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村田諒太、次は前哨戦。王座に復帰したゴロフキンの最有力対戦候補に浮上

三浦勝夫ボクシング・ビート米国通信員
激戦の末、再びベルトを獲得したゴロフキン(Photo:USA Today)

苦戦を強いられた前帝王ゴロフキン

 いよいよ東京ドーム決戦が現実味を帯びてきた。

 ニューヨークのマジソンスクエアガーデンで先週土曜日5日行われたIBF世界ミドル級王座決定戦は、以前もこの王座を保持した前統一王者“GGG”ことゲンナジー・ゴロフキン(カザフスタン)が激戦の末、ランキング1位セルゲイ・デレフヤンチェンコ(ウクライナ)を3-0判定で下した。昨年9月、現ミドル級統一王者サウル“カネロ”アルバレス(メキシコ)との再戦で敗れて以来13ヶ月ぶりにベルトが戻ってきた。

 試合は初回にダウンを奪い、2回にも有効打でデレフヤンチェンコの右マブタを深くカットさせたゴロフキンが好スタートを切った。しかし顔面を血で染めながらデレフヤンチェンコがしぶとく反撃。ゴロフキンは弱点のボディーを攻められ一瞬動きが止まるなど苦戦。中盤も前ミドル級の帝王は押され気味となり、4ヵ月前、同アリーナで起こったアンディ・ルイスJr-アンソニー・ジョシュアの世界ヘビー級タイトルマッチの大番狂わせが再現するのではという雰囲気さえ漂った。

 ゴロフキンの不調の原因はトム・ローファー・プロモーターによると「試合時には治っていたものの、インフルエンザにかかっていた」という理由が一つ。同プロモーターは「GGGが試合前インフルエンザに感染したのはUSA2戦目のガブリエル・ロサド戦(13年1月。ゴロフキンの7回TKO勝ち)以来の出来事。もちろんエクスキューズはできない。結果的にものすごいファイトになったし……」と振り返っている。

 それよりもデレフヤンチェンコの鬼気迫る頑張りが特筆される。ウクライナ人は試合中、傷を3度ドクターにチェックされ、TKO負け寸前の状況に陥りながらノンストップ・アタックを敢行。右目の視界が塞がり、左目も大きく腫れ上がったが最後まで抵抗を止めなかった。終盤盛り返したゴロフキンが114-113、115-112が2者の判定勝ちを得たが、デレフヤンチェンコの勝利と見たメディアや関係者が多かった。

 戦前の下馬評で有利を予想されながらサバイバルする結果になったゴロフキン。試合後ファンが待望するカネロとの第3戦を含めて「私は誰に対してもドアを開いている」と強調したが、今回の善戦で一躍クローズアップされるデレフヤンチェンコとの再戦には応じない公算が強い。コンピュータ集計によるとパンチの被弾は過去最高の230発。デレフヤンチェンコほどではなかったが、彼の顔面も相当ダメージを受けていた。リマッチが締結されれば、おそらく不利の予想が立つだろう。

デレフヤンチェンコ(写真左)の抵抗でキャリア最高のパンチを浴びたゴロフキン(Photo:BoxingScene.com)
デレフヤンチェンコ(写真左)の抵抗でキャリア最高のパンチを浴びたゴロフキン(Photo:BoxingScene.com)

真っ先に出たMurata

 第一次王者時代に17連続KOを含む20連続防衛の偉業を達成したゴロフキンはそれでも、2度目の王座に復帰した。獲得したベルトは主要4メジャー団体のうち一つだけ(リングでベルトが2本贈呈されたのはマイナーのIBO王座も争われたため)。しかしストリーミング配信サービスDAZNと交わした6試合の契約はまだ4試合残っている。37歳という年齢が取りざたされるが、まだまだリングで暴れて稼ぎたい願望、ビジョンを捨てきれない。

 デレフヤンチェンコ戦後ローファー氏から真っ先に発せられた次回対戦候補者の名前は「Murata」だった。

 「日本で村田諒太とのファイトが実現する可能性が高い。ものすごく大きなインターナショナルなイベントになる。日本の国民的ヒーローとのタイトル統一戦となる」

 東京ドームに6万人強。ついに日本のファンの夢が現実に近づく。GGGvs五輪金メダリストから世界王者に就いた男。日本人絡みのイベントでは最大のものとなるのではないだろうか。

