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村田諒太に本場から熱いラブコール。カネロ9月登場なし。ミドル級が動く

三浦勝夫ボクシング・ビート米国通信員
怒涛のアタックで見事ブラントをストップした村田(Photo:ESPN)

村田の集中力に敬服

 前回の記事「ブラントを熟知する米国マネジャーが明かす村田諒太の必勝対策。それでも攻略は難しい?」で村田の苦戦を予想した。その中で「ロブ・ブラントがリマッチでも初戦と同じように戦えば同じ結果が待っている。ブラントのユナニマス・デシジョン勝ち」と語ったビンセント・パーラ氏(WBO世界スーパーライト級王者モーリス・フッカー=米=のメイントレーナー)に再会。村田が2回TKO勝ちでブラントを一蹴してリベンジを果たした試合を振り返ってもらった。

 「ボクシングではいかなることも起こり得る。特にワールドレベルでは。村田は作戦を実行した。ブラントはダメージを受け回復しなかった。ブラントが海外遠征のため体調が万全でなかったという噂も聞いたけど、自分でアウェーを選択したのだからエキスキューズはできない。村田の勝因?今回は集中力の賜物だろう。何も失うものがない――という決意もあったんじゃないかな。私は村田の勝利に敬服する。彼はカット・オフ・ザ・リング(相手に逃げ道を与えない戦法)を実行しダメージからリカバリーさせなかった。同時にブラントは恥ずかしく思うことはない。グッドなトップボクサーに負けたのだから」

 さて、日本のスポーツ紙やネットメディアが伝えるところでは村田と彼の陣営はビッグマッチ志向を全面的に打ち出した。ターゲットはミドル級3冠統一チャンピオンのサウル“カネロ”アルバレス(メキシコ)と前3冠統一王者“GGG”ことゲンナジー・ゴロフキン(カザフスタン)。このトップ2はスポーツ動画配信サービスDAZNと大型契約を結んでいる。一方、村田の米国の共同プロモーターはトップランク。今回のブラント戦もそうだったが、スポーツ専門テレビESPNが試合を中継する。

スーパーライト級統一戦は好例

 そこにはプロモーターとテレビのバリアが存在する。いくらファンの間で対戦機運が盛り上がり、交渉が進展しても簡単には運ばないのがボクシング・ビジネスの常識だ。だがパーラ氏が指導するフッカーとWBC世界スーパーライト級王者ホセ・ラミレス(メキシコ)の統一戦が今月27日、テキサス州アーリントンで行われる。フッカーはDAZN、ラミレスはトップランク&ESPN傘下の選手。パーラ氏にもう一度聞いた。

「ラミレスvsフッカーは好例。プロモーターやネットワークが違っても試合がアレンジできることを証明した。両陣営とも試合締結にマネーを惜しまなかった。選手もファンもハッピー。村田もビッグネームたちに対戦を呼びかけるアクションを起こす価値は十分あるよ。ただし彼の人気は今のところ日本国内限定だ。カネロとGGGにはビッグマッチの経験が豊富。ESPNはともかくDAZNの方針に今、沿えるとは言い難い。でもどんなことでも可能性がある。正当なディール(交渉)は必ず締結すると思う」

WBO世界スーパーライト級王者フッカー(写真左)をコーチするパーラ氏(Photo:筆者)
WBO世界スーパーライト級王者フッカー(写真左)をコーチするパーラ氏(Photo:筆者)

カネロにマネーが集結

 カネロ、ゴロフキン以外にもう一人、村田が標的を定めたい選手に同氏はデメトゥリアス・アンドラーデ(WBO世界ミドル級王者=米)を推薦する。

 「彼はチャンピオンの一人で防衛を重ねている。彼がどれだけ強いか本当に試される機会がまだ訪れていない。でもデメトゥリアス・アンドラーデは疑いなく世界のミドルウエートのベストな一人。どの相手にもタフなファイトを強いるだろうし、もしかしたらミドル級最強かもしれない」とサウスポーのテクニシャンを絶賛。リスクは大きいが村田にはリターンが巨大だと主張する。

 その村田が絡むミドル級周辺に関してパーラ氏を通してDAZNの事情に詳しい関係者に接触してみた。そうすると、ひとしきりDAZNに所属するチャンピオンたちの質量を吹聴した後こう言った。

