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エストラーダvsロマゴン3の延期が意味深なわけ? 井岡一翔の統一路線はどうなる?

三浦勝夫ボクシング・ビート米国通信員
エストラーダvsロマゴン第2戦(写真:Matchroom Boxing)

2度目の延期

 3月5日、米国カリフォルニア州サンディエゴで予定されたWBA世界スーパーフライ級スーパー王者フアン・フランシスコ・エストラーダ(メキシコ)vs前同級王者ローマン・ゴンサレス(ニカラグア)の第3戦がエストラーダの体調不良のため延期が決まった。昨年3月、テキサス州ダラスで行われた第2戦は両者が繰り出したパンチ総数が2529発という大激闘になり、エストラーダが2-1判定勝ち。保持していたWBC王座と合わせて2団体統一王者に君臨した(その後の経過に関しては後述)。

 だが、“ロマゴン”ことゴンサレスの勝利を支持する意見も多く、第3戦が待望されていた。そして昨年秋に実現する運びだった。しかしロマゴンがニカラグアで調整中にCOVID-19(新型コロナウイルス感染症)の症状が出たため流れてしまった。今月上旬、プロモーターのマッチルーム・ボクシングから冒頭のスケジュールが発表され、ファンの胸を弾ませていた。

 ロマゴンは昨年中からカリフォルニア州コアチェラへ移動し、ニカラグア人のマルコス・カバジェロ・トレーナー(元IBF世界バンタム級王者ランディ・カバジェロの父)の指導でトレーニングに入っていた。その後一度ニカラグアへ戻り、試合の決定とともに再びコアチェラでキャンプを再開。現地からのニュースでは好調にジムワークをこなしているという。その矢先にエストラーダの不調→延期の知らせが伝わった。

米国で好調にトレーニングをこなすロマゴン(写真:Lina Baker / 360 Promotions)
米国で好調にトレーニングをこなすロマゴン(写真:Lina Baker / 360 Promotions)

コロナにやられた……

 エストラーダも今月から本格的に始動したが、以前、感染したCOVID-19の症状が出て続行が難しくなったという。一部で別の病気にかかったのではないか、また被弾も多かった第2戦のダメージを引きずっているのではないかとの憶測もささやかれた。モハメド・アリvsジョー・フレイジャー第1戦のように勝者(フレイジャー)の方がより深い肉体的ダメージを被ることがある。ボクシングの怖さである。

 それでも昨日ESPNドットコムなどが伝えたところでは、やはりエストラーダはCOVID-19を患ったことで間違いなさそうだ。変異株「オミクロン株」ではないかとも噂される。密閉した環境で複数の人間が汗を流すボクシングジムは、どうしてもパンデミックの影響を受けやすい。米国でもメイントレーナーが陽性反応を示したため出入りする人間全員に一時、新型コロナ検査を実施したジムもあった。

前世界王者の二の舞はゴメンだ

 エストラーダは普段メキシコのソノラ州エルモシーヨで、アルフレド・カバジェロ・トレーナーが運営するジムを拠点に調整を図る。ジムの同僚に前WBC世界スーパーフェザー級王者ミゲル・ベルチェルト(メキシコ)がいる。現地の報道ではエストラーダとカバジェロ氏が延期を決断した背景にはベルチェルトが関係すると言われる。

 ベルチェルトは昨年、オスカル・バルデス(メキシコ)の挑戦を受け10回痛烈なKO負けを喫して王座から転落した。フィナーレまでの展開もバルデスの独壇場だった。試合後ベルチェルトは万全のコンディションでなかったことが判明した。もちろんドクターチェックをパスしてリングに上がるのだから、それなりの状態だったのだが完ぺきではなかったようだ。バルデス戦の前にはCOVID-19に感染したことがある。それが完敗を喫した原因だとエストラーダ陣営は分析。今回も激闘間違いなしと予想されるロマゴン戦を見送る決断に至った。

バルデス(右)に王座を明け渡したベルチェルト(写真:Mikey Williams / Top Rank)
バルデス(右)に王座を明け渡したベルチェルト(写真:Mikey Williams / Top Rank)

