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井岡一翔との統一戦、井上尚弥への挑戦にも意欲。2階級王者エストラーダの本気度

三浦勝夫ボクシング・ビート米国通信員
ニエテスを圧倒する井岡(写真:YUTAKA/アフロスポーツ)

次はIBF戦の勝者と統一戦か?

 13日、東京・大田区総合体育館で行われたWBO世界スーパーフライ級タイトルマッチはチャンピオン井岡一翔(志成)が元王者ドニー・ニエテス(フィリピン)に大差の3-0判定勝利(118-110,120-108,117-111)。軽量級4階級制覇王者同士の対決を制して3年半ぶりにリベンジに成功。5度目の防衛を果たした。

 試合は予想通りテクニカルな攻防となり、井岡がニエテスの出鼻に左ジャブ、左右コンビネーションを断続的にヒットして進行。ボディー攻撃も有効で、終盤、井岡のパンチによって左マブタを弓形にカットしたニエテスは出血に見舞われ、劣勢に追い込まれた。ストップ勝ちに持ち込めなかったのはニエテスのディフェンススキルと老獪さに阻まれたからだろう。

 井岡は、昨年の大みそかにIBFスーパーフライ級王者ジェルウィン・アンカハス(フィリピン)と2団体統一戦を行う運びだったが新型コロナウイルスの変異株の感染拡大を警戒した外国人入国制限によって見送りに。結局、福永亮次(角海老宝石)と防衛戦を行い判定勝ちした。本来ならアンカハスと仕切り直しという展望だったが、アンカハスが2月、米国で行った10度目の防衛戦でフェルナンド・マルティネス(アルゼンチン)に敗れる波乱となり、今回、WBOから通達されたニエテスとの指名試合を選択した。

 ベルトを失ったアンカハスは減量苦からバンタム級転向を口にしたが、最近の報道ではマルティネスとのダイレクトリマッチが有力だと伝えられる。まだその後のスケジュールは決まっていないが、再戦の勝者と井岡が統一戦に臨むというのが既定路線だと思われる。井岡自身も「次回は統一戦をやりたい」と公言してはばからない。

群雄割拠のスーパーフライ級

 数年前に米国の大手ケーブルチャンネルが「スーパーフライ」シリーズを主催した。3回にわたって行われたシリーズには井岡もニエテスも出場。現在でもスーパーフライ級の牽引車と目される“ガリョ”(闘鶏)と呼ばれるフアン・フランシスコ・エストラーダ(メキシコ=WBAスーパー&WBCフランチャイズ王者)と“ロマゴン”ことローマン・ゴンサレス(ニカラグア=WBA&WBC1位)も主役としてリングに上がった。そして彗星のごとく現れたジェシー“バム”ロドリゲス(米=WBC正規王者)がこのクラスに新たな彩りを添える。

WBAスーパーフライ級正規王者フランコ(左)と同級WBC王者ロドリゲス(写真:Stacey M. Snyder)
WBAスーパーフライ級正規王者フランコ(左)と同級WBC王者ロドリゲス(写真:Stacey M. Snyder)

 IBFの新旧王者マルティネスとアンカハス以外にこれだけのラインナップが揃っている。ニエテスに雪辱した井岡にとって腕が鳴ってしょうがないはずだ。海外、とりわけラテンメディアの中には井岡vsロマゴンは締結する見込みが強いと報じるところもある。実現に向かえば井岡は願ったり叶ったりだろう。

 ただしロマゴンは今、ベルトを持っていない。昨年3月に行われたエストラーダとの激闘で、スコアカードが論議を巻き起こしたものの、公式記録は2-1判定負け。ロマゴンはWBAスーパー王座を失った。試合内容からも両者の再戦(第3戦)が待望されているが、コロナ禍が影響して2度ほどキャンセルされた。

私はアウェーを恐れない

 一方エストラーダ(32歳)にはロドリゲスの実兄、WBA世界スーパーフライ級レギュラー王者ジョシュア・フランコ(米)との防衛戦がWBAからオーダーされている。ただしこのカードは入札で勝利したゴールデンボーイ・プロモーションズ(GBP)が入札参加最低額の12万ドル(約1600万円)で落札したため、ロマゴン戦で高額を稼いだエストラーダは不満を表し、開催のメドが立っていない。一部メディアは8月20日、米国のカリフォルニア州かテキサス州で実現すると伝えるが、1ヵ月近くなった現在でも正式発表されていない。ファイトマネーの上積みがどれだけあるのかが締結のカギとなっている。

