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左官職人を経て世界戦へ。メキシコで京口紘人を迎え撃つ苦労人ボクサー、ベルムデスインタビュー

三浦勝夫ボクシング・ビート米国通信員
京口紘人vsアクセル・ベガ(写真:Matchroom Boxing)

 WBA世界ライトフライ級スーパー王者の京口紘人(ワタナベ)が6月10日メキシコシティで防衛戦に臨む。相手は同級レギュラー王者エステバン・ベルムデス(メキシコ)。タイトル承認団体内の統一戦となる。敵地に乗り込む京口を待ち構えるベルムデスを電話でインタビューした。

メキシコの新人王戦で優勝

――ボクシングを始めたきっかけは?

ベルムデス「小さい時からブリング(いじめ)に遭い、護身の目的で自宅で自己流で始めました。アマチュアでリングに立ったのは16歳の時です」

――アマチュアの戦績と大会での実績は?

ベルムデス「アマチュアでは30戦28勝2敗。大会での入賞はありません」

――プロ入り後は?

ベルムデス「2013年の『シントゥロン・デ・オロ』(日本の新人王戦に相当)で優勝しました。クラスはライトフライ級です」

――その後、元WBCミニマム級王者のオスワルド・ノボアにKO勝ちしたこともありましたが、負けが込んだ時期がありました。どうやってスランプを克服したのですか?

ベルムデス「努力することとヤル気、闘志をかき立てることでした。常に前向きの姿勢を崩さないことでした」

――マルコ・アントニオ・バレラ(メキシコ=殿堂入り元3階級制覇王者)チームのサポートをいつから受けているのですか?

ベルムデス「アマチュア当時からです。シントゥロン・デ・オロで優勝した時もそうでした。ただ途中で2年ほど離れた時期がありました」

――メキシコシティの「バレラ・ジム」でトレーニングしているのですね。

ベルムデス「いいえ。『ラ・アレナ』というジムです。地下鉄のパンティトラン駅の近くにあります。トレーナーはマルコのいとこのアーロン・ドミンゲスです」

――京口戦に備えて特別にキャンプを実行する予定ですか?

ベルムデス「いいえ。毎日ジムで練習するのがルーティンワーク。試合が正式発表されてから(注:4月下旬)から本腰を入れて取り組んでいます」

試合はメキシコシティの老舗会場アレナ・コリセオで開催される(写真:Matchroom Boxing)
試合はメキシコシティの老舗会場アレナ・コリセオで開催される(写真:Matchroom Boxing)

 ベルムデスは1995年10月11日メキシコシティの東に位置するネッサワルコヨトル市(通称ネッサ)生まれ。26歳。2013年3月プロデビュー。戦績は14勝10KO3敗2分。右のファイター型。上記の新人トーナメントはレベルが高く、2014年を最後に終了するまで優勝者からイスラエル・バスケス(WBC&IBFスーパーバンタム級)、クリスチャン・ミハレス(WBA&IBFスーパーフライ級)、ホセ・アントニオ・アギーレ(WBCミニマム級)ら10人の世界王者を輩出している。ベルムデスは11人目となる。

右強打だけには頼らない

――京口の印象を聞かせてください。

ベルムデス「ハードでタフでテンポが速い。ライトフライ級最強と思える強いチャンピオンです」

――京口の長所、武器は?

ベルムデス「ズバリ言って、コンプリートな選手に見えます。だから何がズバ抜けているとは言えない。すべてを警戒しなければなりません」

――あなたの最大の武器は前王者カルロス・カニサレスを倒した右のボラード(スウィング気味のパンチ)ですか?

ベルムデス「いいえ、特にボラードにこだわっていません。練習は行っていますが、全部のパンチが試合で活かせるように努力したい」

――京口の前回の防衛戦、アクセル・ベガ(メキシコ)戦は今回の一戦に有益ですか?

ベルムデス「少しは役立つでしょうが、試合は途中で終わったし、彼が手の内を全部披露したとは思えない。あれ以上はわかりません。いずれにしても、すごく厳しい試合を想定しています。クラス・ナンバーワンの相手と戦うことになるので……」

――京口に勝つためのカギは?

ベルムデス「作戦は立ててもリング上では機能しないことが多い。だから我々は作戦なしで臨み、臨機応変に対応したい。とにかく勝つ意欲を前面に出して戦いたい」

――およそ1年のブランクは影響しないでしょうか?

ベルムデス「2人ともリングから同じくらい離れているし、むしろ相手の方が長いからブランクは気にしていない」

――トレーナーのアーロンからどんなアドバイスを受けていますか?

ベルムデス「手数を多く出せ、積極的に対処せよ、何事もポジティブに取り組めと檄を飛ばされる。スピードを殺せとも言われる。そして『キョウグチは本当に強いぞ!』とも。(アドバイスの)全部は明かせないけど、それだけ手ごわい選手を向こうに回すということでしょう」

――スパーリングの進行具合は?

ベルムデス「現在(5月11日)まで50ラウンドぐらい。最終的に? 80ラウンドほどに抑えるかもしれません。その分、バラエティーのある中身の濃い練習を実行したい」

ベルムデスには地の利も味方する(写真:WBA)
ベルムデスには地の利も味方する(写真:WBA)

貧困から這い上がった苦労人

――アイドル視するボクサーは?

ベルムデス「いろいろいるけど、やはりマニー・パッキアオ。まさにファイターというところに惹かれる」

――ボクシング以外の職業を経験している?

ベルムデス「左官職人。マエストロ(名人)と呼ばれていますよ。あと建築工事現場でも働いていました。ええ、リングに上がりながらです」

――代理人、後見人のバレラ氏からも激励されていますか?

ベルムデス「シー(イエス)。ベストを尽くせと。彼からも『相手は強いぞ』と助言されています」

――京口にメッセージを。

ベルムデス「試合のチャンスをもらえてグラシアス。貴重なチャンスを最大限に活かして戦って勝ちたい」

 生まれ育ったネッサ市は地方からメキシコシティへ職を求めてやって来る人々が定住して出来た町で貧困層が多い。ベルムデスの家族も例外ではなく、12人兄弟の彼は苦労を重ねながら世界チャンピオンに到達した。「下から這い上がったキャリアがキョウグチ戦の最大のモチベーションになる」とアピール。昨年5月のカニサレス戦に続くアップセットを誓う。

ボクシング・ビート米国通信員

岩手県奥州市出身。近所にアマチュアの名将、佐々木達彦氏が住んでいたためボクシングの魅力と凄さにハマる。上京後、学生時代から外国人の草サッカーチーム「スペインクラブ」でプレー。81年メキシコへ渡り現地レポートをボクシング・ビートの前身ワールドボクシングへ寄稿。90年代に入り拠点を米国カリフォルニアへ移し、フロイド・メイウェザー、ロイ・ジョーンズなどを取材。メジャーリーグもペドロ・マルティネス、アルバート・プホルスら主にラテン系選手をスポーツ紙向けにインタビュー。好物はカツ丼。愛読書は佐伯泰英氏の現代もの。

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