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井上尚弥、村田諒太、京口紘人が君臨するWBAスーパー王座の価値 王者一本化は現実となるか?

三浦勝夫ボクシング・ビート米国通信員
WBAスーパー王者井上尚弥(写真:Mikey Williams/TopRank)

重大ニュース、暫定王者撤廃

 先週土曜日18日、米国ミネソタ州で行われたWBA世界スーパーミドル級戦(王者デビッド・モレル・ジュニア(キューバ=23歳)が挑戦者アランテス・フォックス(米=29歳)に4回TKO勝ちで防衛)と本日ドミニカ共和国のサントドミンゴでゴングが鳴るがWBA世界ミニマム級戦、王者ビック・サルダール(フィリピン=31歳)vs挑戦者エリック・ロサ(ドミニカ共和国=21歳)はWBA“レギュラー”王座タイトルマッチである。前者には今やボクシング界の顔になったサウル“カネロ”アルバレス(メキシコ)、後者にはノックアウト・CPフレッシュマート(タイ)が“スーパー王者”に君臨する。

 WBAは8月、モレルvsフォックスと同じミネソタ州ミネアポリスで開催されたウェルター級暫定王座決定戦の結末が発端となり、批判の的だった暫定王者を廃止する決断を下した。同時にゴールド王者なる称号も撤廃された。これは2021年のボクシング界の重大ニュースの一つに数えられるだろう。個人的にもこれまでWBAを随分突いてきた身として素直に拍手を送りたい。2022年の課題は“スーパー”と“レギュラー”の統合となる。

 現在、日本人でWBAスーパー王者に君臨するのはバンタム級の井上尚弥(大橋)、ミドル級の村田諒太(帝拳)、ライトフライ級の京口紘人(ワタナベ)の3人。井上の後にレギュラー王者は今いないが、村田にはエリスランディ・ララ(キューバ)、京口にはエステバン・ベルムデス(メキシコ)がそれぞれレギュラー王者(正規王者と訳される)を占めている。

WBAライトフライ級スーパー王者・京口紘人(写真:ボクシング・ビート)
WBAライトフライ級スーパー王者・京口紘人(写真:ボクシング・ビート)

メンドサ会長はどう動く?

 筆者はWBAが暫定とゴールド王者を撤廃した後、ヒルベルト・メンドサ・ジュニア会長に直接、質問をぶつけた。だが同会長はスーパーとレギュラーの統一に関して明言を避けた。

 「その件は我々の世界タイトルマッチ委員会が取り組むことになっています。適切な時期、タイミングを見計らって進展具合を発表することになるでしょう。今は各階級チャンピオン一人を目指すプロセスにいると思ってください」

 期待を持たせるニュアンスもあるが、まだ具体的な動きはない。レギュラー王座を返上した2人、ララとジェルボンテ・デイビス(米)は2階級でレギュラー王座を保持していたため、どちらかを返上しなければならない事情があった。ルールではスーパー王者はレギュラー王者と防衛戦が義務づけられている。しかし現状のマッチメイクはレギュラー王者vs1位挑戦者のケースが断然多い。

混乱を招く“2チャンピオン制”

 そうしているうちに、井上の下にもレギュラー王者決定戦が行われる雰囲気が感じられる。それは井上の4団体統一ロードには直接関係ないが、「WBAチャンピオンがもう一人いる」という現実は歓迎されるものではないはずだ。

 村田にしても延期されたIBF王者ゲンナジー・ゴロフキン(カザフスタン)との統一戦で勝つにせよ負けるにせよ、その後レギュラー王者ララとの指名試合がすんなり実現するとは思えない。ゴロフキンが勝った場合はもっと確率が低いだろう。スーパー王者というステイタスが高いチャンピオンが存在して、同時にレギュラー王者も認定するポリシーは、改めて指摘することでもないが、ファンの混乱を招く元凶である。

村田諒太がスーパー王者に君臨するミドル級のレギュラー王者ララ(写真:Sean Michael Ham / Fox Sports)
村田諒太がスーパー王者に君臨するミドル級のレギュラー王者ララ(写真:Sean Michael Ham / Fox Sports)

 京口の場合は村田の状況よりもベルムデスとの一戦は実現しやすいのではないだろうか。事実、WBAは6月、京口vsベルムデスを締結するよう通達を下した。残念ながら、その段階で交渉は成立しなかったが、この日本vsメキシコの対決は日の目を見る可能性は高いとみる。

日本のファンから世界へ呼びかけよう

 やはり同じ階級に2人のチャンピオンが存在する現状は一日も早く解消するべきではないか。スーパー王者は他団体のチャンピオンとの統一戦が実現しやすいメリットがある。だが、だからと言ってレギュラー王者を設ける必要はない。どう考えてもスーパー、レギュラーという称号は紛らわしく、1階級1チャンピオンが理想。いや理想というより、タイトル承認団体の義務だろう。

 「それではスーパー王者の価値が低下するのではないか?」と危惧する向きがあるかもしれない。だがそれでは真のボクシングファンとは言えない。誰もが井上はWBAの正真正銘のナンバーワンだと認めているし、村田と京口も限りなくそれに近づいている。肩書はリングでの活躍によってついてくるものにしても、スーパー(そしてレギュラー)にこだわる必要はない。

 3人の世界に誇れるスーパーチャンピオンがいる日本。メディアがいくら呼びかけてもメンドサ会長がいつ重い腰を上げるかわからない。アメリカ、そして世界中のファンが呼応して暫定王者廃止につながったように、日本のファンからSNSを通じて「チャンピオンは一人」を訴えかけてもいい時期に来ていると思う。

 近い将来、WBAが拝金主義にとらわれることなく、それを実行してくれることを心から祈りたい。

ボクシング・ビート米国通信員

岩手県奥州市出身。近所にアマチュアの名将、佐々木達彦氏が住んでいたためボクシングの魅力と凄さにハマる。上京後、学生時代から外国人の草サッカーチーム「スペインクラブ」でプレー。81年メキシコへ渡り現地レポートをボクシング・ビートの前身ワールドボクシングへ寄稿。90年代に入り拠点を米国カリフォルニアへ移し、フロイド・メイウェザー、ロイ・ジョーンズなどを取材。メジャーリーグもペドロ・マルティネス、アルバート・プホルスら主にラテン系選手をスポーツ紙向けにインタビュー。好物はカツ丼。愛読書は佐伯泰英氏の現代もの。

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