 状況では早くても9月ぐらいに持ち越されるのではないだろうか。その中でエストラーダは井岡vsニエテスの前、メキシコのメディアに「日本でイオカとの統一戦、またはバンタム級に上げてイノウエに挑戦する可能性がある。私はアウェーを恐れていない」と宣言。日本の両巨頭との対決を希望した。

 ロマゴン戦を最後にリングから遠ざかっているエストラーダにすれば「もう待っていられない」というところかもしれない。2013年4月、マカオでブライアン・ビロリア(米)を攻略してWBAとWBO世界フライ級統一王座を獲得したエストラーダは「マカオで戦うのも日本で戦うのも同じ。ビロリア戦で行ったことをリピートし、挑戦者の気持ちで立ち向かえば素晴らしい試合ができる」と意気込む。

6月、メキシコで行われたWBCライトフライ級挑戦者決定戦のリングでファンにあいさつするエストラーダ(写真:Zanfer Boxing)
6月、メキシコで行われたWBCライトフライ級挑戦者決定戦のリングでファンにあいさつするエストラーダ(写真:Zanfer Boxing)

試合枯れから脱却できるか?

 ロマゴン戦が宙に浮いた状態になり、フランコ戦も交渉難航となれば、一気に勝負に出たくなる気持ちに駆られても不思議ではない。かと言って井岡と井上はビロリアと一緒くたにはできないだろう。軽率な発言と言ったら、パウンド・フォー・パウンド・ランキングにも入ったエストラーダに対して失礼だが、まずはフランコ戦を実現させて勝ってから決意表明すべきだろう。

 彼は続けて「あと3、4試合、強い相手と戦い、グローブを脱ぐのが目標。フリオ・セサール・チャベス(3階級制覇王者)、フアン・マヌエル・マルケス(4階級制覇王者)らのようにメキシコの歴史に名を刻む存在になりたい」と心情を明かす。

 共同プロモーターのマッチルーム・ボクシングとの関係悪化が噂されるエストラーダは新しいプロモーターを物色中とも言われる。その候補がGBPなのだろうが、事はスムーズに運ばない。もしフランコ戦を強行すればライバル団体WBCはフランチャイズ王座(実質名誉職のようなものだが…)をはく奪すると通告している。

引退前にひと稼ぎ

 井岡は試合を終えたばかり。井上はもう一つのベルトを保持するWBO王者ポール・バトラー(英)との4団体統一戦が濃厚。だが、もしバトラー戦の締結が困難ならばビッグネームのエストラーダを迎えて雌雄を決するのも悪い選択肢ではないだろう。むしろモンスターの未来に箔が付くと断言できる。バトラーと比べて勝利を飾る確率が下がることが観戦意欲を刺激する。

 ただし実質的に休業状態のエストラーダがどれほど真剣に井岡、井上戦を欲しているか推測の域を出ないところがある。バンタム級ではまだ前哨戦を行っていない彼がいきなり、現役最強ボクサーと対峙して勝てるか疑わしい。それでも度重なる拳やヒザなどの負傷に見舞われたエストラーダが引退を視野に入れていることは想像できる。より注目を集め、平たく言えばより稼げる相手と対戦したいと願っていることは間違いない。

 ゲンナジー・ゴロフキン級とは言えないまでも日本のファンがエストラーダを直に観戦できることは僥倖だ。井岡vsロマゴン、井上vsスーパーバンタム級王者フルトンあるいはアフマダリエフと並んで注目すべきカードが視界に入ってきた。

ボクシング・ビート米国通信員

岩手県奥州市出身。近所にアマチュアの名将、佐々木達彦氏が住んでいたためボクシングの魅力と凄さにハマる。上京後、学生時代から外国人の草サッカーチーム「スペインクラブ」でプレー。81年メキシコへ渡り現地レポートをボクシング・ビートの前身ワールドボクシングへ寄稿。90年代に入り拠点を米国カリフォルニアへ移し、フロイド・メイウェザー、ロイ・ジョーンズなどを取材。メジャーリーグもペドロ・マルティネス、アルバート・プホルスら主にラテン系選手をスポーツ紙向けにインタビュー。好物はカツ丼。愛読書は佐伯泰英氏の現代もの。

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