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朝倉未来は奇跡を起こせるか? メイウェザーの日本襲撃第2戦を米国はこう見ている

三浦勝夫ボクシング・ビート米国通信員
発表会見でフェイスオフした両者(写真:fansided.com)

何かが起こるワクワク感

 ボクシングの元世界5階級制覇王者フロイド・メイウェザー(米)と総合格闘技の朝倉未来(トライフォース赤坂)のエキシビションマッチが近づいてきた(25日・さいたまスーパーアリーナ)。日本では朝倉に期待する声も多いようだが、ここでは試合前の米国のリアクションをお伝えしてみよう。

 「これは3ラウンドのエキシビションマッチ。ルールはボクシングで記録にはカウントされない。でもスパーリングとは異なり、もっと全力でぶつかる攻防が待っているだろう。基本的にそれだけだ。ファンの中には何が起こるかワクワクしている人もいる。だから私はカバーする(報道する)」

 ボクシング専門サイト「バッド・レフトフック・ドットコム」のメインライター、スコット・クリスト氏はこう語る。おおむねボクシングメディアの見方は、この意見に集約される。今週末は金曜日23日に米国ニュージャージー州で、WBC・WBO世界スーパーフェザー級統一王者シャクール・スティーブンソン(米)がロブソン・コンセイサン(ブラジル)と防衛戦。翌24日には英国マンチェスターでヘビー級王者候補ジョー・ジョイス(米)と元WBOヘビー級王者ジョセフ・パーカー(ニュージーランド)のWBOヘビー級暫定王座決定戦が組まれている。同サイトのメイウェザーvs朝倉の扱いは三番手になっている。

予想は8-1でメイウェザー

 筆者がボクシング試合のオッズをチェックをする時、参考にしている「ギャンブリング・サイツ・ドットコム」というサイトがある。名称から想像できるようにお金の賭け方を指南することに重きを置いたメディアである。ボクシングを担当するアダム・ヘイネス氏はほかにアメフト、ラグビー、UFCなど“戦闘”を中心に執筆。今回、フロイド・メイウェザーvs朝倉未来を取り上げ、予想を展開している。その記事をA4サイズのコピー用紙にプリントアウトしたら、ぴったり4ページになった。同氏のボクシングのビッグマッチ記事と比べても遜色ない分量だ。米国でも関心が高い証拠だと思える。

 同氏はアメリカ式のオッズ表記で、メイウェザーが-800、朝倉が+525という数字を出している。これはメイウェザーに800米ドル投じてメイウェザーが勝てば賭け金と100米ドルが返ってくる。逆に朝倉に100ドル賭けて朝倉が勝てば賭け金プラス525ドルが戻ってくる計算。いずれにせよ8-1あるいは7-1ほどでメイウェザー有利となっている。

米国で試合はPPV中継される(写真:FITE TV)
米国で試合はPPV中継される(写真:FITE TV)

 ヘイネス氏は「800ドル賭けて儲けが100ドルでは、あまりうま味のあるファイトではない」と前置きして両者について丹念に解説。ボクシング、格闘技ファンには常識となっている記述だが、一部を紹介してみる。

 「もし朝倉が手強いプロボクサーだったら、この試合に勝つ可能性を探れるのだが、30歳の格闘技選手はそうではない。ボクシングで世界チャンピオンに就ける器ではない。45歳とはいえ、ディフェンスマスターのメイウェザーを打撃戦に引き込めるほど現実は甘くない。メイウェザーが負けるシーンは想像できない。朝倉はMMA(総合格闘技)のキャリアで打撃によるストップ負けが一度もなく、ソーシャルメディアでパーソナリティーを発揮する人気選手だけど、ボクシングのアイコンのガードを突き破り、ノックアウトするほどのパワーを持っているとは思えない」

 ソーシャルメディアうんぬんに関しては試合予想に直接関係ないが、朝倉のユーチューブ・チャンネルの登録者数が200万人を突破した情報を仕入れたのだろう。そして「直前にルール変更があれば日本人に追い風が吹くかもしれない」と分析。番狂わせが起こる確率も無きにしもあらずと記す。しかしルールを強要しているのはメイウェザーだと思えるだけに、この見方は期待しない方がいいだろう。

