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井上尚弥以上の衝撃を残した中谷正義。統一王者ロペスとの再戦はどうしたら実現できる?

三浦勝夫ボクシング・ビート米国通信員
ベルデホを倒した中谷(写真:Mikey Williams / Top Rank)

1年4ヵ月ぶりの再起戦

 元OPBF(東洋太平洋ボクシング連盟)ライト級王者中谷正義(帝拳)が殊勲の勝利を飾った。12日ラスベガスのMGMグランド・カンファレンスセンター、通称ザ・バブル。世界ランカーでキャリアを再建中だったスター候補フェリックス・ベルデホ(プエルトリコ)に逆転TKO勝ち。昨年7月、現ライト級4冠統一王者テオフィモ・ロペス(米)に善戦するも3-0判定負けを喫した中谷は強豪、スター選手が割拠するライト級で新たに進撃を開始した。

 中谷vsベルデホは日本のメディアでもすでに報道されているので詳しく触れないが、ダウン応酬のドラマチックな攻防だった。初回と4回に右強打で中谷を倒したベルデホが断然優勢。しかし7回、ダメージを与えた中谷が果敢な逆襲を仕掛け、9回に2度倒して決着をつけた。ベルデホのスタミナ切れとアゴの脆さを差し引いても大いに価値ある勝利だった。

 ロペス戦から中谷が1年4ヵ月ぶりのリングだったことも意味深い。米国東部メリーランド州で行われたロペス戦はスコアカードこそ大差がついたが、終盤ロペスがダメージを受けたシーンもあり、本場にNAKATANIの名前を印象づけた一戦だった。同時に勝ち抜いたロペスの勝負強さも特筆される。ところが試合の後、中谷は現役引退をアナウンス。「もったいない」と思ったファンも多かったことだろう。

ナカタニ・ファンが急増中

 しかし期待に応えて中谷は帰ってきた。大阪の井岡ジムから東京の帝拳ジムに移籍してバックアップ体制が整う。その間のプロセスや中谷の心境は詳しく知らない。それでもカムバックに懸ける意気込みが伝わってくる。ちなみにベルデホ戦は2011年4月ラスベガスで、石田順裕氏(寝屋川石田ジム会長)が同じくキャリアを再構築中だった王者候補ジェームズ・カークランド(米)を初回で倒したミドル級戦を彷彿させた。

 ロペスが10月、難攻不落のワシル・ロマチェンコ(ウクライナ)を下し主要団体のベルトをすべて統一したことで、どうしても中谷との再戦が見たくなる。中谷自身も「ロペスともう一度対戦したい。その気持ちが強かったから(ダウンを喫しても)向かって行けた。ロペスとの再戦が決まれば今日の試合のようにノックアウトを狙っていく」とベルデホ戦後、打ち明けている。

 ベルデホはロペスの有力対戦候補だった。プエルトリコの代表紙「プリメラ・オラ」は試合後、今回イベントを主催したトップランク社はベルデホが勝てばダイレクトにロペスに挑戦する道が開けていたと伝えた。そこに待ったをかけ、スペクタクルな勝利を収めた中谷は一気に挑戦者候補に浮上したと言える。米国ファンの中には「今回の試合を見て、すっかりナカタニのファンになってしまった」という人も多い。ロペスのプロモーター、トップランク社が次回どんな相手を中谷に提示するか興味深い。

ロペスはMSG登場を希望

 こう言ってしまうと次戦でリマッチが組まれる見込みはないように思えるが、ロペスはいきなり1クラス上のスーパーライト級に進出する可能性がある。ライト級に留まるとなれば今のところ名前が挙がっているのはIBFの指名挑戦者ジョージ・カンボソスJr(豪州)。10月、敵地ロンドンで行われた挑戦者決定戦で勝ったギリシャ系豪州人のカンボソスは地元で人気が高く、現地のプロモーターが大スタジアムで開催をオファー。トップランク社のボブ・アラム・プロモーターも好意的な対応を見せている。

統一王者ロペス(左)は次、誰と戦うのか?(写真:ロイター/アフロ)
統一王者ロペス(左)は次、誰と戦うのか?(写真:ロイター/アフロ)

 ただしロペス本人は地元ニューヨークのボクシングの殿堂マジソンスクエアガーデンで来春、統一王座の初防衛戦(IBFは2度目)を実現したいと強く望んでいる。それまでコロナパンデミックがどこまで収束しているか予断を許さないが、ニューヨークはプエルトリコ人ファンが多い。その背景でベルデホが挑戦者候補に挙がっていたと推測される。ベルデホを倒した中谷は再びロペスの対立コーナーに立つチャンスが広がっていると考えていいのではないか。