 この時ローファー氏が続けて明かした対戦候補はWBC王者のジャマール・チャーロ(米)。そして4団体のうちWBOを除く3団体で上位を占めるカミル・シェルメンタ(ポーランド)。後者のケースは村田の日本開催同様、ローファー氏はポーランドから挙行のオファーが届いていると言っている。また同氏の口からWBO王者デメトゥリアス・アンドラーデ(米)の名前もあがった。DAZNと契約するアンドラーデを本命視するメディアもある。

すべてはDAZNの決断次第

 一方でスーパースター、カネロとの第3戦はメキシカンが対戦に消極的なため今のところ実現の見通しが立っていない。この件についてローファー氏は「カネロとのファイトはDAZNがカネロにプレッシャーをかけた時、実現に向かうと私は見ている」と発言。DAZNがメキシカンを動かさない限り締結は難しいと見ている。

ローファー氏(写真左)とゴロフキン。果たして次は誰を選ぶか?(Photo:Las Vegas Review-Journal)
ローファー氏(写真左)とゴロフキン。果たして次は誰を選ぶか?(Photo:Las Vegas Review-Journal)

 ちなみにローファー氏のポジションだが、以前はビタリ、ウラジミールのクリチコ兄弟のプロモーション会社「K2プロモーションズ」の米国支部長という触れ込みだった。だがゴロフキン自身がネットメディアに明かしたところでは「プロモーター・ライセンスをK2で取得しているが、クリチコ兄弟との関係は全くない」とのこと。ローマン・ゴンサレスや井岡一翔が出場した「SUPERFLY」シリーズを主催して業界に進出。昨年から自身のプロモーション「360プロモーションズ」を船出してハリウッドで試合を開催している。以前ゴロフキンを電話インタビューした時、仲介してもらったが、海千山千のボクシング業界で生きる人というよりも有能なビジネスマンといった印象。年齢は50代半ばといったところか。

可能性はゼロだとしても

 著名メディア、ESPNドットコムのメインライター、ダン・ラファエル記者はカネロvsゴロフキン3が実現する可能性は30%、次試合でゴロフキンがデレフヤンチェンコとの再戦に応じる見込みも30%と記している。同じくアンドラーデを迎える可能性は40%、別リーグと呼ぶべきPBC(プレミア・ボクシング・チャンピオンズ)傘下のチャーロに至っては次戦で当たる見込みは1%以下だという。

 同時にビリー・ジョー・サンダース、カラム・スミスといった英国のスーパーミドル級チャンピオンに挑戦し2階級制覇を目指すプランもあるゴロフキンだが、同記者は記事でRyota Murataには一言も触れていない。つまり可能性は0%。ローファー氏の発言と明白な相違がある。

 それでもローファー・プロモーターは「ゲンナジーの決断を優先して最後はDAZNが相手を決定する」と明言する。大みそかに防衛戦を予定する村田が無事それをクリアすれば一気にゴロフキンとの対決が話題をさらうのではないか。米国では村田の挑戦者の名前は一部メディアが伝えている。近いうちに正式発表されるはずだ。村田にとってはビッグステージへの第一関門。その先に待ち構えているのが帝王ゴロフキンだ。

ボクシング・ビート米国通信員

岩手県奥州市出身。近所にアマチュアの名将、佐々木達彦氏が住んでいたためボクシングの魅力と凄さにハマる。上京後、学生時代から外国人の草サッカーチーム「スペインクラブ」でプレー。81年メキシコへ渡り現地レポートをボクシング・ビートの前身ワールドボクシングへ寄稿。90年代に入り拠点を米国カリフォルニアへ移し、フロイド・メイウェザー、ロイ・ジョーンズなどを取材。メジャーリーグもペドロ・マルティネス、アルバート・プホルスら主にラテン系選手をスポーツ紙向けにインタビュー。好物はカツ丼。愛読書は佐伯泰英氏の現代もの。

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