、地域側の「精神疾患を持った人が地域に来てほしくない」という問題については、過去にもエントリー化しています。

「まともに働く」って? - ある精神障害者差別の論理

入院させたまま「退院」「地域生活」にしちゃえ? 「病棟転換型居住等施設」

そこで奇策が講じられました。精神科入院病棟を「居住施設」という名称にすることで、「この人たちは入院患者ではなく、地域生活している人です」ということにする、ということです。

この「病棟転換型居住等施設」に対しては、全障害を横断して反対の声があげられたにもかかわらず、2014年7月、厚労省は設置を認可する方針としました。この時期の動きについては、下記の拙エントリーをご参照ください。

なぜ、精神科病棟を居住施設にしてはならないのか?(1/3) - 「病棟転換型居住等施設」の背景と経緯

なぜ、精神科病棟を居住施設にしてはならないのか?(2/3) - ある精神科看護師の思い

なぜ、精神科病棟を居住施設にしてはならないのか?(3/3) - 精神科長期入院を経験した人々の思い

この問題についての動きは、各地域さまざまです。県の精神医療団体で申し合わせを行って「ウチではやらない」としている地域もあります。しかし、埼玉県のある精神科病院、それも「長期に収容するだけ」で知られる病院が、認可を求めて申請を行っているということです。心ある精神医療関係者・障害者を含めて反対の声があげられています。

この問題については、長谷川利夫氏(杏林大学教授)が分かりやすい資料を作成されています。ぜひご参照ください。

長谷川利夫氏「病棟転換型居住系施設の問題の本質はどこにあるのか」

今度は「敷地内退院」を地域生活としようとする厚労省

では、問題のパブコメ募集、「障害者の日常生活及び社会生活を総合的に支援するための法律に基づく指定障害福祉サービスの事業等の人員、設備及び運営に関する基準の一部を改正する省令(案)の御意見の募集について」では、何がたくらまれているのでしょうか?

ページ下部の「関連情報→意見公募要領(提出先を含む)、命令等の案→概要」、PDFを見てみると、このような文言があります。

つまり、敷地内にグループホームを作って「退院」させたことにするという方法を認める、ということです。

○病院の敷地内における指定共同生活援助の事業等の経過的特例について

長期入院精神障害者の地域移行に向けた具体的方策に係る検討会の取りまとめを踏まえ、サービス指定基準附則第7条に規定する既存の地域移行型ホームに関する基準を参考に、平成 36 年度末までの間、次に掲げる条件を満たす場合に、精神病床の削減を行った場合の病院の敷地内において指定共同生活援助の事業等を行うことができる特例を設ける。

・指定共同生活援助等の量が都道府県障害福祉計画に定める量に満たないこと

・病院の精神病床の減少を伴うものであること

・事業所の定員は 30 人以下であること

・構造的に独立性が確保されていること

・利用期間を原則として2年以内とすること

・サービス利用中も地域生活への移行に向けた支援をすること

・第三者による定期的な評価を受けること 等

病院の外にいる人から見ると、そこに住んでいる人たちは「精神科病院の患者」にほかなりません。

「精神科病院の患者が病院敷地内にいて、ときどき病院のスタッフ(と見分けのつかない人)と一緒にお買い物にくるくらいだから、地域は安全」

ということにもなるでしょう。

この「敷地内グループホームへの退院」が認められたら、精神科入院患者は確かに減らせるでしょう。

でも、これのどこが、「地域移行の促進」になるでしょうか?

生活保護問題との関連も

この問題は、生活保護とも深い関連があります。

生活保護の医療扶助の約25%は、精神科長期入院患者のために用いられているからです。

この患者さんたちは、「居住施設」という名前のもと病棟、あるいは敷地内の「地域」ということにされるグループホームに「退院」したとしても、生活保護を利用して生活することになります。精神科デイナイトケアを利用するならば(そしておそらく、制度的に許される限度いっぱいの利用が医療側から求められるでしょう)、多額の医療扶助を利用しつづけることにもなります。

生活保護はジェネリックにしろ? そもそも日本の向精神薬処方は「多剤」であるかどうかと無関係に量が多すぎることが多いんです。

「必要な人が必要な給付を受けて、最低限度だけど健康で文化的で、楽しく快適に毎日を送れるように」

を目指すためには、こと精神医療に関しては、「患者自身のため」と考えるには無理のある施策の数々、「地域移行」を推進するという名の下に行われる「これじゃない感」多大な施策の数々を見直す必要があります。

地域移行が成功し、円滑に地域生活が営めるようになったら、安くつくんですよ。生活保護を利用しつづけるとしても、余計な医療が「不要になったから求めない」という当然すぎる理由で、不要になるわけですから。

結論:とにかくパブコメお願いします!

繰り返しになりますが、皆様、「敷地内退院なんてインチキはやめれ!」の一言で結構ですから、どうか

障がい者総合支援法の省令改正案に関するパブコメ募集

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