Yahoo!ニュース

来春、村田諒太と対決?前ミドル級帝王ゴロフキンが会見で英語を話さなくなった理由とは

三浦勝夫ボクシング・ビート米国通信員
会見で対面したGGGとデレフヤンチェンコ(写真:Amanda Westcott)

GGGは前向きな発言

 1ヵ月前ニューヨークでボクシングのメジャー4団体の一つIBFのミドル級王座決定戦のプレゼンテーションが開催された。主役は前3団体統一王者“GGG”(トリプルG)ゲンナジー・ゴロフキン(カザフスタン)とランキング1位セルゲイ・デレフヤンチェンコ(ウクライナ)。ゴロフキンからWBAとWBC王座の2冠を奪取し5月にダニエル・ジェイコブス(米)からIBF王座を吸収したのがメキシコのスーパースター、サウル“カネロ”アルバレス。カネロがデレフヤンチェンコとの指名試合の交渉に手間取りIBFがはく奪した王座をこの決定戦で争う。試合は10月5日ニューヨークのマジソンスクエアガーデンで行われる。

 プレゼンの席でゴロフキンはデレフヤンチェンコを下して王者に復帰したら、日本へ遠征し同級WBA“レギュラー”王者に君臨する村田諒太(帝拳)と対戦することにやぶさかではないと強調した。GGGvs村田。東京ドームに6万人の観衆。ボクシングファンには垂涎の、夢のカードだ。

 「100パーセント、間違いなく私はこの試合に関して門戸を開いている。ムラタとのファイトに前向きだ。(実現したら)ものすごく重要な試合になる。グレートファイトを約束します」(ゴロフキン)

温度差がある米国の報道

 この記事は著名ボクシングサイト、ボクシングシーン・ドットコムに載ったもの。だが他のメディアで取り上げるところは少なかった。米国と日本では村田に関する報道に温度差がある。日本ではロブ・ブラント(米)に痛快なリベンジを果たしてベルトを奪回した村田は大フィーバーを巻き起こした。しかし米国の扱いは冷めている。ブラントとの初戦で完敗した村田は、まだそのイメージを引きずっている。そしてタイトルホルダーながらWBAは“スーパー”王者にカネロが君臨し村田は二番手チャンピオンと認識されるためだ。ファンやメディアの反応は日本が熱帯なら米国は寒冷地と言えるか。

 今のところボクシングシーンの記事以外で村田がゴロフキンの相手に抜擢される可能性があると伝えるメディアは見当たらない。とはいえゴロフキンは出まかせを言ったり、ハッタリをかますタイプではないだけに彼の言葉を信用したくなる。スポーツ動画配信DAZNと交わした6試合の大型契約の一つで村田戦が実現すると信じたい。

トップ2を王座から転落させた男

 ゴロフキンにとって第一関門が今回のデレフヤンチェンコとの王座決定戦だ。アマチュア時代、北京五輪代表の実績があるデレフヤンチェンコはプロでこれまで13勝10KO1敗。唯一の黒星は昨年10月、ジェイコブスとIBF王座を争い2-1判定負けしたもの。カネロ同様、ゴロフキンもデレフヤンチェンコとの防衛戦を締結しなかったためIBF王座をはく奪された過去がある。それがジェイコブスvsデレフヤンチェンコによる決定戦が組まれた原因である。

 実際にグローブを交えていないものの、ゴロフキンとカネロのミドル級トップ2を王座から引きずり下ろしたデレフヤンチェンコは強者なのか、それとも?

 33歳のウクライナ人はゴロフキンより4歳年少。2度目のタイトル戦のチャンスは4月、元WBAスーパーウェルター級王者ジャック・クルカイ(ドイツ)に判定勝ちしてゲットした。またミドル級ランキングに復帰した実力者トレアノ・ジョンソン(バハマ)や一度IBFミドル級王者に認定されたサム・ソリマン(豪州)を倒した試合も特筆される。ニューヨーク・ブルックリンに居住しキャリアを進める。

 ニックネームが“ザ・テクニシャン”であるようにスキルに秀でた選手であると同時に、その面構えや体格から連想されるようにパンチャーとしての才能も兼備している。だがパワー勝負となれば真価を発揮するのはゴロフキンだろう。デレフヤンチェンコはアウトボクシングに活路を求めたいところだが、どこまで押し通せるかわからない。途中から相手のボディーに的を絞ったゴロフキンが徐々にデレフヤンチェンコを弱らせ終盤ストップに持ち込むか明白な判定勝ちを収めるのではないだろうか。

元ヘビー級ランカー、ジョナサン・バンクス(右)をトレーナーに迎え2戦目となるゴロフキン(写真:DAZN)
元ヘビー級ランカー、ジョナサン・バンクス(右)をトレーナーに迎え2戦目となるゴロフキン(写真:DAZN)

