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ロマチェンコは「疑惑の判定」で王座陥落?元王者や現地識者はロペス戦をどう見た?

三浦勝夫ボクシング・ビート米国通信員
右アッパーを決めるロペス(写真:Mikey Williams/Top Rank)

ロペスは史上5人目の4冠王

 10月17日(現地時間)ラスベガスで行われた注目のライト級統一戦はIBF王者テオフィモ・ロペス(米)がWBAスーパー・WBCフランチャイズ・WBO王者ワシル・ロマチェンコ(ウクライナ)に12回3-0判定勝ち。現状の4団体が王者を認定して以来5人目の4冠統一チャンピオンに君臨した。そして23歳のロペスは最年少で4冠を手にした男となった。

 試合は初回から7回までほぼ一方的にロペスがリードしたように思えた。「思えた」と言うのはあくまでも私見だからで、私は第2ラウンドをロマチェンコ優勢とみた。そして8回から11回までロマチェンコが挽回を図ったが、最終12回はロペスが打ち勝った印象。私のスコアは115-113でロペスの勝利。知り合いの米国記者も同じスコアで、彼は第4ラウンドをロマチェンコ優勢につけている。

 一方で日本では「疑惑の判定」という意見も出るほど公式スコアカードに対する反論、反響が大きいと聞く。アメリカでも試合結果を載せただけで今現在654件のコメントが寄せられているボクシングサイトもあり、ファンの間で関心が高いことを物語る。その公式スコアは116-112、119-109、117-111でロペスを支持。とりわけ2番目の数字が議論を呼んでいるのは米国でも同じである。

自滅したロマチェンコ

 識者の間では、これまでボクシング・ニュース、ボクシング・マンスリーといった専門誌の記者と編集長を務めた殿堂入りライターのグラハム・ヒューストン氏が「ジャッジのスコアよりも競っていた。でもテオフィモが勝利に値した。彼は前半から中盤まで流れを支配し12ラウンドを強く締めくくった」とツイート。率直に言って私もこの意見に同意したい。

 またオリンピックに連続出場しロンドン大会では銅メダル獲得。現在プロでフェザー級世界王座に接近中のマイケル・コンラン(英)は「ロマは勝利に十分な働きをしたかもしれないけど、今夜はテオフィモが輝いていた。統一チャンピオンに値するパフォーマンスを披露した」と同じトップランク社傘下のロペスを祝福した。

 大御所では前回の予想記事でも紹介した殿堂入りトレーナーで名物コメンテーターのテディ・アトラス氏が「前半はロペスが獲った。ロマは魚を探すように流し釣りをしているようだった」と皮肉なコメント。そしてESPN・ドットコムのメインライターから現在フリーで活躍するダン・ラファエル記者は「ロマはスロースターターで有名だけど今回はちょっと度が過ぎた」と指摘。2人ともロマチェンコが自滅したと言いたげだ。

マルケスは116-112でロマチェンコ

 一方スペイン語メディアではESPNデポルテスがマニー・パッキアオとの激闘がハイライトの元3階級制覇王者フアン・マヌエル・マルケス(メキシコ)にインタビュー。同局で週一回自身の番組を持っているマルケスは迷わずロマチェンコの勝利を主張した。

 「ロマチェンコには関して言うべきことがたくさんあると思う。試合は前半、テオフィモが仕掛ける展開で進んだ。それがあとに響いた。ロマチェンコは後半、挽回に努めたけど及ばなかった。同時にスコアカードは極端な差がついた。ジャッジたちは試合をちゃんと見ていなかったようだね。私のスコアは116-112でロマチェンコの勝ち。でも彼は前半、慎重になり過ぎた」

後半スパートしたロマチェンコだったが及ばず(写真:Mikey Williams / Top Rank)
後半スパートしたロマチェンコだったが及ばず(写真:Mikey Williams / Top Rank)

 質問者が「えっ、ロマチェンコが勝ったと見て、ロペスが負けたと。なぜ?」と聞き返す。マルケスは「その通り。なぜなら後半ロマチェンコはスピード、連打、パワーパンチと持ち味を発揮したから。他方でテオフィモは性格の“地”を出した印象がした。リードを意識して自分から攻め込まなかった。それが試合の非常に重要な局面だった。10点差、6点差をつけたジャッジはロマチェンコに対してあまりにも失礼だった」と毅然と発言。明らかにムッとした表情を見せた。

10点差もあり得る?

 119-109でロペスの勝利と記したジュリー・レダーマン氏は、ボクシング中継のアイコン的存在だった有料チャンネルHBОの名物スコアラー、ハロルド・レダーマン氏の娘。これまで何度もビッグマッチのジャッジを担当している。経験は申し分ないはずだが、どう見てもこれは差が開き過ぎている。ロペスと同じニューヨークが地元だから…とは勘繰りたくないが。

 それでもメディアによってはレダーマン氏のスコアは女性らしい冷徹な目とも評価されている。彼女がロマチェンコにポイントを与えた唯一のラウンドは11回。ウクライナ人が反撃を開始した8回ではない。8回は、どうロペスにひいき目に見てもロマチェンコの優位は明らかでロペスは左目が腫れ出した。採点基準で重要視されるパンチの的確さ、アグレッシブさともロマチェンコに軍配が上がるだろう。

ロマチェンコの計算ミス

 続く9回攻勢を持続したロマチェンコは10、11回とスタミナを消耗気味のロペスにチャージ。逆転TKO勝ちの予感も漂った。しかしここで踏みとどまったロペスの気力も称賛される。もしかしたらロペスは最終回に備えて力を温存していたのかもしれない。

 ロサンゼルスの著名トレーナーで日本人選手のコーチ役で有名なルディ・エルナンデス氏はロマチェンコをオスカー・デラホーヤにたとえ、ロペスをフェリックス・トリニダードになぞらえ計算ミスがあったと指摘。もっとも、1999年に行われたデラホーヤvsトリニダードは逃げ切りを図ったデラホーヤが失敗したもので、今回のケースとは逆である。

 ボクシングファンを代表してフィラデルフィアの投資レポーター、アーロン・マーティン氏は「グレート・ファイト。私はロペスの小差の判定勝ち。でもどちらに転んでもおかしくない試合に見えた」とツイートしている。これはこちらの総意ではないにしても、代表的な意見として受け取られる。

 判定結果に対して、こうした様々な意見が出るのはボクシングの宿命と言える。

一気に比類なき王者に就いた23歳ロペス(写真:Mikey Williams)
一気に比類なき王者に就いた23歳ロペス(写真:Mikey Williams)
ボクシング・ビート米国通信員

岩手県奥州市出身。近所にアマチュアの名将、佐々木達彦氏が住んでいたためボクシングの魅力と凄さにハマる。上京後、学生時代から外国人の草サッカーチーム「スペインクラブ」でプレー。81年メキシコへ渡り現地レポートをボクシング・ビートの前身ワールドボクシングへ寄稿。90年代に入り拠点を米国カリフォルニアへ移し、フロイド・メイウェザー、ロイ・ジョーンズなどを取材。メジャーリーグもペドロ・マルティネス、アルバート・プホルスら主にラテン系選手をスポーツ紙向けにインタビュー。好物はカツ丼。愛読書は佐伯泰英氏の現代もの。

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