フルラウンドの勝負を予想

 それにしても判定が下らず、公式レコードに残らないエキシビションマッチで賭けが成立するとは不思議だ。同氏によると“勝敗”はノックアウト決着のみで判断されるという。よって今のところ「メイウェザーのKO,TKO勝ち」という予想が主流で「朝倉がノックダウンするかしないか」も賭けの対象になっていると説明。ちなみに「BetOnline」というブックメーカーは「メイウェザーの2ラウンドKO、TKO勝ち」が一番人気になっている。

 それでもヘイネス氏は「2018年12月、同じアリーナでメイウェザーがテンシン(那須川天心)をファーストラウンドでストップしたようなクレイジーな結末は想像していない。きっとフルラウンドの勝負になるだろう」と予想。天心と違い、体格で負けない朝倉が大いに善戦すると見ている。

 一方、「スポーティング・ニュース・ドットコム」はボクシングとUFC担当のダニエル・ヤノフスキー記者が朝倉のキャリアをアマチュア時代から紹介。「2015年の“リングス”で70キロと65キロ級で優勝」、「2018年に“RIZIN”でデビューし、その後10勝2敗。7連勝後、RIZINのフェザー級タイトルマッチで斎藤裕にユナニマス判定負けしたが、以後3勝1敗。最新戦で斎藤にユナニマス判定勝ちで雪辱した」と伝える。

いったい2人はいくら稼ぐ?

 さて、2017年8月、UFCのチャンピオンだったコナー・マクレガーと対戦し無敗のまま引退を表明したメイウェザーは今回が4回目のエキシビションとなる。那須川天心、2021年6月のユーチューバーボクサー、ローガン・ポール、今年5月アラブ首長国連邦ドバイで行った元スパーリングパートナー、ドン・ムーア戦に続くリング登場。このうちポールとの8回戦で“マネー”は6500ドル(約88億円)の報酬を得たと言われる。現役時代のマニー・パッキアオ戦、マクレガー戦に比べると少ないが、相変わらず荒稼ぎしている。

ユーチューバーボクサー、ローガン・ポールを追い込むメイウェザー
ユーチューバーボクサー、ローガン・ポールを追い込むメイウェザー写真:REX/アフロ

 では朝倉戦でメイウェザーのファイトマネーはどれくらいに達するのか?米国メディア「JefeBet.com」が伝えるところでは2000万ドルから3000万ドル(約27億円から41億円)が彼の銀行口座に振り込まれるという話だ。6月、発表会見のため来日した際に150万ドル(約2億円)を獲得したことが判明したメイウェザー。金の亡者と呼ばれるゆえんである。ファンのコメントの中には「マネーがジャパニーズ・バンクを襲撃する」といったものも見られる。

 同メディアによると朝倉の報酬も1500万ドルから2000万ドル(約20億円から27億円)が見込まれるという。メイウェザーの対戦者の中では破格の金額に思える。朝倉のモチベーションは高まるばかりだろう。

 正味9分の戦いでどんなドラマが待っているか。「生きるか死ぬかの戦いではなく、タイトルマッチでもないけれどエンターテインメント(娯楽)として楽しめる一戦。とはいえ29.99ドル(ペイパービュー価格=約4000円)払う価値があるだろうか」とヘイネス氏。これが米国ファンの立場を率直に代弁している。

 それでもストリートファイトが立脚点にあり、「死に対する恐怖心がない」と広言する稀有なタレント、朝倉未来が「キャッシュマシーン」を向こうに回して奇跡を起こすシーンを期待したくなる。日本のユーチューバーは米国のそれと一線を画するところを誇示してもらいたい。

ボクシング・ビート米国通信員

岩手県奥州市出身。近所にアマチュアの名将、佐々木達彦氏が住んでいたためボクシングの魅力と凄さにハマる。上京後、学生時代から外国人の草サッカーチーム「スペインクラブ」でプレー。81年メキシコへ渡り現地レポートをボクシング・ビートの前身ワールドボクシングへ寄稿。90年代に入り拠点を米国カリフォルニアへ移し、フロイド・メイウェザー、ロイ・ジョーンズなどを取材。メジャーリーグもペドロ・マルティネス、アルバート・プホルスら主にラテン系選手をスポーツ紙向けにインタビュー。好物はカツ丼。愛読書は佐伯泰英氏の現代もの。

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