コミーとの強打者対決もオプション

 だがトップランク社は中谷にもう一戦テストを課すと予測される。それもかなり手強い相手と。私はロペスにベルトを奪われた前IBFライト級王者リチャード・コミー(ガーナ)あたりが抜擢されると思っている。

 米国リング誌のホームページ、ringtv.comでもダグ・フィッシャー編集長が毎週恒例のファンとのメールのやり取り「DOUGIE’S MONDAY MAILBAG」の中で中谷vsコミーを取り上げている。フィッシャー氏は「ナカタニがコミーをストップしても私は驚かないだろう。もしかしたら試合は噛み合わない凡戦になるかもしれない。同時に2人ともアグレッシブでマサヨシは右に強打を秘めているから見応えがあるものになるかもしれない」と記す。

IBFライト級王者時代のコミー。右はアラム氏(写真:Kasapa Sports)
IBFライト級王者時代のコミー。右はアラム氏(写真:Kasapa Sports)

ロマチェンコら大物の名前も

 同じファンとの意見交換で同氏は10月末、スーパーフェザー級王者だったレオ・サンタクルス(メキシコ=米)を左アッパー一撃で轟沈してWBAライト級レギュラー王座を守ったジャーボンタ・デイビス(米)にも言及。「中谷の身長6フィート(183センチ)とリーチは5フィート5.5インチ(166センチ)のデイビスに苦戦を強いると思う」と記載。またインスタグラムで女性ファンに人気爆発のライアン・ガルシア(米=1月2日ルーク・キャンベルとWBCライト級暫定王座決定戦に出場)と中谷が対決する可能性がありとも言う。その場合「中谷の耐久力とスタミナ、アグレッシブさにガルシアは終盤の10から12ラウンドにネを上げるかもしれない」とファンに回答している。

 デイビスとガルシアはトップランク社とライバルのプロモーションの選手で、そう簡単に試合が締結するとは思えない。しかし強敵ベルデホに大逆転勝ちを演じた中谷はスター選手がしのぎを削るライト級で今、どの相手との組み合わせでも魅力的なカードが出来上がる――とフィッシャー編集長は主張。上記以外の選手では何と再起を目指すロマチェンコ、WBCレギュラー王者デビン・ヘイニー(米=ロペスはWBCフランチャイズ王者)、スーパーフェザー級で2階級制覇を狙う前WBOフェザー級王者シャクール・スティーブンソン(米)と多士済済のメンバーが並ぶ。ますます次回のリングが楽しみだ。

名物記者も試合に感動

 視界が一気に開けた中谷だが、好事魔多し。ベルデホ戦で右目を眼窩骨折した。来年の復帰は遅れる見込みで、しばらくトレーニングもままならないだろう。その間にロペスは防衛戦を1試合行うはず。ロペスがすぐスーパーライト級に転向しなければ、その次あたりが中谷の出番か。他方でひとまず米国リングにこだわらないのなら、日本、OPBF、WBOアジアパシフィック・ライト級3冠王の吉野修一郎(三迫)との日本人対決もクローズアップされるかもしれない。

 いずれにせよ、ベルデホを逆転KOしたインパクトは絶大だった。それは”モンスター”井上尚弥のラスベガス・デビュー以上だったと言っても過言ではあるまい。米国の著名ボクシングライターの一人でリング誌や自身のポッドキャスト番組で活躍するマイケル・モンテロ記者は中谷のパフォーマンスに感動。Michael “Nakatani” Monteroとツイッターで名乗り始めた。同記者はBWAA(アメリカ・ボクシング記者協会)のメンバーで国際ボクシング名誉の殿堂(IBHOP)の投票者でもある。モンテロ氏独特のユーモアにしても誇るべきことではないだろうか。

”ナカタニ”モンテロ氏のツイッターから
”ナカタニ”モンテロ氏のツイッターから

ボクシング・ビート米国通信員

岩手県奥州市出身。近所にアマチュアの名将、佐々木達彦氏が住んでいたためボクシングの魅力と凄さにハマる。上京後、学生時代から外国人の草サッカーチーム「スペインクラブ」でプレー。81年メキシコへ渡り現地レポートをボクシング・ビートの前身ワールドボクシングへ寄稿。90年代に入り拠点を米国カリフォルニアへ移し、フロイド・メイウェザー、ロイ・ジョーンズなどを取材。メジャーリーグもペドロ・マルティネス、アルバート・プホルスら主にラテン系選手をスポーツ紙向けにインタビュー。好物はカツ丼。愛読書は佐伯泰英氏の現代もの。

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