 同時に正式発表から試合まで約2ヵ月では十分に仕上げられないと考えたのかもしれない。試合前の行事などを考慮すると調整期間は1ヵ月半ほど。しかも体調不良で出遅れたとなればモチベーションが低下するのは当然だろう。

フランチャイズ王者は名誉職

 モチベーションと言えば、第2戦で勝ったエストラーダはWBC王座を防衛、WBAスーパー王座を獲得し2冠統一王者に就いたはずだった。ところがWBCは試合から2週間後、エストラーダを「フランチャイズ王者」にシフトする決断を下す。これはエストラーダにWBCの指名挑戦者シーサケット・ソールンビサイ(タイ)との防衛戦を回避させるのが目的。第2戦でお互いに100万ドルずつ稼いだと言われるエストラーダvsロマゴンは軽量級屈指のドル箱カード。ファイトマネーの総額のパーセンテージを認定料として徴収するWBCは、より金額が動くエストラーダvsロマゴン第3戦を優先させたい意向。エストラーダvsシーサケットは後回しで構わない。

 とはいえ“格上”と認知されるもののフランチャイズ王者は名誉職に等しい。統一王者として認定されないエストラーダは内心おもしろくないはずだ。皮肉の一つも言いたくなる。うがった見方をすれば、エストラーダはWBCへ反旗を翻す目的で今回降りたとも推測できるのだ。

 ひとまず視野からエストラーダが消えたロマゴンに新しい相手が見つかった。WBC世界フライ級王者フリオ・セサール・マルティネス(メキシコ)だ。同じくマッチルーム・ボクシング傘下でリングに上がるマルティネス(18勝14KO1敗2無効試合)はイケイケスタイルの好戦的な選手。2つの無効試合があるように暴走するのが玉にキズだが、ロマゴン戦は好ファイトが保証される。ESPNドットコムは「きらめくような素晴らしいマッチアップ」と絶賛する。

井岡vsロマゴンもオプション。そして中谷

 ニカラグアのメディアによると、マルティネスに決まる前、ロマゴンにはWBO世界スーパーフライ級王者井岡一翔(志成)との統一戦がオプションにあったという。またIBF王者ジェルウィン・アンカハス(フィリピン)の名前も挙がった。昨年の大みそかに福永亮次(角海老宝石)を下して防衛した井岡はアンカハスとの統一戦が既定路線。アンカハスも2月26日に米国で防衛戦が組まれている。当然ながら2人とも現在無冠のロマゴンとの対決は、すぐに実現しそうにない。

 それでも、あくまでニカラグア・メディア(ラ・プレンサ)の見解だが、「エストラーダにとり、ミリオンダラー・マッチが実現する唯一の相手がチョコラティート(ロマゴン)であるのに対し、チョコラティートには井岡、アンカハスらのライバルが存在する」という見方もある。ポピュラリティではロマゴンに軍配が上がるのかもしれない。

 スーパーフライ級で4団体統一王者を目指す井岡にとり、アンカハス、エストラーダ、ロマゴン、そして2月5日にWBC王座決定戦に出場する元王者同士シーサケットとカルロス・クアドラス(メキシコ)と今後の対戦候補は強敵ぞろい。険しい道が待っているが、いずれもファンをシビレさせるカードだ。

 一方、WBO世界フライ級王者中谷潤人(M.T)も統一戦を希望している。そして「フライ級に長居はできない。大きい試合をしてから階級を上げたい気持ちがあります」とインタビューで明かしている。中谷がスーパーフライ級に進出した時、どんな状況になっているか、想像を広げるのも楽しい。

ボクシング・ビート米国通信員

岩手県奥州市出身。近所にアマチュアの名将、佐々木達彦氏が住んでいたためボクシングの魅力と凄さにハマる。上京後、学生時代から外国人の草サッカーチーム「スペインクラブ」でプレー。81年メキシコへ渡り現地レポートをボクシング・ビートの前身ワールドボクシングへ寄稿。90年代に入り拠点を米国カリフォルニアへ移し、フロイド・メイウェザー、ロイ・ジョーンズなどを取材。メジャーリーグもペドロ・マルティネス、アルバート・プホルスら主にラテン系選手をスポーツ紙向けにインタビュー。好物はカツ丼。愛読書は佐伯泰英氏の現代もの。

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