いい子のイメージを捨てる

 ところで最近のゴロフキンで、リングパフォーマンスと別に気になることがある。会見やインタビューで英語で対応しなくなったことだ。通訳が隣に座り、カザフ語かロシア語で応答する。英語を封印するのはどうしてだろう。

 ゴロフキンはカザフ語、ロシア語のネイティブスピーカーで英語とドイツ語も話す。だがゴロフキンの話す英語は以前から米国では賛否両論があった。彼の英語はとても親しみやすく好感が持てるという意見と語彙や表現力に乏しく聞くに堪えられないという人もいるのだ。

 例えばライバルのカネロ・アルバレスは英語をしゃべらずスペイン語で押し通す。米国ではそれが専属通訳によって訳されるが、本音や重要な事柄は十分に引き出せる。しかしゴロフキンは英語オンリーのインタビューではどこまでシリアスに応じているのか計りかねる――とツッコむメディアもある。それが本人に通じて通訳をはさむ状況になったと推測される。

 同時に彼は以前英語のインタビューで形成された「フレンドリーなナイスガイ」というイメージを払拭したかった様子がうかがえる。また一部のファンが書き込んだ「あえて英語を話したのは人気拡大の戦略的なものかもしれない。でも幼稚園児みたいだ」といった悪評を克服する目的があったのかもしれない。

アメリカナイズしたくない!

 米国ではリングでいくら強くてもリング外でショーマンシップを発揮したりメディアにキャッチ―な発言をしないと人気が爆発しない傾向がある。メディアはそれを求めている。「本音を聞きたい」という彼らの要求に応えたのが今回の行動(言動?)だったとみる。

 興味深いのはreddit.comというスポーツサイトでロシア語と英語のバイリンガル記者が行ったインタビュー。GGGの胸の内が聞かれる。

 彼はそこで「私は元来、内気な人間でペラペラしゃべるのは好きでない。同時に人々の間で広まったイメージとは異なる人間。人々が創造した偽りの仮面をかぶっているかのようだ。終始スマイルを浮かべる楽天的な男ではないよ」と答えている。また「英語の学習は継続しないのか?」という質問には「私は理解できる知識を持っている。仕事が完了できる程度には向上している」とアピールする。

 そして「アメリカ人になるプランは私にはない。何とかこの国で生活できればいいんだ。私はバランスを保ちたい。アメリカナイズするのは嫌いなんだ」と打ち明ける。最後の言葉に旧ソビエト連邦あるいはロシア圏のプライドを感じると言ったら間違っているだろうか。いずれにせよ、このあたりが英語でのインタビューを拒む一因なのかもしれない。

プレゼンでスピーチするゴロフキン。通訳(左から2人目)が英語に訳す(写真:DAZN)
プレゼンでスピーチするゴロフキン。通訳(左から2人目)が英語に訳す(写真:DAZN)

ドーム決戦へのシナリオ

 さて首尾よく10月5日IBF王者に就けばゴロフキンはカネロとの第3戦が再びクローズアップされるだろう。だがカネロは4階級制覇を目指してWBOライトヘビー級王者セルゲイ・コバレフ(ロシア)に挑戦する(11月2日ラスベガス)。その結果にも左右されるがカネロの動向は不透明だ。

 DAZNの推進役エディ・ハーン・プロモーターはゴロフキンへ次なる刺客としてWBOミドル級王者デメトゥリアス・アンドラーデ(米)、1階級上のWBAスーパーミドル級“スーパー”王者カリム・スミス(英)らを推薦する。だがスタイル的に噛み合わないアンドラーデ、体格でハンディを強いられるスミス相手にゴロフキンがすんなり試合を承諾する見込みは少ない。

 そこでクローズアップされそうなのが村田。冒頭に触れた会見でゴロフキンが発した言葉はロシア語とカザフ語。本心を語ったと理解したい。王座に舞い戻った村田の防衛戦はおそらく年末のイベント。それを無事クリアすれば東京ドーム決戦が一段と話題を集めそうな気がする。80-90年代のタイソン戦の興奮がまたよみがえる!

ボクシング・ビート米国通信員

岩手県奥州市出身。近所にアマチュアの名将、佐々木達彦氏が住んでいたためボクシングの魅力と凄さにハマる。上京後、学生時代から外国人の草サッカーチーム「スペインクラブ」でプレー。81年メキシコへ渡り現地レポートをボクシング・ビートの前身ワールドボクシングへ寄稿。90年代に入り拠点を米国カリフォルニアへ移し、フロイド・メイウェザー、ロイ・ジョーンズなどを取材。メジャーリーグもペドロ・マルティネス、アルバート・プホルスら主にラテン系選手をスポーツ紙向けにインタビュー。好物はカツ丼。愛読書は佐伯泰英氏の現代もの。

三浦勝夫の最近の記事