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「井上尚弥に勝つチャンスはある」挑戦者マロニーの練習相手が番狂わせの可能性を示唆

三浦勝夫ボクシング・ビート米国通信員
ノニト・ドネアと激闘を繰り広げた井上尚弥(写真:YUTAKA/アフロスポーツ)

決戦まであと10日

 ハロウィンの夜にモンスターが襲来――。米国のボクシングファンはそんな思いを抱いて井上の登場を心待ちにしている。

 31日ラスベガスのMGMグランド・カンファレンスセンターでゴングが鳴るWBAスーパー・IBF世界バンタム級統一チャンピオン井上尚弥(大橋)vs挑戦者ジェイソン・マロニー(豪州)のタイトルマッチまで10日を切った。スポーツ・ブックメーカーの「Bovada」によると現時点のオッズはアメリカ式の表記で井上が-950、マロニーが+575。およそ8-1で井上有利といったところだろうか。

 マロニーは今月2日にチームとラスベガスに到着。井上も18日に現地入りし、最終調整を行っている。WBSS(ワールド・ボクシング・スーパー・シリーズ)で披露した井上の圧倒的な強さから、この米国リング第2戦(初戦は2017年9月カリフォルニアで行われたアントニオ・ニエベス戦)もスペクタクルなフィナーレが期待される。対するマロニーはすでに6月、同センターでコロナパンデミック状況下での試合を経験しており、「世界にショックを起こす」とアップセットを誓う。

出入りの動きが井上にそっくり

 私はマロニーのトニー・トリュ・マネジャーにコンタクトし、メイン・スパーリングパートナーを務めるチリ人、アンドレス・カンポスに電話でインタビューした。カンポスはWBOラティーノ・フライ級王者で、現在WBO同級10位を占める。

――ジェイソンと双子のアンドリュー・マロニーをサポートするためチームに加入したのはいつですか?

カンポス「去年(2019年)からです。オーストラリアに3ヵ月滞在し試合もしました。今回もオーストラリアへ行って彼らと合流し、こちら(ラスベガス)へ来ました」

――これまでジェイソンとは両国で合わせて何ラウンドぐらいスパーリングを行いましたか?

カンポス「さあ、わかりません。数えていないので。とにかくたくさん行っています。6月のバエス戦(レオナルド・バエス=メキシコ戦。マロニーの7回終了TKO勝ち)の時もサポートしました」

――あなたはフライ級の選手でジェイソンはバンタム級。体格面でスパーリングはきつくないですか?

カンポス「いやそうでもありません。普段、私は試合がない時はスーパーバンタム級ぐらいの体重なので試合を控えたジェイソンとはちょうどいいくらいですよ」

――それでもジェイソンの圧力を感じませんか?

カンポス「シー(イエス)。彼は体力を前面に出して戦うタイプなので相当なものを感じます。それに手数も多いですし…」

――ジェイソンは私に、あなたがメイン・パートナーを務める理由を「スタイルが井上に似ているからだ」と言いました。それは当たっていますか?

カンポス「確かにそうだと思います。イン&アウトの出入りの動き、スピードがイノウエに似ていると彼は言っています。私もそれを意識しながら対応しています」

カンポスをはさんでジェイソン、アンドリューのマロニー兄弟(写真:boxing scene.com)
カンポスをはさんでジェイソン、アンドリューのマロニー兄弟(写真:boxing scene.com)

イノウエはスーパーマン

 ここでカンポスのプロフィールを紹介しよう。1996年9月15日チリの首都サンティアゴ生まれの24歳。2018年8月にプロデビューし6戦目でチリ・フライ級王座獲得。8戦目でWBA傘下のフェデボル同級王座を獲得し、今年3月の最新試合で同王座を防衛するとともに空位だったWBOラティーノ・フライ級王者に就いた。トリュ・マネジャーが主宰する「ドラゴンファイヤー・ボクシング」所属。戦績は9勝2KO無敗。いまだに男子の世界チャンピオンが誕生していないチリで大きな期待を背負っている。

 ただ戦績どおり、破壊的なパンチャーの井上とは対照的なテクニシャンタイプに映る。カンポス自身はその辺をどう思っているのだろうか?

――率直に言って、あなたのスタイルは100パーセント井上にマッチしているとは思えませんが……。

カンポス「それは私自身では回答できません。周りが評価することですから。ただ今回は私のほかに4人ほどパートナーがヘルプしていますから、彼らが補っているとも言えるはずです」

――今月末、ジェイソンが井上に勝つチャンスはどのくらいあるでしょう?

カンポス「イノウエは強くてパワーもスピードも並大抵ではないスーパーマンみたいなチャンピオンですが、ジェイソンはスーパーマンを阻止するために周到な準備を用意しています。はっきりどれほどとは断言できませんが、チャンスはかなりあると信じています」

カギはフルラウンドにわたるプレッシャー

――ジェイソンが勝利を収めるカギは何だと思いますか?

カンポス「頭脳と体を連動させて戦うことだと思います。そして彼に味方するのはコーナー(セコンド)が非常に優秀なことが挙げられます」

――試合展開を予想できますか?

カンポス「ジェイソンが勝つためには1ランドから12ラウンドまでプレスをかけ続けることが肝心で基本になると思います。イノウエは超難関ですが、前回のドネア戦で難しい局面にぶち当たった。あの一戦が攻略のヒントになりそうな気がします」

――あなた自身は試合後アメリカに留まりますか。それともチリへ帰国しますか?

カンポス「チリに帰ります。別にホームシックではないのですが、随分長くマロニー・チームと仕事をしたので」

――母国では初の世界王者の期待が大きいですね。

カンポス「ええ。まずはステップ・バイ・ステップで行こうと。インターナショナルな試合をもっと積んでランキングを上がりたい。世界に挑戦できるまで時間がかかっても実力を磨くことに専念したいです」

 マロニー同様、ナイスガイのカンポス。もしハロウィンの夜にショッキングな結果が待っていれば、大貢献者として称賛されることだろう。

ラスベガスでマロニー兄弟らとトレーニングに励むカンポス(左端)
ラスベガスでマロニー兄弟らとトレーニングに励むカンポス(左端)
ボクシング・ビート米国通信員

岩手県奥州市出身。近所にアマチュアの名将、佐々木達彦氏が住んでいたためボクシングの魅力と凄さにハマる。上京後、学生時代から外国人の草サッカーチーム「スペインクラブ」でプレー。81年メキシコへ渡り現地レポートをボクシング・ビートの前身ワールドボクシングへ寄稿。90年代に入り拠点を米国カリフォルニアへ移し、フロイド・メイウェザー、ロイ・ジョーンズなどを取材。メジャーリーグもペドロ・マルティネス、アルバート・プホルスら主にラテン系選手をスポーツ紙向けにインタビュー。好物はカツ丼。愛読書は佐伯泰英氏の現代もの。

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