 「ここアメリカではカネロの行くところに多くのマネーが生まれる。マッチルームUSAのエディ・ハーン・プロモーターがボクシング・ビジネスを根底からチェンジしている。ESPNも健闘しているけど、ボクシングでビッグマッチを提供しているのはDAZNだ。ジョシュアvsルイスもしかり。村田はこちらに来たがっている、あるいはアメリカに恋しているんじゃないかな。それともホームカントリーで満足するのだろうか。もし来たいのなら即、彼のプロモーターに進言して、何がなんでもファイトすべきだね」

 DAZNの宣伝広告に聞こえるなら仕方ない。しかしこの関係者は村田がブラント戦で披露したガムシャラなアタック同様、積極的なマッチメークの姿勢が道を拓くと語ってはばからない。

カネロ、次はL・ヘビー級コバレフ?

 ところできょう、カネロが9月のメキシコ独立記念日に合わせたイベント(今年は9月14日)に出場を見合わせる通達を出した。理由は「ベストな対戦者が見つからなかった」

 ミドル級といっしょに1階級重いスーパーミドル級WBA“レギュラー”王者でもあるカネロは、もっと重いライトヘビー級のWBO王者セルゲイ・コバレフ(ロシア)との対戦交渉が持たれていた。また“本命”ゴロフキンとの第3戦も当然DAZNはリストアップしていた。

 しかしゴロフキン戦は進展せず、コバレフは無敗の指名挑戦者アンソニー・ヤード(英)との対戦に応じたため(8月24日ロシア・チェリャビンスク)ひとまずカネロ戦は消滅した。カネロが所属するゴールデンボーイ・プロモーションズによると、コバレフが勝てば年末、カネロ戦が実現する見込みだという。体重設定は168ポンドリミットのスーパーミドル級周辺に落ち着くもよう。

 もしコバレフ戦が締結されない場合、カネロの次戦の相手にはアンドラーデ、WBAスーパーミドル級“スーパー”王者カラム・スミス(英)と並びIBFから指名試合を通達されているセルゲイ・デレフヤンチェンコ(ウクライナ)がオプションにある。またWBOスーパーミドル級王者に就いた曲者ビリー・ジョー・サンダース(英)にも可能性があるが、スタイルとプロモーターの関係から進展は難しいだろう。

最新の防衛戦でマチェック・スレッキ(ポーランド)に判定勝ちしたアンドラーデ(写真右)(Photo:Ed Mulholland)
最新の防衛戦でマチェック・スレッキ(ポーランド)に判定勝ちしたアンドラーデ(写真右)(Photo:Ed Mulholland)

 ベルトを失うリスクを考慮するとデレフヤンチェンコに白羽の矢が立ってもおかしくないが、ウクライナ人はゴロフキンの次戦の候補者にも挙がっている。6月、無名選手スティーブ・ロールズ(カナダ)に4回KO勝ちでカネロとの第2戦から復帰したゴロフキンは今、無冠。カネロとの第3戦に執心するが、そのために欲しいのはミドル級のベルト。同じDAZN傘下のアンドラーデは格好の獲物だ。それでも前述のようにアンドラーデがアップセットを起こす結末も想定できる。

GGGの対戦候補に村田

 米国メディア、ボクシングニュース24ドットコムはゴロフキンの対戦候補に上記2人のほか、前ミドル級王者ダニエル・ジェイコブス(米)、カラム・スミス、サンダース、カレブ・プラント(米=IBFスーパーミドル級王者)、デビッド・ベナビデス(米=前WBCスーパーミドル級王者)を挙げている。そして8番目にやっと村田諒太の名前が続く。

 その記事に説明書きはついていない。しかし3位以下の順番が米国での知名度とも受け取れる。やっと村田はスタートラインに着いたともいえる。だが彼と陣営の発言から時間を無駄にすることは考えられない。感動の王座奪回の余勢をぶつけるのは今しかない。

ボクシング・ビート米国通信員

岩手県奥州市出身。近所にアマチュアの名将、佐々木達彦氏が住んでいたためボクシングの魅力と凄さにハマる。上京後、学生時代から外国人の草サッカーチーム「スペインクラブ」でプレー。81年メキシコへ渡り現地レポートをボクシング・ビートの前身ワールドボクシングへ寄稿。90年代に入り拠点を米国カリフォルニアへ移し、フロイド・メイウェザー、ロイ・ジョーンズなどを取材。メジャーリーグもペドロ・マルティネス、アルバート・プホルスら主にラテン系選手をスポーツ紙向けにインタビュー。好物はカツ丼。愛読書は佐伯泰英氏の現代もの。

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