2014年4月、神奈川県川崎市の小児科クリニックで、近隣の精神障害者グループホームの稼動開始に反対する署名運動が開始されたということです。

署名運動を始めたのは、クリニックの院長である女性医師です。

病院のWebサイトを見てみると、小規模ながら良心的な医療を提供しているようです。スタッフの方々も、実直で仕事がお出来になる方という感じです。写真を見ただけでは分かりませんけれども。

ことの経緯を、女性医師のブログから引用して紹介します。

なお、ブログエントリーは「Web魚拓」に保存してありますが、女性医師の公私ともの活動やクリニックの業務を妨害するつもりはまったくないので、今回はブログから本文を引用するにとどめ、URLは紹介しません。

ごく一部分の引用にとどめたかったのですが、多量の引用になりました。

発端と取られた対処

2014年4月のブログエントリーより。

大変な事になりました。 降って湧いた災難とはこの事です。

アパートができ、精神障害者の NPO が10人の 統合失調症 (昔の分裂病) を入居させると言ってきたのです。 突然の事で回りはみな驚き、住宅街にそれは困ると反対運動をし、署名して その NPO に出したり、大家さんに出したりしました。 驚いた事に、法律はもう何の味方もしてくれないというのです。 皆さんの隣にいきなり精神障害者が大勢来ても、どうしようも無いというのはおかしくないでしょうか?

「あなた小児科医でしょう?」と怒鳴りたくなりました。

子どもの声が「騒音」とされ、高齢者の多い住宅地の近隣などで保育園建設反対運動が起こっていたりすることを、ご存知ないわけはないでしょう。

「皆さんの隣にいきなり子どもが大勢来ても、どうしようも無いというのはおかしくないでしょうか?」

と、何の迷いもなく主張する方がたくさんいること。その主張が社会に受け入れられてしまうこと。これが少子化と無関係なわけはありません。

では、「子どもがいる」ということについて、女性医師はどうお考えでしょうか?

あそこは、小学校、中学校に通う子供達も通ります。お墓参りの方々も通り、夜遅くまで人が歩く私達の生活道路です。 そこに突然10人の精神障害者が入居し、11時から午後8時まで一人 NPO の人がいるそうですが、その他の時間は誰も見ていません。 これでは安心できません。 川崎市は安全、安心な街、を目指しているのではないでしょうか? 回りの住民の不安は、しらんぷりでしょうか?

子どもの「安全」「安心」は大切にされているんです。

この、統合失調症の方々の症状は変動がある、と医師が明言しました。 通院して薬は貰っているそうですが、変動したらどうするのでしょうか? 誰が責任を持って対処するのでしょう?

すべての人の心身ともの調子には変動があります。

インフルエンザワクチンを打っていても、運悪く、異なるタイプのインフルエンザに罹患することもあります。

治療薬を使ったら、副作用でせん妄状態になるかもしれません。

そうなったら、どうするのでしょうか? 誰が責任を持って対処するのでしょう?

そして、この NPO は 毎年、川崎市の税金から2億4000万もの貰っているそうです。正直にいうと、私は働くのがイヤになりました。

グループホーム一つだけで2億4000万円ということはないと思います。事業規模や人員によっては、「2億4000万円」は、少しもおかしくない話です。

精神障害者福祉の世界で働く方々(そこには健常者も含まれます)が妥当な給料をもらっていたら、働くのがイヤになるんですか?

精神障害者グループホームが、高齢者や身体障害者のグループホームと同様に安全で居心地よい場所であったら、働くのがイヤになるんですか?

この精神障害者に入居に反対する署名をはじめますので、賛成して戴ける方は、署名して下さい。受付においておきます。

そして署名が集まる

2日後のエントリーより。

署名の話をこれに書いたら、さっそく、署名して下さる方がいました。 どうもありがとう。

小児科ですよね? 子どもや孫を連れてきた親御さんたちや祖父母の方々が署名したんですよね? 

自分の子どもたちや自分自身が「保育園反対」「児童館反対」「高齢者施設反対」と言われて地域を追われてもかまわない、という覚悟がおありなんですよね?

精神障害者を差別するとか、福祉を否定するのではありません。

立派な差別であり、福祉否定です。

子供達や老人も安心して暮らせる町を作って、次の世代に渡したいのです。 みんなの●区です。

今、「みんなの」とおっしゃいましたよね?

精神障害者も、モチロン幸せに暮らしてほしいのですが、まともに働いて税金を納めている人々の生活を阻害してはいけませんね。 

精神障害者は「みんな」ではないんですか?

「まともに働いて」いる人々、「税金を納めている人々」って、誰のことですか?

非正規雇用の方々は、「まともに働いて」いる人々に入るのですか?

不況で仕事の単価が下がり、必死で働いていても納税ラインまでの所得は得られず、したがって納税にも至ることのない自営業者は「まともに働いて税金を納めている人々」に含まれるのですか? 

