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カネロ、お前もか!? メキシコのスターボクサーがUFC選手との「茶番試合」に興味示す

三浦勝夫ボクシング・ビート米国通信員
コバレフ(右)との大一番に臨むカネロ(写真:Tom Hogan/GBP)

相手の名はタイロン・ウッドリー

 WBO世界ライトヘビー級王者セルゲイ・コバレフ(ロシア)に挑戦するミドル級統一王者サウル“カネロ”アルバレス(メキシコ)が総合格闘技UFC(アルティメット・ファイティング・チャンピオンシップ)の著名選手とのボクシングマッチに関心を示した。ラスベガスのMGMグランドガーデン・アリーナで11月2日コバレフに挑むカネロは2階級越えで4階級制覇をねらう重要な一戦。とても異種マッチに臨む余裕はないと思われるが「もしマネーが折り合えば」、「ビジネス・レベルで満足できれば」とメキシコ人は実現の可能性があることを明かした。

 カネロの相手にクローズアップされているのは元UFCウェルター級王者タイロン・ウッドリー(米)。今年3月ラスベガスで開催されたUFC235という大会でカマル・ウスマン(ナイジェリア)に敗れて王座を失っている。ウィキペディアによると売り物は「重量級の威力と軽量級顔負けのパンチのスピードを誇る」とある。だがベースはレスリングにあるようだ。

カネロと対戦を希望するウッドリー(写真:ESPN)
カネロと対戦を希望するウッドリー(写真:ESPN)

メイウェザーの足取りを継承する?

 ボクシングとUFCのトップ選手がボクシングルールで対戦したのは2年前、フロイド・メイウェザー(米)vsコナー・マクレガー(アイルランド)が前例に挙げられる。結果はボクシングデビュー戦のマクレガーをメイウェザーが10回TKOで下した。

 「茶番だ」とボクシングファンや関係者から嘲笑の的になったが、金満ファイトと呼ばれた15年のメイウェザーvsマニー・パッキアオに迫る歴代2位の興行成績をマーク。プロボクシングをエンターテインメントの一環と位置づければ大成功したイベントだった。何しろメイウェザーの収入が約320億円。敗れたマクレガーも約109億円も稼いだといわれる。

 カネロの発言から、メイウェザーvsマクレガーを大いに意識していることは間違いないだろう。UFCのトップ選手の間でも「たとえルールで不利を強いられてもボクシングのスーパースターとの試合は魅力的だ」という認識が浸透している。今回、オファー(とまでは言えないかもしれないが)を出したのはウッドリーの方だ。

もはや芸能人

 ではウッドリーの誘いにカネロが乗るかというと今のところ、何とも言えない。

 否定的な見解ではカネロはメイウェザーではないということだ。メイウェザーは複数階級を制覇する段階でボクシングのテリトリーを乗り越えるエンターテイナーへと昇華した。それが驚異的なパッキアオ戦の人気爆発の導火線となり、格闘技ファンを引き込みマクレガー戦で人気再発につながった。

 メイウェザーの人気は彼の支持者はもちろん、アンチ・ファンによるものが無視できない。むしろパッキアオ戦、マクレガー戦で常軌を逸するPPV(ペイ・パー・ビュー)購買件数を記録したのは「彼が負けるところが見たい」というアンチ・ファンが貢献したとみる。それに比べるとカネロはまだボクサー然としており、逆風は少なく、メキシコ人とメキシコ系ファンによって支えられている。

 それでも今回の異色マッチを伝えた米国のスペイン語テレビ局「ウニビシオン」で、カネロは日本でいうワイドショー的な番組でゴシップネタのターゲットになっている。ラテン系の芸能人と同じ扱い。だからどこまで真剣に受け止めていいか迷うところがあるが、そろそろカネロもメイウェザーの領域に近づいてきた印象もしてくる。

 ただ40歳を前にしたメイウェザーがマクレガーを選択したのは「引退前の一稼ぎ」という思惑があった。一稼ぎでなく大もうけだったことがメイウェザーのメイウェザーたるところなのだが、カネロ(29歳)はまだ現役バリバリ。ビッグマネーだけを追求してファンの支持を失ったり、ボクシング業界に汚名を残す心配がある。安易な決断は下さないと推測される。

階級越えで存在をアピ―ルするカネロ。仰天のマッチメークはあるのか?(写真:Tom Hogan/GBP)
階級越えで存在をアピ―ルするカネロ。仰天のマッチメークはあるのか?(写真:Tom Hogan/GBP)

ビジネスを優先するカネロ

 買い手側のカネロはメイウェザー同様、相手の土俵(UFCルール)で戦うつもりは全くない。だがスポーツ・ストリーミング配信DAZNと11試合の大型契約を交わしたカネロは最近、「ビジネスが成立すれば」と口にする。それは相手が強豪ボクサーに限らないことを意味する。今回のコバレフは体格のハンディからキャリア最強の相手になるかもしれないが、いきなり2階級越えというマッチメークは奇抜で、彼の強調する「ビジネス最優先」に通じるものだ。

 ボクシングの王道を突き詰めるなら、ウッドリー戦は雲消霧散するだろう。カネロにはゲンナジー・ゴロフキンとの第3戦などミドル級周辺で魅惑のカードはいくらでもある。コバレフに勝ってライトヘビー級に腰を据えるにしてもファンの心を躍らせるスリリングな相手には事欠かない。またウッドリーはマクレガーほどの知名度やカリスマ性に乏しいことも指摘される。

 だが今後カネロがボクサーの長者番付トップの防衛に専念するなら、仰天のマッチメークがあっても不思議ではない。今からボクシングファンは心の準備をしておいてもいいと思う。

ボクシング・ビート米国通信員

岩手県奥州市出身。近所にアマチュアの名将、佐々木達彦氏が住んでいたためボクシングの魅力と凄さにハマる。上京後、学生時代から外国人の草サッカーチーム「スペインクラブ」でプレー。81年メキシコへ渡り現地レポートをボクシング・ビートの前身ワールドボクシングへ寄稿。90年代に入り拠点を米国カリフォルニアへ移し、フロイド・メイウェザー、ロイ・ジョーンズなどを取材。メジャーリーグもペドロ・マルティネス、アルバート・プホルスら主にラテン系選手をスポーツ紙向けにインタビュー。好物はカツ丼。愛読書は佐伯泰英氏の現代もの。

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