含まれないのならば、低収入による社会からの疎外を認めているということになりますよ。必死で働いている低収入や生活保護利用のシングルマザーはどうなるのですか? もしかして「生活保護だから働いていない」とお考えですか? 生活保護を利用している母子世帯の就労率は高いですよ。厚労省資料でも調べてみてください。就労しても生活保護基準以下の収入しか得られないお母さんが多いんです。納税は、低収入につき免除されているだけです。低収入自営業者の非課税と同じです。

そもそも、グループホームに精神障害者が住んだら、なぜ、「まともに働いて税金を納めている人々」の生活が阻害されるんでしょうか?

きちんとしつけられていない子ども、不機嫌をまき散らしながら(ときどき暴力行為に走りながら)歩いているタイプの中高年サラリーマン、ヒマさえあればご近所の奥さんの陰口をたたいて孤立させようとしている陰険陰湿マダム、もうトシなんだから好きにさせろとコンビニの店頭でわがままの限りをつくす高齢者は、「まともに働いて税金を納めている人々の生活を阻害」していないんですか?

問題行為には、問題行為として対処すればいいんです。

常識的な対処でラチがあかなかったり、具体的な危険が発生しそうであったりしたら、グループホーム管理人でも協力関係にある医療機関でも、あるいは場合によっては警察にでも対処や介入を求めればいいんです。

相手が精神障害者であろうがなかろうが、同じことです。

迷惑行為が多発するようだったら、むしろ、やりやすいじゃないですか(皮肉)。それを逆手に取って法的手段を取って地域から追い出すことも、不可能ではありません。

皆さんの家の隣にも、いつ精神障害者が来るかわかりませんし、来ても法的には文句は言えないそうです。 ある意味では怖い世界だと思います。

他の地域から来なくても、いつ誰が精神障害者になるか分かりません。

期待されて異動した新部署でプレッシャに負けて精神を病む会社員は、たくさんいます。その中には、治癒せず精神障害者となる方々もいます。

不幸な犯罪に巻き込まれて精神を病み、精神障害者となる方々もいます。

不幸な事故で脳が傷つけられ、精神障害者となる方々もいます。

高齢になれば、高齢にともなう精神疾患に罹患しやすくなります。認知症も精神障害です。高齢期うつという症状もあります。

もしかして、「それらは統合失調症とは違う」とお考えですか? 

そもそも統合失調症という名称変更に、世界的な軽症化の流れがあったことをご存知ですか?

「軽症だから」「重度だから」という区分けも、そもそも無意味です。

重度ならば、手厚い支援が必要。だから、手厚い支援を行政に求めましょう。そうすれば、精神障害者も含めて、地域の安全安心が確保されます。

そういう解決では、なぜいけないのでしょうか?

ご近所さんが、いつ精神障害者になるかわかりません。あなた自身も、いつ精神障害者になるかわかりません。

その時、長年馴染んだ生活の場から、あなたは追い出されたいのですか?

「法的には文句を言えない」という理由で、居住の継続をしぶしぶ許していただくような屈辱的な扱いを受けたいのですか? 

精神障害者になったあなたを追い出せないから「怖い世界」だと、地域の方々に思われてもいいのですか?

女性医師へ、私からのメッセージ

以上、「言っても、何も通じないのだろうなあ」と虚しい気持ちになりながら書きました。

身体障害と精神障害(皆さんすぐ忘れるんですが、統合失調症持ちです)を持つ私は、フリーランスのライターという軽蔑されやすい立場にあります。

障害があっても問題にならないように環境を整備してきたので、症状は非常に安定しています。時に悪化することもありますが、ウツっぽくなる・引きこもりがちになるという形で、むしろ活動性は通常より落ちます。悪化して暴れる人より、悪化しておとなしくなる人の方が多いのですよ。精神障害者にとって、「世の中にいる」はそれだけで大変なことなのですから。

労働時間と労働の強度は、過労死ラインでしょう。でも自分で自分の責任を持つ自営業ゆえ、クラッシャー上司や理不尽な企業体質に振り回されることはありません。だから、何とか持ちこたえています。

このところの出版不況の影響は、決して小さくありません。過労死ラインの労働によっても、ここ数年、納税できるほどの所得は得られていません。納税できる年には納税してきましたが。

納税できたりできなかったりする私は、きっと「まともに働いて税金を払っている」人ではないのでしょうね。

正直なところ、あなたのような方がいると思ったら、生きる意欲を失ってしまいます。

一度限りの人生を、後悔なく生きたい。

出来るだけの努力はしたい。「しなかった後悔」はしたくない。

あなたは、真面目に努力して、今のクリニックを築き上げ、維持してこられたのでしょう。

私も、真面目に努力してきました。あなたから見れば取るに足らぬ達成かもしれませんが、小さい達成を必死で積み上げてきました。その状況を維持したいと望んでいます。

精神障害者でもある私の小さな希望は、私が精神障害者であるゆえに、あなたのような方に簡単に踏みじられてしまうのでしょう。

私は、生まれてこなければよかったのでしょうか?

生後間もない時期、私は生命の危機に一度陥りました。

病院の産科の看護師さんの機転と小児科医の方々の努力により、命を救われ、50歳まで生き延びることができました。

私は助からなければよかったのでしょうか? 

精神障害者になることがわかっていたら、看護師さんと小児科医の先生方は、私を救うべきではなかったのでしょうか?

涙ぐみながら書いたエントリーです。笑いたければ笑ってください。